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#12 夏
しおりを挟む──この街で。
「兄ちゃん兄ちゃん、アイスだって。」
短く揃えたばかりの髪が跳ねる。もっと長い方が栄えるな。二人で悩んで短くしたけれど、次は長く纏めてみよう。
「ん、メロンか。良いな。」
「夕張じゃないのね、あ、チョコもある。」
目まぐるしく動く。追うのに忙しくなってしまう。久慈川玲子。名前は大層だがうちの居候だ。料理や掃除に明るいから貸し借りは無いが。
「どっちもにするか? どっちかに決めるか?」
「ぅーん。悩むよね、兄ちゃん手伝ってくれると。」
「なんだよ、それ。一人だったらどっちにしたんだ?」
「ん。メロンかな。手伝ってくれるなら。」
面倒くさい。二つ注文して、好きに食わせた。茶髪で背は低い。悪い虫が付きそうな体付きではないが愛嬌があるから油断はならない。
「メロンうまー。あ、チョコどう?」
「普通に美味い。振ってあるチップが秀逸なヤツ。」
メロン味は普通そうだった。チョコ味はベースのチョコに加えてチョコチップが振られている。食感も味も好い。
「食べて良い?」
「だから両方買ったんだろ。ほら。」
「ん、ん、ん。んふふ、間接キスって言うのよ?」
やかましい。味も食感も気に入ったらしい。アイスを交換して歩いた。世間はすっかり夏だ。馴染みの和菓子屋の子が打ち水をしている。蕎麦屋は仕込み中か。未だ腹は減っていないが、そろそろ考えないといけない。
「あ、お昼ね。どうする?」
「ハンバーガー、」
「兼ねて懸案の奴ね。今日こそ行ってみる?」
そう言われると他が目に付く。鰻に肉の定食、冷うどん、ピザなんかも悪くないし、他にも魚を使った定食やら大盛りなんて言葉も目に付く。
「はぁ、世間って残酷よね。選べってんでしょ?」
「だな。困ったな。食べたいものばかりで迷子だ。」
暫く二人で歩いた。どれも美味そうだった。それより。
「ん。幸せだって、思ってくれた?」
「思った。ありがとな。昼は決まってないけど。」
「どう致しまして。昼が決まってないのが問題だけど。」
二人で笑った。目の前にパン屋があった。飲み物の自動販売機もある。これか。フレンチトーストは二人とも好きだ。ソーセージを包んだパンも神々しい。
「これだね。」
「これだな。」
二人で店に入る。ベーコンが目に入った。玲子の目はアップルパイに引っ張られた。三つか四つかで、少し悩んだ。見てから決めれば良いか。鼻先に良い匂いが漂っている。二人で笑って、足を進める。好き嫌いはあるが、最後はセンスだ。どっちが綺麗な昼食を作るか。賭けでもしてみようか。
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