魔竜の鍛冶師 ~封印されていた溶鉱の魔竜と契約したら鍛冶師でありながら世界最強になってしまったけど、実はあんまり戦いたくない~

紙風船

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転職鍛冶師編

第2話 此処は異世界。新たな職場です。

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 此処は地球とは異なる世界。数多くある国の一つ、【フラジャイル】というらしい。その王都、【エフェメラル】が僕達が居る場所である。

 僕に異世界転移の事実を突き付けたアジア顔の男……吉田宗人よしだむねひとさんは今、僕に突き付けられた現実を教えてくれた。

壊れ物・・・の国、か」
「私達にとっては儚い・・夢のような場所なのかもしれませんね……しかし此処は現実。今後の話をしましょう。ではクレスタ陛下、規定通り彼は此方で預かります」
「うむ」

 妙に甲高い声の王様に一応一礼し、吉田さんの後についていく。謁見の間を出て長い廊下を進む。何処へ向かうのかは途中で聞かされた。其処では僕のような異世界転移者を支サポートする団体が作られているとのことだ。

 僕や吉田さん以外にも多くの転移被害者が居ることは想像に難くない。僕と同じく転移被害者である吉田さんも、被害者でありながら其処で働いていることに尊敬の念を覚えた。淀みない足取りで向かったのは廊下の途中にある磨かれた立派な木製の扉の前だった。

「此処が私の職場でもあり、転移被害者支援団体【異世界職業安定所】です」
「此処に来てハロワかぁ……」
「生きていくには仕事ですよ、三千院さん! 職業訓練をして手に職を!」
「はぁぁ……まぁ転職したかったし、渡りに船か……」

 王都エフェメラレルの中心に建つ王城【ホワイトヴェイン】。その一室に作られた職安には、数人の日本人が詰め込まれていた。職員は吉田さんだけとは思ってはいなかったが、どうやらかなりの日本人がサポート側に回っているらしい。これも日本ならではの助け合いの精神か。

 しかしその日本人に紛れて金髪の女性も丁寧な言葉で日本人の世話をしていた。身に着けているのは硬そうな甲冑だが、物腰はとても柔らかい。

「彼女に教わることもありますよ」
「日本語話せるんですね」
「転移の際に言語野を弄られるらしくて、此方の言葉が分かるようになるんです。聞こえているのは日本語かもしれませんが、彼等が話しているのは外国語……いや、外世語です」

 さらっと恐ろしいことを言うじゃないか吉田さん……。その言語野弄りは魔法陣の仕組みか、はたまた世界渡航の仕組みか。

「実際、弄られてるのは言語野だけではないんだけれどね……もっと広い意味で考えれば、その体、魂ですら手を加えられてるのではないか、今存在している自分は日本に居た頃の自分と同じ自分なのか、なんて研究もしている人は居るけれど……と、すみません、脱線しました。まずは自分と、そして世界のことを知るところから始めましょう」

 半ば自語りのような言葉は、僕からすれば非常に重要な話だったが、確かに世界と自分を知るのは火急の要件だった。僕は吉田さんに頷き、空いているテーブル席へと着席した。

 其処には薄いスキャナープリンターのような物が置いてあった。違いはスキャナーの癖に蓋が外れてガラス板が剥き出しなことと、プラスチック製ではなくて木製であるところ。

「これは?」
「貴方が世界を渡航……此方の言葉では渡界エクステンドというのですが、それを行った際に付与されたスキルを調べる魔道具です」
「魔道具……これまたアニメのような話ですね」
「はは、過去に詳しい者が居まして。其奴が此方の魔道具師に依頼し、長年の試行錯誤の結果です。先程少し話しましたが、弄られているのは言語野だけではありません。私達の体には彼方になくて此方にあるもの……『魔力』という仕組みが組み込まれています」

 魔力。どこまでいってもアニメやゲームの話のように思えるのは、まだ自分がこの世界を夢か何かだと、現実だと思えていないからかもしれない。頭が痛くなる話だ。しかし、考えてみればこの状況をすんなりと受け入れられる人間なんてそう多くないはずだ。そんな人間の為に、こうして分かりやすい単語で説明するようにマニュアルが作られているのかもしれない。

 思えばライトノベルなんてのはガイドブックとか入門書の役割を果たしていた。だからまだ僕は言葉の意味を、自分の中で置き換えて理解出来ていた。

「その魔力を読み取り、貴方のことを分析する魔道具……それがこの『お前の人生曝け出し機』です」
「すっげぇ嫌なネーミングだな!?」
「っていう突っ込みをさせてリラックス効果を得る為のネーミングだそうです」
「まんまと乗せられて凄く気分が悪い……」

 絶対にリラックス効果なんてない。ストレスが凄かった。

「ではこのガラス板に手の平を乗せてください。どっちの手でもいいですよ」

 むしゃくしゃした感情を唾液と一緒に飲み込んで吉田さんの指示に従い、僕は右手をガラス板に乗せた。魔道具は機械音を立てるようなこともなく、ぼんやりと内部が光り始める。その光に熱はなく、手を乗せていても何も感じない。暫くそうしていると魔道具は僕の魔力の読み込みを終えたらしく、セットされていた紙を飲み込み、何かを印字して吐き出した。

「ふむふむ……やはりちゃんとスキルが付与されていますね」
「どういうスキルですか? 勇者とか嫌ですよ?」
「此方になります」

 手渡された紙を受け取る。其処には僕のプロフィールみたいなものが綴られていた。

「三千院侘助(28)……そんなのまで分かるのか」
「人生曝け出し機ですから。ていうか同い年だ」
「……」

 二度と聞きたくない名前だ。タメとかも別に今はいい。さて、気を取り直して……身長や体重や出身地まで書かれている項目を流し読みしていくと【お前のスキル】という項目を見つけた。何から何まで腹立たしいが、其処には『鍛冶一如たんやいちにょ』と記されていた。

鍛冶一如たんやいちにょ……ですか」
「知ってるんですか?」
「いえ全然」
「……」

 吉田さんのこういうとこ好き。しかし使用用途も効能も分からないスキルというのもなかなかどうして、取扱いに困る話だ。

「どうやって調べるんですか?」
「んー、まぁやっぱり鍛冶一如っていうくらいですから、鍛冶関連のスキルなのではと思います」

 まぁそうだよな。鍛冶って書いちゃってるもんな。

「侘助って名前も鍛冶師っぽいですよね」
「吉田さんって面白い人ですよね」

 今すぐぶん殴ってやろうとか拳を握っていると、紙を折り畳んだ吉田さんが席を立った。

「なのでとりあえずやってみますか、鍛冶」
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