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眠い頭でどうにか、トバイアスが僕から離れるかもしれないということだけを理解した。
「ええ? 困るよ、誰が僕を運ぶの?」
「は、運ぶ?」
ラスが驚いている。なんで?
「だって、トバイアスがいないと僕が乗る場所ないじゃない……」
ラスがエリオットを見た。
「神獣様の乗る場所とは、どういうことだ」
「んー? だってぇ……」
まだ眠い。ふわふわしている。
「トバイアスはずーっと僕を運んでくれてるし、エリオットの肩には乗りにくそうだから?」
「あの男は神獣様をここまで運んで来たのか?」
「そうですね。彼の荷物にはちょうどルシィ様のお席を作ることができたので……」
「神獣様の信奉者なのか? そうは見えないが」
「えー? トバイアスが僕を信奉してるの?」
なんだか面白くて、僕はくすくす笑った。
「そうかもねぇ……僕が見上げるほど大きくても怖がらなかったしぃ、案外、熱心な信者だったりしてー」
ラスが驚愕し、目を剥いた。面白い顔。
ああ。駄目だ、眠い……僕はもう一度、ぱたりと横になった。
***
再び目を覚ました時、僕はエリオットに背負われていた。一瞬、荷物はどうしたのかと思ったけど、そもそもこの勇者様は収納魔法で何でも運べるので荷物らしい荷物は持っていなかった。
「お目覚めですか」
「あれ? なんで?」
「ルシィ様を無理に起こすのも忍びなく、私が運ばせていただいています」
僕はハッとして後ろを振り向いた。
「……トバイアスは!?」
「横におります。殿下」
あ、良かった。右側にいた。
「置いて行かれてなかった」
「神獣様や獣神様の信者であれば、我ら獣人の仲間だからな」
「……え?」
『人間を里には連れていけないと言うので、そういうことにして丸め込んだんですよ』
頭の中に声がした。これ、エリオット?
他の二人は反応していない。内緒話のようだ。
『なんで、念話を』
『言ったでしょう。きちんとイメージできるものは魔法として発動できるんです。あなたの真似をさせていただきました』
つまりこれは、スキルの念話ではなく、魔力を使った魔法なのか。
『勇者様ちょっとハイスペックすぎない?』
『その呼び方は……まあ、全て女神のせいです』
それは確かに。全部エデルダーナが悪い。
薄暗い洞窟の中を歩いていたはずの視界が、急に明るくなった。空が見える。それに草原と、少し離れた所には森が。
「え、外?」
「いや、ここも迷宮の中だ」
ラスはそう言うけど、迷宮の外に出たようにしか見えない。後ろには、今まで歩いていたはずの通路が、岩山の洞窟として見えていた。
「このような場所が……」
トバイアスが嘆息と共に呟いた。
「この近くに獣人の里がある。神獣様の番はそこで治療を受けている」
「そうか……ありがとう」
そう礼を言ったあと、ハッとした。
「エリオット、下ろして。流石にいつまでも背負われているのは」
「おや。私よりもトバイアスがよろしいですか」
そういうわけじゃないけど。
「……少しは自分で歩きたい」
目的地までちゃんと歩けるとは断言できないのが辛いところだ。
木々の間に柵が見えた。明らかに誰かが作り、管理している。迷宮に元々あるものだとは思えなかった。柵は二重になっていた。二つ目の柵の向こうに木造の小屋がいくつもあった。
「ようこそ、神獣様。ここが獣人の里だ」
ラスが得意げに笑って振り返った。でも、僕には周囲を見る余裕すらなく。適当に獣化して走り出した。
「ルシィ様!」
「行かせてやれ」
テオの匂いがした。まっすぐに、それを辿って走った。獣人らしき姿がちらほら見える。驚かれたけど、気にしていられない。
テオの匂いはひときわ大きな建物に繋がっていた。そこからは、血の臭いと青臭いような薬の匂いがした。中にいくつか弱った生き物の気配がある。
ガラスのない窓から飛び込むと、悲鳴が上がった。
