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第25話 だいぶネガティブ
しおりを挟む「もうスキル封じはやっていません」
腕がいいと評判らしいスキル封じ師は、暗い声で言った。
彼女の家は、海から少し離れた木造二階建てで、白い壁の美しい真新しい家だった。
「ドラゴンのスキルを封じたあなたでないと、厳しいんです」
評判のスキル封じ師・シースヤは、十七歳の女性で、小麦色に焼けているが、あずき色の和服を着ていて表情は暗い。
「お願いします。お金であれば、何とかしますから」
「無能なので、どうせできないってことです」
「ドラゴンのスキルを封じたと聞きましたが」
「たまたまですよ。私は無能です。ゴミです。何の役にも立ちません。蛆虫のほうが、世に貢献してるんじゃありません? 私は、ダニの抜け殻よりも、不要な存在です。もう帰ってください」
俺、病んでる系の女の子はもう御免なんだよな。アンズだけで手いっぱいだよ。あいつは女の子じゃないけどな。
「ドラゴンのスキルを封じたあなたが、どうして自分を無能だなんて」
「大失敗したんです。最近、ギャルナが出現したので、協力してくれと頼まれました。私のミスで千人は亡くなりました」
「今回の仕事は、失敗しても、大丈夫ですよ」
「無理ですよ。私はセミの抜け殻の、折れた足の部分より不要な女です。わたぼこりと同じくらいしか、存在価値がない女です! 死んだほうがいいんですよ」
「そんなことないですって」
なんで俺が慰めないといけないんだよ。
「そんなことない? なんで会ったばかりのあなたにそんなことがわかるんですか。私の何を知ってるって言うんですか。適当なことを言わないでください」
「シースヤさんの評判は聞いています。圧倒的な功績です」
「でも大失敗して、『人殺し』って呼ばれたんですよ! もう死んだほうがいいんです! そうだ、じゃあスキルを封じてあげるから、殺してください。殺してくださいよ! そうすれば協力してあげます! 殺してェ!」
「落ち着いて」
「殺してよ! 殴ってよ!」
「いま、失敗したと言いましたね? 私は、大勢のモンスターを従える能力を持っています。強力なモンスターたちと、旅をしてきたんです。その失敗した任務、手伝いますから」
「ギャルナの討伐ですよ? そんな簡単に行くわけないでしょう」
「死ぬ死ぬ殺してと言っていても、しょうがないでしょう。私は、こう見えても、ドラゴンを単独で討伐できます」
「ドラゴンを? 本当に?」
「はい。ですから、話を聞いてくれませんか」
シースヤから、恨み言や、自虐の入り混じった話を辛抱強く聞いた。奴隷化を使ってやろうかと思ったが、もし「魔法反射」を隠ぺいしていたら、と思うと怖くてできなかった。
シースヤは美しく、才能があるが、周りのプレッシャーが大きすぎて、昔から苦しかったそうだ。
よく話を聞けば、かわいそうな女だ。
ギャルナというモンスターが付近に現れたという。
ギャルナは海に生息するアンデットで、二メートル近い骨だけ人間だ。いわゆるスケルトンだな。
そのギャルナやその子分たちを倒しに行くため、部隊が組まれたが、なかでもシースヤは重要な働きを任されていた。
ギャルナには、「不死身」というとんでもないスキルがあった。このスキルがあると、どれだけ強力な攻撃を喰らっても死なない。
粉々にしても、数日すれば、風で飛ばされた、わずかな破片からちゃんと復活してしまう。
ギャルナは攻撃力が絶大で、ドラゴン並みの力を持ってもいる。
「私はできそこないの蛆虫より、さらに出来損ないの生ごみみたいな女ですから、失敗したんです。ギャルナの『不死身』や『水剣』を封印できなかった。討伐隊のほとんどが、私のせいで死にました」
「俺なら、そのギャルナを討伐できるかもしれない」
「ギャルナはドラゴンに匹敵する力を持ってるんですよ」
「わかったうえで言っている。もし、後悔しているなら、一緒に討伐に行ってみないか」
「でも」
「大丈夫。俺は遠距離魔法が得意だ。彼らの死に報いたいんじゃないのか? 行こう」
「でも」
面倒な女だなあ。
そのギャルナに魔法反射がなければ一発だし、もしあったら逃げればいい話だ。
「ギャルナは遠くから鑑定するのも危険?」
「いえ、そばに近づかないと、攻撃してきませんが、夜になると海から出てきて、町に入っていきます」
「今晩も出る?」
「おそらく」
「じゃあ、俺たちがギャルナを退治したら、自信を持ってくれるかな」
「でも」
「よし! 決まりだ! いまから行こう!」
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