【完結】聖女ディアの処刑

三月

文字の大きさ
13 / 55

聖女ではない女

しおりを挟む
「どうした?怖くて何も言えないのか?首を切り落とされるのは、そんなに恐ろしいか?」

ユースレスが煽ると、群衆から野次や笑い声が飛んだ。

ディアは黙ったまま、眉を寄せている。

「オイ、これが最後のチャンスだぞ。心を入れ替えて王家に仕えるなら、特別に命を助けてやる。死ぬのは嫌だろう?どうだ?」

このままディアの返事をいつまでも待つわけにいかず、ユースレスから提案する。

しかし、ディアはちょっと考えたあと、あっさり首を振った。カッとなって、ユースレスはディアに掴みかかる。

「なんだとッ!どこまで私の慈悲を無碍にすれば――」

「はわわわッ!?」と、胸倉を掴まれたディアは悲鳴を上げた。

「いえ、あの!ユースレス様が悪いんじゃなくて!、わたしはもうここにいられないのッ!」

「……は?」

ユースレスは言葉を失う。

「せ、聖女じゃ……ない?」

なら、あの癒しの力は?その手の印は?本当の聖女には違いないはずなのに、今更なにを言い出すんだ?

しかも、この女は自分がもうすぐ処刑されるというのに、いつも通りヘラヘラして、いつも通り頭の悪そうな喋り方で――

ふと、もうひとつの異変に気付いた。

処刑台に屋根などない。天幕のある王族の席以外は、どこもかしこも雨で濡れている。ディアの服を掴んでいた手を離し、まじまじと見つめた。乾いた手のひら。

……なんで、全然雨に濡れてないんだ……?

聖女じゃない。しかし、癒しの力が使えて、印がある。……いや、

「おまえは……一体……」

ユースレスの驚きが冷めぬ間に。

「う~ん、バレちゃって残念……せめて、ちゃんと残していくね!」

偽物聖女ディアは、白い歯を見せて微笑んだ。



「――愛しい『人の子』たちに、女神ディアマンティアナより最後の祝福を!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐
恋愛
こちらは過去に投稿し、完結している作品をまとめたものになります 章毎に一作品となります これから投稿される『恋愛』カテゴリの作品は投稿完結後一定時間経過後、この短編集へ移動することになります ※こちらの作品へ移動する際、多少の修正を行うことがあります。 ※タグに関してはおよそすべての作品に該当するものを選択しています。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

処理中です...