「誰!? 獣化したまま入ってくるなんて!」
そんな声を聞いた気がした。僕はその部屋を横切って奥に進んだ。
『テオ!』
匂いがする。気配がする。なのに、念話が、念話がうまく繋がらない。ちゃんと伝わっていないのがわかる。意識がないのか。
『テオ!?』
違う、ここじゃない。二つ目の部屋には獣人が寝ていた。怪我か病気かわからないけど、弱っているらしい。ここは病院代わりの建物なのか。
「こちらです!!」
治癒士か薬師か。獣人がひとり、扉を開けて僕を呼んだ。
そこは部屋ではなく中庭だった。小さな丸い泉のようなものがあって、そこから水を引いているのか、浅くて広い……浴槽、いや水槽かな、これは。テオはその水の中に裸で、溺れないように寝かされていた。顔色は悪くて、意識がなかった。
「ここの水には治癒の力があります」
先ほど僕を招き入れてくれた獣人が静かな声で説明してくれた。
「番様はかなり危険な状態でした。どうにか命を繋ぐことはできましたが、まだ水から出すことができません……」
水は常に流れているらしかった。泉から水槽、そこから更に小川になって、建物の外へ。
「テオ」
僕は獣化を解いてテオの傍らに膝をついた。そっと頬に触れてみる。冷たいわけではない。けれど、暖かくもない。
元々体温が高いテオがこんなに冷えているなんて。
「……どうしたら」
獣人を見上げる。痛ましげな視線が返ってきた。
「ここではこれ以上の治療は……」
騒がしい物音が近付いてきた。エリオットたちが追いついてきたのだ。
「テオ様……」
水の中に寝かされているテオを見て、エリオットは今にも泣き出しそうな顔をした。
「ルシィ様、テオ様は」
「生きてる」
それ以上、僕に何が言えるだろう。
勇者の目からひと雫、涙が頬を伝うのが見えた。それを拭うこともせず、エリオットは何もない空中から小瓶をひとつ掴み取った。
「これは数ヶ月前に、私がその時の最善の素材を使って勇者の全力で創り出した回復薬です。魔力回路障害を治すことはできないとわかって、使わずに保管していました」
エリオットはその小瓶を僕に押し付けた。
「原因が怪我なら、治せるはずです」
そういう物があるなら、先に言ってよ。
「ええ? 困るよ、誰が僕を運ぶの?」
「は、運ぶ?」
ラスが驚いている。なんで?
「だって、トバイアスがいないと僕が乗る場所ないじゃない……」
ラスがエリオットを見た。
「神獣様の乗る場所とは、どういうことだ」
「んー? だってぇ……」
まだ眠い。ふわふわしている。
「トバイアスはずーっと僕を運んでくれてるし、エリオットの肩には乗りにくそうだから?」
「あの男は神獣様をここまで運んで来たのか?」
「そうですね。彼の荷物にはちょうどルシィ様のお席を作ることができたので……」
「神獣様の信奉者なのか? そうは見えないが」
「えー? トバイアスが僕を信奉してるの?」
なんだか面白くて、僕はくすくす笑った。
「そうかもねぇ……僕が見上げるほど大きくても怖がらなかったしぃ、案外、熱心な信者だったりしてー」
ラスが驚愕し、目を剥いた。面白い顔。
ああ。駄目だ、眠い……僕はもう一度、ぱたりと横になった。
***
再び目を覚ました時、僕はエリオットに背負われていた。一瞬、荷物はどうしたのかと思ったけど、そもそもこの勇者様は収納魔法で何でも運べるので荷物らしい荷物は持っていなかった。
「お目覚めですか」
「あれ? なんで?」
「ルシィ様を無理に起こすのも忍びなく、私が運ばせていただいています」
僕はハッとして後ろを振り向いた。
「……トバイアスは!?」
「横におります。殿下」
あ、良かった。右側にいた。
「置いて行かれてなかった」
「神獣様や獣神様の信者であれば、我ら獣人の仲間だからな」
「……え?」
『人間を里には連れていけないと言うので、そういうことにして丸め込んだんですよ』
頭の中に声がした。これ、エリオット?
