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2nd:Spring
04
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「何時に帰ってくるんでしたっけ」
「多分夕方くらい。帰ったら晩御飯食べに行こうよ」
「いいですね。食べたいもの考えときます」
次の日、重い身体を動かして昼御飯を済ませた後。
午後から会長は大学のガイダンスがあるらしく、昼から支度をして出掛けていった。
一応合鍵を貰ったので1人でその辺をふらつくことも可能ではあったが、身体がしんどかったので家でゆっくりすることにした。暇潰しに昨日はゆっくり見る暇がなかった室内を探索しつつ、適当に本でも借りて読もうと本棚を覗く。
寮の時とあまりラインナップは変わらず、並んでいたのはビジネス書メインでたまに小説。その中に株の入門書らしきものが追加されていて、思わず手に取る。
ペラペラと捲れば重要な箇所にマーカー引かれていた。暇潰しに買った本という訳でもなさそうなので大学入学を機に株でも始める気なんだろう。多分。
軽く読んだ後、ふと棚に少し古くなったお守りが置いてあるのが目に入った。何もかも綺麗な部屋でやけに目立っている。
(こういうの買うタイプだったっけ)
見る限り、12月頃に俺と母さんがあげたお守りではない。ということは会長自身が買ったか、人から貰ったことになる訳で。手に取って見てみると心願成就の文字が書かれていていた。
どこか見覚えのある気がして暫く見つめて考える。
「……あ」
一気になだれ込んでくる記憶。特待生入試での会話や声まで鮮明に思い出し、会長に真相を確かめようと顔を上げた。でもそんなときに限って不在で、必死に昂る気持ちを頭の中で消化する。
夕方まであと数時間。
とりあえずソファーに座って、持ってきたタブレットで動画でも見ながら気を紛らわすことにした。
暫く動画や小説で時間を潰しているとようやく扉の鍵が回る音がした。すぐ様、ソファーから立ち上がって玄関に向かう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
帰って靴を脱ぐ会長に手に持っていたお守りを無言で見せる。きょとんとした顔でお守りを見つめた。
「どこにあったの?それ」
「本棚に置いてありました」
「あー…片付けるの忘れてたな」
思い出したように会長は俺の手からお守りを取ると荷物を置いてソファーに腰掛けた。
「その様子だと思い出したんだ」
「はい。お守りのおかげで」
どこまで思い出せたかはわからないが、親が迎えに来ら記憶まではあるので恐らくほぼ全部。正直顔はぼんやりとしか覚えていない。でもやはりあの時の印象通り、無愛想でいつもよく見る表情をしていたと思う。
「これ、なんでくれたの?」
「あの時は…」
多分、励ましのつもりだった。
表情1つ変えず無愛想に返す姿とどこか棘のある言い方は正直印象は悪かった。でも鞄についたお守りを見つめながら「羨ましい」と呟いた声音がどこか寂しそうで。だからなんとなくお守りでもあげたら少しでも励ましになるんじゃないかと、熱で浮かされた頭で思ったのだ。
「……心願成就でもあげたら浄化されるかと思って」
「そっか」
正直には話さず、少し濁して答えると全て見透かしたような顔で会長は目を細めて微笑んだ。
「まさかあれからこんな関係になるとはね」
「俺もこうなるとは思いませんでしたよ」
「あの時、伊藤からの電話無視しなくて良かったな」
「そうですね。電話なかったら今頃……」
こんな関係にはなっていなかった、と続けようとした。でも引っかかる点があって口が開いたまま止まる。今、電話無視しなくて良かったって言わなかったか、この人。
「……なんて言いました?今」
「伊藤からの電話無視しなくて良かったって」
「ちょちょちょ待ってください」
訳が分からない。あの時かかってきた電話は全部勉強を教えるために会長が仕組んでいたんじゃないのか。
「タイミングよく電話が来るように仕向けたんですよね?」と尋ねると「いや、偶然だけど」と返された。会長が嘘を吐いている様子はない。段々頭が痛くなってきた。
「……ほんとに偶然?」
「うん。偶然」
「会長が仕組んでた訳じゃなく?」
「わざわざ他人に勉強教えるために仕組んだりしないよ、面倒臭い」
混乱する俺を無視してガイダンスで貰った冊子やプリントを整理し始める姿に眉を顰めた。いや、だって、会長と要先輩が従兄弟だと言う話をした時、俺の「あんな所で電話する訳が無い」という発言に対して否定しなかったじゃないか。
「じゃあなんであの時否定しなかったんですか!?」
「肯定もしてなくない?」
