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第28話 とうとう
しおりを挟む「アンズ、また海に行こう」
ちょっと不自然かな、と思うが、シースヤは海のそばの町にいる。しょうがない。
「海? なんでまた?」
「アンズと出かけた中で、海が一番楽しかったんだよ! 海でもう一回、精一杯楽しんでから、新居を立てて、二人でゆったり暮らそうよ」
「とうとう、新居か」
大福モードのアンズが、しみじみと言った。
「ヌカタもようやく、落ち着く気になってくれたんだね? うれしいよ」
落ち着く気なんてこっちにはみじんもないわ! シースヤがうまくやったら、すぐ奴隷化だ。
ドラゴンやギャルナっていう、化け物じみた強さのモンスターにも、俺の「奴隷化」は通用した。
いけるはずだ。
せかして不審がられては困る、と思い、海には翌週行くことになった。アンズとはその間、新居を立てる場所を探したり、大工に相談したりしていた。
本来なら苦しみの時間だが、不思議と快かった。解放のカウントダウンが聞こえていたからだ。
アンズを奴隷にし、従えたら、その新居に本当に俺が住んでもいいと思った。
海は、ギャルナという脅威が去ったため、大いににぎわっていた。
今日も暑かった。
配下になったギャルナには「人に見つからないようにし、人を食べないで生きろ」と命じていた。
だが厳しいだろうから、シースヤに住処を探させておいた。長年使われていない蔵で、深緑色のナー・ザルと、ギャルナは共同生活をしていた。
蔵に顔を見せると、ナー・ザルは子供のように俺にまとわりついてきた。かわいいものだ。
三メートル近いスケルトンのギャルナは、ペコっと俺に頭を下げた。
礼儀正しいモンスターだな。
俺はアンズに怪しまれないよう、本当に海でキャッキャと遊んだ。アンズは童顔の色白美人に化けていた。俺はいままでにないことだが、普通に楽しいんだ。
このいい女の姿と、こうやって遊ぶのも最後だなと思うと、少しだけ名残惜しかった。
少しだけだけどな。
夜、アンズが「海のモンスターを食べてくる!」と言い出したので、チャンスとばかりにシースヤに会いにいった。
シースヤは俺を和室に案内して、まず深々と頭を下げた。
「以前はちゃんとお礼を申せず、申し訳ありませんでした。ギャルナ討伐の件、感謝しています」
「いいよ、別に。俺のスキルを使えば、一発だからな」
「あのギャルナが、飼い犬のようになるなんて、本当に驚きです。夜、こっそりと、付近の魔物を討伐してくれています。そのため、非常に治安が良くなりつつありますよ」
「役に立てたならよかったよ。で、本題だけどさ、いいかな」
「わかりました。スキルを封じてみせましょう。気づかれず完璧に任務をこなします」
健康的に日焼けした呪術師のシースヤは、ちょっと恥ずかしそうな顔で「もし成功したら、一緒に食事に行きませんか」と誘ってきた。
悪くないな。
化け物大福アンズがいたから、女の子と仲良くすることができなかった。
でもこれからは、普通に恋愛できるんだ。
「わかった。この辺りのおいしいお店について、全然知らないんだよね。どこか連れて行ってよ」
「ありがとうございます、ヌカタさん」
ネガティブなヤンデレ女はごめんだと思った。
でもシースヤの笑顔はすごくかわいかった。
俺の栄光の日々が、これから始まる。
翌朝、アンズは珍しく無言だった。
いつもはべらべら話しかけてきて、うるさいことこの上ない。
どうしたんだろか。
ぎりぎりまで油断はできない。大福モードの体をなでながら「アンズ? 具合でも悪いの?」と聞くと「別に」と答える。
全く、最後までむかつくスライムだぜ。
まあいい。今日で終わりだ。
だが、アンズと一緒に砂浜を歩かないといけない。シースヤはその付近で待機しているからだ。
「なあ、アンズ。アンズと散歩に行きたいなあ。一緒に行ってくれないかな」
と甘えるように言う。
アンズはこういう言い方が好きなんだよな。
そりゃ、言ってるこっちは吐き気がするよ? 最低な気分だよ? だが今日で最後だ。
いくらでも屈辱的なことをしてやろう。
「散歩? 別にいいよ。ヌカタが、わたしと散歩に行きたいのであれば。どうする? 人間に化ける?」
マジで意味わからないな。
まあいいさ。一緒に散歩に行ってくれるなら、俺の勝ちだ。
色白の童顔女に化けたアンズと、宿を出て、海に歩く。
アンズの阿呆は、なぜかやたらと胸を押し付けてくる。
悪くないな。感触は人間と変わらないから。
いやあ、残念だよ。この柔らかな胸の感触は今日で最後だ。
海が近づく
アンズは珍しく、ずっと無言だ。
俺たちは砂浜に足を踏み入れる。
「今日はずいぶん人が多いね」
水着姿の男女が砂浜で寝転がったり、泳いだりしている。
「そうだね」
アンズは冷たい。
何を怒ってるのか知らないが、もう終わりだ。
シースヤの姿を俺の瞳はとらえていた。
彼女は、目を閉じている。
十秒ほどたち、目を開け、俺にうなずいた。
鑑定グラスをかける。
魔法反射が封じられている!
よし!
落ち着け。
まだこいつに「奴隷化」を使う作業が残っている。
くらうがいい。
アンズを従えるイメージ。配下にする。奴隷にするという強い思い!
奴隷化!
よしゃあァァァァァァァァ!
成功だ! 成功したぞ!
ヌカタの奴隷という文字が確かにある!
これで悪夢の日々とはおさらばだァァァァ!
「ねえ、ヌカタ」
童顔美女のアンズは言った。
「どうしたの? アンズ」
くせでにこやかに答えてしまう。
「ヌカタ、浮気したでしょ。知ってるんだよ」
アンズは冷たい声で言った。
うるさい大福だな。
「アンズ、静かにしていろ。あと離れろ」
とんでもないことが起こった。
アンズは離れなかった。
「やだ! ヌカタから一秒も離れたくない!」
あれ? 奴隷になってるのに、何で言うこと聞かないの?
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