他の二人は反応していない。内緒話のようだ。
『なんで、念話を』
『言ったでしょう。きちんとイメージできるものは魔法として発動できるんです。あなたの真似をさせていただきました』
つまりこれは、スキルの念話ではなく、魔力を使った魔法なのか。
『勇者様ちょっとハイスペックすぎない?』
『その呼び方は……まあ、全て女神のせいです』
それは確かに。全部エデルダーナが悪い。
薄暗い洞窟の中を歩いていたはずの視界が、急に明るくなった。空が見える。それに草原と、少し離れた所には森が。
「え、外?」
「いや、ここも迷宮の中だ」
ラスはそう言うけど、迷宮の外に出たようにしか見えない。後ろには、今まで歩いていたはずの通路が、岩山の洞窟として見えていた。
「このような場所が……」
トバイアスが嘆息と共に呟いた。
「この近くに獣人の里がある。神獣様の番はそこで治療を受けている」
「そうか……ありがとう」
そう礼を言ったあと、ハッとした。
「エリオット、下ろして。流石にいつまでも背負われているのは」
「おや。私よりもトバイアスがよろしいですか」
そういうわけじゃないけど。
「……少しは自分で歩きたい」
目的地までちゃんと歩けるとは断言できないのが辛いところだ。
木々の間に柵が見えた。明らかに誰かが作り、管理している。迷宮に元々あるものだとは思えなかった。柵は二重になっていた。二つ目の柵の向こうに木造の小屋がいくつもあった。
「ようこそ、神獣様。ここが獣人の里だ」
ラスが得意げに笑って振り返った。でも、僕には周囲を見る余裕すらなく。適当に獣化して走り出した。
「ルシィ様!」
「行かせてやれ」
テオの匂いがした。まっすぐに、それを辿って走った。獣人らしき姿がちらほら見える。驚かれたけど、気にしていられない。
テオの匂いはひときわ大きな建物に繋がっていた。そこからは、血の臭いと青臭いような薬の匂いがした。中にいくつか弱った生き物の気配がある。
ガラスのない窓から飛び込むと、悲鳴が上がった。
「誰!? 獣化したまま入ってくるなんて!」
そんな声を聞いた気がした。僕はその部屋を横切って奥に進んだ。
『テオ!』
匂いがする。気配がする。なのに、念話が、念話がうまく繋がらない。ちゃんと伝わっていないのがわかる。意識がないのか。
『テオ!?』
違う、ここじゃない。二つ目の部屋には獣人が寝ていた。怪我か病気かわからないけど、弱っているらしい。ここは病院代わりの建物なのか。
「こちらです!!」
治癒士か薬師か。獣人がひとり、扉を開けて僕を呼んだ。
そこは部屋ではなく中庭だった。小さな丸い泉のようなものがあって、そこから水を引いているのか、浅くて広い……浴槽、いや水槽かな、これは。テオはその水の中に裸で、溺れないように寝かされていた。顔色は悪くて、意識がなかった。
「ここの水には治癒の力があります」
先ほど僕を招き入れてくれた獣人が静かな声で説明してくれた。
「番様はかなり危険な状態でした。どうにか命を繋ぐことはできましたが、まだ水から出すことができません……」
水は常に流れているらしかった。泉から水槽、そこから更に小川になって、建物の外へ。
「テオ」
僕は獣化を解いてテオの傍らに膝をついた。そっと頬に触れてみる。冷たいわけではない。けれど、暖かくもない。
元々体温が高いテオがこんなに冷えているなんて。
「……どうしたら」
獣人を見上げる。痛ましげな視線が返ってきた。
「ここではこれ以上の治療は……」
騒がしい物音が近付いてきた。エリオットたちが追いついてきたのだ。
「テオ様……」
水の中に寝かされているテオを見て、エリオットは今にも泣き出しそうな顔をした。
「ルシィ様、テオ様は」
「生きてる」
それ以上、僕に何が言えるだろう。
勇者の目からひと雫、涙が頬を伝うのが見えた。それを拭うこともせず、エリオットは何もない空中から小瓶をひとつ掴み取った。
「これは数ヶ月前に、私がその時の最善の素材を使って勇者の全力で創り出した回復薬です。魔力回路障害を治すことはできないとわかって、使わずに保管していました」
エリオットはその小瓶を僕に押し付けた。
「原因が怪我なら、治せるはずです」
そういう物があるなら、先に言ってよ。
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