確かにそうだけども。会長的には本人がそう思ってるならそれでいいやと思ったらしい。全然良くない。
そんな偶然ある訳ないと思ったが、会長からあの日の話を聞いたら、なんとなく納得出来た。というか納得するしかなかった。教えようと思ったのは偶然が重なったからで本当は俺に勉強教える気なんて無かったということだ。ショックと呆れた感情が混ざり、現在物凄く複雑な気持ちである。
「なに、怒ってんの?」
「…怒ったというか、呆れてます」
ソファーで項垂れていると整理を終えた会長かくっつくように身を寄せてきてキスをしてきた。きっと機嫌取りのつもりだろう。マジで腹立つ。
色々言いたいことはあったが、お腹も減ったのでぐっと堪える。決して機嫌を取られたわけではない。
「晩御飯、食べたいもの決まった?」
「…ファミレス」
「そんなのでいいの?」
「言っとくけどデザート付きですよ」
晩御飯は今回のお詫びに会長が奢ってくれるということですぐ近くのファミレスで済ませることになった。
徒歩5分ほど歩いて、ファミレスの中に入ると席に座ると俺はハンバーグ、会長はネギトロ丼を頼む。会長が見た目の割に意外なメニューを頼むのは毎回なのでいちいち突っ込むことはせず、水を口に運んだ。
「そういえばガイダンスどうでした?」
「秋斗がウザかった」
「あー......」
学部で分かれてガイダンスがあった様だが、久我先輩がずっと話しかけてきてめちゃくちゃウザかったらしい。周りの人に話しかけまくって友達の輪が出来ていた話を聞いてゾッとした。つくづく同じ学年じゃなくて良かったと思う。
「可愛い女の子いました?」
「学部が学部だから女の子自体少なかったかな。ほとんど男ばっか」
「そっか。理系ですもんね」
文系だとそこそこ居るようだがそれでも男の方が圧倒的に多い話を聞いて少し安心した。でもそれも束の間で「でも他の学部の子に話し掛けられたな」という発言に動きが止まる。
タイミングよく店員さんが頼んだメニューをテーブルに並べて、熱々の鉄板がいい音を立てた。会長にナイフとフォークを差し出されて、ようやく思考回路が元に戻る。
「なんて話し掛けられたんですか」
「連絡先教えてくれだのなんだの」
「…交換したんですか」
「いや、今携帯持ってないって断った」
よくそんな言い分が通ったな。
いっそ清々しい断り文句にハンバーグを口に運びながら感心する。約束通り、食後はデザートに期間限定のフルーツパフェを頼んだ。
全て綺麗に完食した後、すっかりお腹は満たされた状態でファミレスを後にした。
「多分夕方くらい。帰ったら晩御飯食べに行こうよ」
「いいですね。食べたいもの考えときます」
次の日、重い身体を動かして昼御飯を済ませた後。
午後から会長は大学のガイダンスがあるらしく、昼から支度をして出掛けていった。
一応合鍵を貰ったので1人でその辺をふらつくことも可能ではあったが、身体がしんどかったので家でゆっくりすることにした。暇潰しに昨日はゆっくり見る暇がなかった室内を探索しつつ、適当に本でも借りて読もうと本棚を覗く。
寮の時とあまりラインナップは変わらず、並んでいたのはビジネス書メインでたまに小説。その中に株の入門書らしきものが追加されていて、思わず手に取る。
ペラペラと捲れば重要な箇所にマーカー引かれていた。暇潰しに買った本という訳でもなさそうなので大学入学を機に株でも始める気なんだろう。多分。
軽く読んだ後、ふと棚に少し古くなったお守りが置いてあるのが目に入った。何もかも綺麗な部屋でやけに目立っている。
(こういうの買うタイプだったっけ)
見る限り、12月頃に俺と母さんがあげたお守りではない。ということは会長自身が買ったか、人から貰ったことになる訳で。手に取って見てみると心願成就の文字が書かれていていた。
どこか見覚えのある気がして暫く見つめて考える。
「……あ」
一気になだれ込んでくる記憶。特待生入試での会話や声まで鮮明に思い出し、会長に真相を確かめようと顔を上げた。でもそんなときに限って不在で、必死に昂る気持ちを頭の中で消化する。
夕方まであと数時間。
とりあえずソファーに座って、持ってきたタブレットで動画でも見ながら気を紛らわすことにした。
暫く動画や小説で時間を潰しているとようやく扉の鍵が回る音がした。すぐ様、ソファーから立ち上がって玄関に向かう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
帰って靴を脱ぐ会長に手に持っていたお守りを無言で見せる。きょとんとした顔でお守りを見つめた。
「どこにあったの?それ」
「本棚に置いてありました」
「あー…片付けるの忘れてたな」
思い出したように会長は俺の手からお守りを取ると荷物を置いてソファーに腰掛けた。
「その様子だと思い出したんだ」
「はい。お守りのおかげで」
