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「トバイアス。この方は本当にルシアン殿下なのだな?」
「はい。私は王弟殿下のお屋敷からこの方にお供して参りました」
トバイアスが団長と呼んだマントの騎士が、僕の前まで来て一礼した。
「お初にお目にかかる」
僕はイライラして言った。
「面倒な挨拶はやめてくれる? 早くテオを捜しに行きたいんだよ」
「では、せめて状況を説明させていただきたい」
それは確かに聞いておいた方がいいかもしれない。
団長が言うには、テオは騎士の訓練を兼ねた魔物討伐に参加して、行方不明になったらしい。探索中に突然床が崩れ、数人の騎士と共に穴に落ちたそうだ。
先に負傷者を引き上げ、目立つ怪我がなかったテオが最後に残った。けれど、そこから更に崩落。声を掛けても反応がなく、どうにか穴の底に降りた時には、テオの姿はどこにもなかった。
「何かを引き摺ったような痕があったそうです。しかし、それも少しだけだったと」
とにかく。遺体は見つかっていないという。まだテオが生きている可能性はある。
「王弟殿下は魔法鞄をお持ちです。約十日分の食料と水生成の魔導具があるはずです。装備や荷物の一部、破れた服など、王弟殿下は何も残しておられません」
食料も水もまだテオが持っているかもしれないのだ。
「とにかくその穴に潜る。エリオット、行くよ」
「お待ちください!」
団長が僕を呼び止めた。思わず睨んでしまったのは仕方がないだろう?
顔を若干青褪めさせながら、団長が言う。
「騎士をお連れください。侍従ひとりだけを連れて行かれるなんて無謀というものです」
「別に無謀なんかじゃない。エリオットは強いからね」
嫌そうな顔しないでよ勇者様。褒めたんだからさ。
「ですが……」
面倒だなぁ。こんな所で時間を掛けたくないんだけど。
「じゃあ、トバイアス。一緒に来て」
「……私ですか!?」
トバイアスは僕の背中にしがみついていた影響でまだ少しふらついている。
「エリオット。何かトバイアスの疲労を回復できるものはない?」
勇者が深くため息をついた。
「ありますよ、ありますけど……あまりそういうものを見せると私の平穏な暮らしが……」
そこは諦めようか。僕ももう諦めたんだから。
エリオットは腰のポーチから一本の小瓶を出した。と、いうのは見せかけで。実際には収納魔法を使ったことがなんとなくわかってしまった。いいなあ、収納魔法。周りの騎士は全然気付いてないけど。
「これは強壮剤です。疲労を回復して活力をくれます。一時的なものですが」
つまり、ちゃんとした休息は必要ってことだ。まあ、不眠不休で捜索するつもりはない。僕たちが倒れたら助かるものも助からなくなる。
エリオットが渡した強壮剤は目に見えて効いて、トバイアスは「体が軽い」と驚いていた。
迷宮に入る前に、僕は二人に言った。
「僕は『獣化』のスキルの他には少しの治癒しか使えない。悪いけど、人間の姿では役立たずだと思って」
***
『深緑の迷宮』の入り口は森の中にある。石でできた建造物の床に描かれた転移魔法陣がそれ。魔法陣は踏むと十秒ほどで起動するという。
同時に転移したい場合は、仲間の体のどこかに触れている必要がある。エリオットもトバイアスも僕に触れることを躊躇ったので、僕が二人の腕を掴んだ。
強い目眩のような感覚の後、目の前の景色は一変していた。
「ここが……迷宮の中?」
僕は周囲を見渡した。床も壁も石でできているようで、磨き上げたみたいに平らだった。あまり広い空間ではなく、石壁の仕切りのようなものが見えて、その区切られた中にひとつずつ、魔法陣があった。
「僕が知っている迷宮とかなり違う……」
タルマール王国で見た迷宮は、もっと自然の洞窟っぽい印象だったけど。
