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〇2章【波乱と温泉】
9節~熱~ 1
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汗が、肌の上を小川みたいに延々と流れ落ちていく。
そのたびに、バスタオルがしっとりと重みを増す。
「……あつい……あつい……」
脱衣所に戻ったキリカは、まるで逃げ込むように扇風機の前へへたり込んだ。
バスタオルを胸元に引き寄せながら、床に膝をつき、扇風機の風を真正面から浴びる。
羞恥心や姿勢を気にする余裕などない。
「隠す」「恥ずかしい」なんて意識は、熱に溶かされてどこかへ飛んでいった。
今の彼女には、人として最低限の尊厳よりも、とにかく一瞬でも早く体温を下げることが至上命題だった。
ごぉ、と音を立てながら回る扇風機の風が、ほてった体を乱暴に撫でる。
キリカの髪は風に煽られ、乾いた草のようにばさばさと舞った。
「何で苦手なのにサウナなんか行くかなぁ、明坂ちゃんは」
しおりが肩にタオルを掛けたまま覗き込み、声を押し殺して笑う。
「だ、だって……」
ひゅうっと息を吐くたび、体の芯に残る熱がじりじりと湯気になって抜けていくようだった。
「水風呂は? 入らなかったの?」
「……あんなの入ったら、心臓が止まります」
扇風機から放たれる強風で、キリカの髪が揺れる。
しおりは、「明坂ちゃんって、意外と考えなしだよね」と笑った。
「私は楽しかったですけど~」
横で、ももが髪の毛をタオルでぽんぽん叩きながら、にこにこと言った。
頬がほんのり赤く、熱気の余韻がまだ残っている。
「サウナから茹でダコみたいな顔した明坂ちゃんが出てきたときはビックリしたなぁ」
ちひろがバスタオルで腕を拭きながら、にやりと笑う。
そのまま無邪気に首を傾げた。
「で、二人でなに話してたの~?」
問いかけがふわりと飛んだ瞬間、キリカは扇風機の風に身を預けたまま、動きを止める。
横顔は変わらないのに、肩のあたりだけ、そっと硬くなった。
わずかな瞬き。サウナにいた時と同じ熱がまだ喉の奥で渦を巻いているようだった。
「えへへ、秘密の話ですっ! ね、明坂せんぱい?」
「え~っ! なになに、意味深っ!」
ももの言葉と、ちひろの反応に、キリカは「……そうですね」と風に揺れる声で返事を返した。
たじろぎながらも、その言葉には少しだけ重さが乗っていた。
熱気の中、ももの言葉の裏にあった想いが、まだ胸の奥をそっと刺している。
初めて知った、彼女の本気。
そして、自分の中の何かを照らされた気がして、どこを見ていいのか分からなかった。
「も~、やってることマジで修学旅行じゃん」
しおりが化粧水を塗りながら笑う。
脱衣所の奥では、浴衣に着替えたすみれがマッサージチェアに沈み込んでいた。
「はぁ~~……極楽……これ、持って帰りたい……」
「自分で買いなさい」
「……会社の椅子を、全部これにするっていうのはどうだろう……」
「肩こり知らずのオフィスってことでバズらせよ」
くだらない会話に、ゆるい笑いが落ちる。
まるで湯気の残り香みたいに、ふわっと場に漂っていく。
「すみれ~、寝ちゃダメだよ。まだ終わりじゃないんだから!」
「そうそう。このあとは、修学旅行じゃ味わえない時間だからね」
そんな様子を眺めながら、キリカもゆっくり立ち上がる。
まだ胸の奥が少し熱い。
それはサウナの熱なのか、言葉にできない感情の余韻なのか。
タオルの隙間を縫う扇風機の風が、ようやく熱を押し流していく。
それでも胸の鼓動だけは、ぽつぽつと熱の名残りを刻んでいた。
「まだ集合までに時間あるなぁ。いっかい部屋に戻ります?」
「うん、それか、またカフェで時間潰してもいいかもね」
「もう飲み始めてる人、いるんじゃない?」
着々と身支度を整えていく三人を横目に、キリカもやっと腰を上げた。
タオルを握る手に、まだじんとくる熱が残っている。
長く息を吐くと、喉の奥がきゅっとつまるように乾いていた。
ふと横を向くと、ももが下着姿で汗を拭っていた。
その視線がカチリと交わる。
彼女も体の火照りが取れない様子で、タオルで額をポンポンと折り重ねるように押さえている。
「あっ、せんぱい! 髪の毛乾かしてあげましょうか?」
「……いや、自分でやりますから」
ぶっきらぼうな言葉が口から出るのに、顔は自然にゆるんだ。
「え~っ」と抗議しながら、ももはキリカの頭にふわっとタオルを乗せる。