どこまで思い出せたかはわからないが、親が迎えに来ら記憶まではあるので恐らくほぼ全部。正直顔はぼんやりとしか覚えていない。でもやはりあの時の印象通り、無愛想でいつもよく見る表情をしていたと思う。
「これ、なんでくれたの?」
「あの時は…」
多分、励ましのつもりだった。
表情1つ変えず無愛想に返す姿とどこか棘のある言い方は正直印象は悪かった。でも鞄についたお守りを見つめながら「羨ましい」と呟いた声音がどこか寂しそうで。だからなんとなくお守りでもあげたら少しでも励ましになるんじゃないかと、熱で浮かされた頭で思ったのだ。
「……心願成就でもあげたら浄化されるかと思って」
「そっか」
正直には話さず、少し濁して答えると全て見透かしたような顔で会長は目を細めて微笑んだ。
「まさかあれからこんな関係になるとはね」
「俺もこうなるとは思いませんでしたよ」
「あの時、伊藤からの電話無視しなくて良かったな」
「そうですね。電話なかったら今頃……」
こんな関係にはなっていなかった、と続けようとした。でも引っかかる点があって口が開いたまま止まる。今、電話無視しなくて良かったって言わなかったか、この人。
「……なんて言いました?今」
「伊藤からの電話無視しなくて良かったって」
「ちょちょちょ待ってください」
訳が分からない。あの時かかってきた電話は全部勉強を教えるために会長が仕組んでいたんじゃないのか。
「タイミングよく電話が来るように仕向けたんですよね?」と尋ねると「いや、偶然だけど」と返された。会長が嘘を吐いている様子はない。段々頭が痛くなってきた。
「……ほんとに偶然?」
「うん。偶然」
「会長が仕組んでた訳じゃなく?」
「わざわざ他人に勉強教えるために仕組んだりしないよ、面倒臭い」
混乱する俺を無視してガイダンスで貰った冊子やプリントを整理し始める姿に眉を顰めた。いや、だって、会長と要先輩が従兄弟だと言う話をした時、俺の「あんな所で電話する訳が無い」という発言に対して否定しなかったじゃないか。
「じゃあなんであの時否定しなかったんですか!?」
「肯定もしてなくない?」
確かにそうだけども。会長的には本人がそう思ってるならそれでいいやと思ったらしい。全然良くない。
そんな偶然ある訳ないと思ったが、会長からあの日の話を聞いたら、なんとなく納得出来た。というか納得するしかなかった。教えようと思ったのは偶然が重なったからで本当は俺に勉強教える気なんて無かったということだ。ショックと呆れた感情が混ざり、現在物凄く複雑な気持ちである。
「なに、怒ってんの?」
「…怒ったというか、呆れてます」
ソファーで項垂れていると整理を終えた会長かくっつくように身を寄せてきてキスをしてきた。きっと機嫌取りのつもりだろう。マジで腹立つ。
色々言いたいことはあったが、お腹も減ったのでぐっと堪える。決して機嫌を取られたわけではない。
「晩御飯、食べたいもの決まった?」
「…ファミレス」
「そんなのでいいの?」
「言っとくけどデザート付きですよ」
晩御飯は今回のお詫びに会長が奢ってくれるということですぐ近くのファミレスで済ませることになった。
徒歩5分ほど歩いて、ファミレスの中に入ると席に座ると俺はハンバーグ、会長はネギトロ丼を頼む。会長が見た目の割に意外なメニューを頼むのは毎回なのでいちいち突っ込むことはせず、水を口に運んだ。
「そういえばガイダンスどうでした?」
「秋斗がウザかった」
「あー......」
学部で分かれてガイダンスがあった様だが、久我先輩がずっと話しかけてきてめちゃくちゃウザかったらしい。周りの人に話しかけまくって友達の輪が出来ていた話を聞いてゾッとした。つくづく同じ学年じゃなくて良かったと思う。
「可愛い女の子いました?」
「学部が学部だから女の子自体少なかったかな。ほとんど男ばっか」
「そっか。理系ですもんね」
文系だとそこそこ居るようだがそれでも男の方が圧倒的に多い話を聞いて少し安心した。でもそれも束の間で「でも他の学部の子に話し掛けられたな」という発言に動きが止まる。
タイミングよく店員さんが頼んだメニューをテーブルに並べて、熱々の鉄板がいい音を立てた。会長にナイフとフォークを差し出されて、ようやく思考回路が元に戻る。
「なんて話し掛けられたんですか」
「連絡先教えてくれだのなんだの」
「…交換したんですか」
「いや、今携帯持ってないって断った」
よくそんな言い分が通ったな。
いっそ清々しい断り文句にハンバーグを口に運びながら感心する。約束通り、食後はデザートに期間限定のフルーツパフェを頼んだ。
全て綺麗に完食した後、すっかりお腹は満たされた状態でファミレスを後にした。
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