「ここは転移階層と呼ばれている場所です」
トバイアスが説明してくれた。僕が知っている迷宮にそんなものはなかった。
「深緑の迷宮は転移階層とは別に三つの階層でできていて、魔法陣はそれぞれの階層に繋がっています。ただし、第一階層に繋がる魔法陣以外は、一度もその階層に行ったことのない者が乗ると起動しません」
つまり、二度目からはショートカットできるわけか……
「床が崩落したのは第一階層ですので、今回はそちらの一番右の魔法陣以外、無視して……」
魔法陣に近付こうとしたトバイアスが、数歩で足を止めた。呆然と呟く。
「魔法陣が増えた……?」
「え?」
「転移階層が以前より広くなっています。こんな曲がり角なんてなかったはず……向こうの魔法陣二つも……」
トバイアスはその増えたという魔法陣を熱心に見つめている。
「ちょっと。今は無視していいんでしょう。そんなことよりもテオを……」
「そうでした。申し訳ございません」
「……見て何かわかるものなの」
元々は僕だって迷宮に興味がある。こんな時じゃなければ、迷宮が広がったかもしれないなんてわくわくするんだけど。
「魔法陣自体は現在の技術で読み解けるものではありません。ですが、いくつかの模様の意味らしきものが解読されています」
「そうなんだ」
「あちらの魔法陣は今まで発見されていた階層とは別の場所に転移するものと、その転移先から戻る一方向の、こちらからは起動できない魔法陣のようです。帰還用の魔法陣自体は今までにもあったはずなのですが……」
詳しいな、トバイアス。あとちょっと早口になってる。オタクか。
「単純に四つ目の階層が追加されたのか、まったく別のどこかなのか、私では判別しきれません。専門家を派遣してもらわないと……」
「後でね。今はテオが最優先」
「はい。もちろんです」
エリオットはトバイアスに口外無用を頼んでから、どこからともなく革の胸当て、篭手、脛当て、短剣を二本とそれを下げるための剣帯を取り出した。双剣使いであるらしい。
「まさか……収納魔法とは……」
トバイアスが驚愕している。まあ、驚くよね。収納魔法の使用者なんて、この世界では伝説的な存在だ。
装備を整えたエリオットが頼んできた。
「戦闘になれば、私の言動がお二人に対して失礼なものになるかもしれません。命を守るためと思って、どうかお許しください」
「いいよ、許す」
王子である僕が許すのだ。トバイアスにも文句を言わせるつもりはない。
「はい。私は王弟殿下のお屋敷からこの方にお供して参りました」
トバイアスが団長と呼んだマントの騎士が、僕の前まで来て一礼した。
「お初にお目にかかる」
僕はイライラして言った。
「面倒な挨拶はやめてくれる? 早くテオを捜しに行きたいんだよ」
「では、せめて状況を説明させていただきたい」
それは確かに聞いておいた方がいいかもしれない。
団長が言うには、テオは騎士の訓練を兼ねた魔物討伐に参加して、行方不明になったらしい。探索中に突然床が崩れ、数人の騎士と共に穴に落ちたそうだ。
先に負傷者を引き上げ、目立つ怪我がなかったテオが最後に残った。けれど、そこから更に崩落。声を掛けても反応がなく、どうにか穴の底に降りた時には、テオの姿はどこにもなかった。
「何かを引き摺ったような痕があったそうです。しかし、それも少しだけだったと」
とにかく。遺体は見つかっていないという。まだテオが生きている可能性はある。
「王弟殿下は魔法鞄をお持ちです。約十日分の食料と水生成の魔導具があるはずです。装備や荷物の一部、破れた服など、王弟殿下は何も残しておられません」
食料も水もまだテオが持っているかもしれないのだ。
「とにかくその穴に潜る。エリオット、行くよ」
「お待ちください!」
団長が僕を呼び止めた。思わず睨んでしまったのは仕方がないだろう?