少しずつ仲良くなっていく後輩二人を見ながら、しおりたちは顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
そのたびに、バスタオルがしっとりと重みを増す。
「……あつい……あつい……」
脱衣所に戻ったキリカは、まるで逃げ込むように扇風機の前へへたり込んだ。
バスタオルを胸元に引き寄せながら、床に膝をつき、扇風機の風を真正面から浴びる。
羞恥心や姿勢を気にする余裕などない。
「隠す」「恥ずかしい」なんて意識は、熱に溶かされてどこかへ飛んでいった。
今の彼女には、人として最低限の尊厳よりも、とにかく一瞬でも早く体温を下げることが至上命題だった。
ごぉ、と音を立てながら回る扇風機の風が、ほてった体を乱暴に撫でる。
キリカの髪は風に煽られ、乾いた草のようにばさばさと舞った。
「何で苦手なのにサウナなんか行くかなぁ、明坂ちゃんは」
しおりが肩にタオルを掛けたまま覗き込み、声を押し殺して笑う。
「だ、だって……」
ひゅうっと息を吐くたび、体の芯に残る熱がじりじりと湯気になって抜けていくようだった。
「水風呂は? 入らなかったの?」
「……あんなの入ったら、心臓が止まります」
扇風機から放たれる強風で、キリカの髪が揺れる。
しおりは、「明坂ちゃんって、意外と考えなしだよね」と笑った。
「私は楽しかったですけど~」
横で、ももが髪の毛をタオルでぽんぽん叩きながら、にこにこと言った。
頬がほんのり赤く、熱気の余韻がまだ残っている。
「サウナから茹でダコみたいな顔した明坂ちゃんが出てきたときはビックリしたなぁ」
ちひろがバスタオルで腕を拭きながら、にやりと笑う。
そのまま無邪気に首を傾げた。
「で、二人でなに話してたの~?」
問いかけがふわりと飛んだ瞬間、キリカは扇風機の風に身を預けたまま、動きを止める。
横顔は変わらないのに、肩のあたりだけ、そっと硬くなった。
わずかな瞬き。サウナにいた時と同じ熱がまだ喉の奥で渦を巻いているようだった。
「えへへ、秘密の話ですっ! ね、明坂せんぱい?」
「え~っ! なになに、意味深っ!」
ももの言葉と、ちひろの反応に、キリカは「……そうですね」と風に揺れる声で返事を返した。
たじろぎながらも、その言葉には少しだけ重さが乗っていた。
熱気の中、ももの言葉の裏にあった想いが、まだ胸の奥をそっと刺している。
初めて知った、彼女の本気。
そして、自分の中の何かを照らされた気がして、どこを見ていいのか分からなかった。
「も~、やってることマジで修学旅行じゃん」
しおりが化粧水を塗りながら笑う。
脱衣所の奥では、浴衣に着替えたすみれがマッサージチェアに沈み込んでいた。
「はぁ~~……極楽……これ、持って帰りたい……」
「自分で買いなさい」
「……会社の椅子を、全部これにするっていうのはどうだろう……」
「肩こり知らずのオフィスってことでバズらせよ」
くだらない会話に、ゆるい笑いが落ちる。
まるで湯気の残り香みたいに、ふわっと場に漂っていく。
「すみれ~、寝ちゃダメだよ。まだ終わりじゃないんだから!」
「そうそう。このあとは、修学旅行じゃ味わえない時間だからね」
そんな様子を眺めながら、キリカもゆっくり立ち上がる。
まだ胸の奥が少し熱い。
それはサウナの熱なのか、言葉にできない感情の余韻なのか。
タオルの隙間を縫う扇風機の風が、ようやく熱を押し流していく。
それでも胸の鼓動だけは、ぽつぽつと熱の名残りを刻んでいた。
「まだ集合までに時間あるなぁ。いっかい部屋に戻ります?」
「うん、それか、またカフェで時間潰してもいいかもね」
「もう飲み始めてる人、いるんじゃない?」
着々と身支度を整えていく三人を横目に、キリカもやっと腰を上げた。
タオルを握る手に、まだじんとくる熱が残っている。
長く息を吐くと、喉の奥がきゅっとつまるように乾いていた。
ふと横を向くと、ももが下着姿で汗を拭っていた。
その視線がカチリと交わる。
彼女も体の火照りが取れない様子で、タオルで額をポンポンと折り重ねるように押さえている。
「あっ、せんぱい! 髪の毛乾かしてあげましょうか?」
「……いや、自分でやりますから」
ぶっきらぼうな言葉が口から出るのに、顔は自然にゆるんだ。
「え~っ」と抗議しながら、ももはキリカの頭にふわっとタオルを乗せる。
少しずつ仲良くなっていく後輩二人を見ながら、しおりたちは顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
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