顔を若干青褪めさせながら、団長が言う。
「騎士をお連れください。侍従ひとりだけを連れて行かれるなんて無謀というものです」
「別に無謀なんかじゃない。エリオットは強いからね」
嫌そうな顔しないでよ勇者様。褒めたんだからさ。
「ですが……」
面倒だなぁ。こんな所で時間を掛けたくないんだけど。
「じゃあ、トバイアス。一緒に来て」
「……私ですか!?」
トバイアスは僕の背中にしがみついていた影響でまだ少しふらついている。
「エリオット。何かトバイアスの疲労を回復できるものはない?」
勇者が深くため息をついた。
「ありますよ、ありますけど……あまりそういうものを見せると私の平穏な暮らしが……」
そこは諦めようか。僕ももう諦めたんだから。
エリオットは腰のポーチから一本の小瓶を出した。と、いうのは見せかけで。実際には収納魔法を使ったことがなんとなくわかってしまった。いいなあ、収納魔法。周りの騎士は全然気付いてないけど。
「これは強壮剤です。疲労を回復して活力をくれます。一時的なものですが」
つまり、ちゃんとした休息は必要ってことだ。まあ、不眠不休で捜索するつもりはない。僕たちが倒れたら助かるものも助からなくなる。
エリオットが渡した強壮剤は目に見えて効いて、トバイアスは「体が軽い」と驚いていた。
迷宮に入る前に、僕は二人に言った。
「僕は『獣化』のスキルの他には少しの治癒しか使えない。悪いけど、人間の姿では役立たずだと思って」
***
『深緑の迷宮』の入り口は森の中にある。石でできた建造物の床に描かれた転移魔法陣がそれ。魔法陣は踏むと十秒ほどで起動するという。
同時に転移したい場合は、仲間の体のどこかに触れている必要がある。エリオットもトバイアスも僕に触れることを躊躇ったので、僕が二人の腕を掴んだ。
強い目眩のような感覚の後、目の前の景色は一変していた。
「ここが……迷宮の中?」
僕は周囲を見渡した。床も壁も石でできているようで、磨き上げたみたいに平らだった。あまり広い空間ではなく、石壁の仕切りのようなものが見えて、その区切られた中にひとつずつ、魔法陣があった。
「僕が知っている迷宮とかなり違う……」
タルマール王国で見た迷宮は、もっと自然の洞窟っぽい印象だったけど。
「ここは転移階層と呼ばれている場所です」
トバイアスが説明してくれた。僕が知っている迷宮にそんなものはなかった。
「深緑の迷宮は転移階層とは別に三つの階層でできていて、魔法陣はそれぞれの階層に繋がっています。ただし、第一階層に繋がる魔法陣以外は、一度もその階層に行ったことのない者が乗ると起動しません」
つまり、二度目からはショートカットできるわけか……
「床が崩落したのは第一階層ですので、今回はそちらの一番右の魔法陣以外、無視して……」
魔法陣に近付こうとしたトバイアスが、数歩で足を止めた。呆然と呟く。
「魔法陣が増えた……?」
「え?」
「転移階層が以前より広くなっています。こんな曲がり角なんてなかったはず……向こうの魔法陣二つも……」
トバイアスはその増えたという魔法陣を熱心に見つめている。
「ちょっと。今は無視していいんでしょう。そんなことよりもテオを……」
「そうでした。申し訳ございません」
「……見て何かわかるものなの」
元々は僕だって迷宮に興味がある。こんな時じゃなければ、迷宮が広がったかもしれないなんてわくわくするんだけど。
「魔法陣自体は現在の技術で読み解けるものではありません。ですが、いくつかの模様の意味らしきものが解読されています」
「そうなんだ」
「あちらの魔法陣は今まで発見されていた階層とは別の場所に転移するものと、その転移先から戻る一方向の、こちらからは起動できない魔法陣のようです。帰還用の魔法陣自体は今までにもあったはずなのですが……」
詳しいな、トバイアス。あとちょっと早口になってる。オタクか。
「単純に四つ目の階層が追加されたのか、まったく別のどこかなのか、私では判別しきれません。専門家を派遣してもらわないと……」
「後でね。今はテオが最優先」
「はい。もちろんです」
エリオットはトバイアスに口外無用を頼んでから、どこからともなく革の胸当て、篭手、脛当て、短剣を二本とそれを下げるための剣帯を取り出した。双剣使いであるらしい。
「まさか……収納魔法とは……」
トバイアスが驚愕している。まあ、驚くよね。収納魔法の使用者なんて、この世界では伝説的な存在だ。
装備を整えたエリオットが頼んできた。
「戦闘になれば、私の言動がお二人に対して失礼なものになるかもしれません。命を守るためと思って、どうかお許しください」
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