【完結】聖女ディアの処刑

三月

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ユースレス王子の懺悔

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捕縛から数日後。

護送用の馬車に乗せられ、ユースレスは中央広場へ向かっていた。

檻の向こうに広がる王都は、すっかりかつての美しさが失われている。

煤で黒く汚れた家々、骨組みを残して燃え尽きた邸宅。店はどこも閉め切って出入り口に板を打ち付けてあり、道路にはガラス片が散乱していた。噴水の水は止まって、毎朝市場が開かれていた空き地もがらんとしている。

教会が見えてきた。
門の前に礼拝室の椅子が積まれ、引き裂かれたカーテンや壊された聖像などがある。教会の中の物をすべて引っ張り出して、ぐちゃぐちゃに積み上げたような有様だった。だが、中には人が大勢いるようだ。開け放たれた扉の向こうから、ひっきりなしにお祈りの声がしている。

祭主と聖団の関係者は、先月斬首された。

同じ断頭台で、ユースレスも今日死ぬ。

内務卿がいつかの祭主の役割を務め、ユースレスは杖をつきながらよろよろと処刑台に上がり、断頭台に首をのせた。隣国の指定か、目隠し布も被せられないし、お祈りの時間もくれないようだ。

どんな罵詈雑言が飛んでくるかと身構えていたのに、処刑台の前に集まった群衆はなにも言わない。

喉が嗄れるほど祈り、貴族を殺し、教会を壊し、町に火を放っても女神が戻ってこないことを思い知らされた彼らは、最後の希望のようにユースレスを見守っている。

ひょっとしたら、ユースレスを処刑したら、女神が帰ってくるかも。そう思って、祈るように手を組んでいる。

断頭台は、だった。

薄汚れていたが、虹色にカラーリングされている。ユースレスは小さく呟いた。

「はは、確かに……ちょっと楽しい気分になれるかも、な」



――ディア。



ユースレスは何度も助けを求めた名前を、心の中で呼んだ。もう彼女が戻ってこないことも、自分を救わないことも分かっている。

ディア。君は女神だった。

でも、もし君が普通の女の子だったら、処刑のときどれほど怖くて辛かったろう。

同じようにされないと、きっと私は分からなかった。

誰の気持ちも一生分からなかった。

こんなにも多くの人の気持ちを裏切ったことに気付けなかった。

あんな馬鹿なことしなければよかった。

せっかくこの国に、私のところに来てくれたのに。
マナーなんかどうでもいいから、きれいなドレスを着せて舞踏会に連れて行ってあげたらよかった。人間の世界の美味しい物を食べさせてあげたらよかった。朝から晩まで働いているのを止めさせればよかった。もっと話し合えばよかった。もっと尊重すればよかった。もっと味方になればよかった。好きだったのになあ。

そうすれば、私と、ディアと、イルミテラで笑い合う未来だって、あったかもしれないのに。

「…………ごめんよ」

ユースレスは、ようやく謝った。ディアだけでなく、自分が未来を壊してしまったすべての人間に。

「執行ッ!」

内務卿の声が響き、身体に衝撃が走って――

ユースレス王子は短い生涯を終えた。





あるところに、豊かな小国があった。

しかし、さる女神の怒りに触れ、疫病が蔓延し、飢餓と雪嵐に蹂躙され、魔獣に喰い尽くされ、他国に攻め込まれ、国はあっというまに滅んだという。

不幸な聖女は暴徒の手にかかり、勇敢な王子は断頭台の露と消えた。

残された民は、枯れ果てた土地を捨て他国に移住しようとしたものの、どこにも受け入れてもらえず、多くが飢えと寒さのなか死んでいった。

かつて国であった場所は、今は荒れ地が広がっている。

もはや誰も知らない国の名を、崩れた教会で微笑む女神像だけが知っている。










おしまい










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おつかれさまでした!ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!
登録&ハート&ラッパのマーク、すべて美味しく頂いております!

こちらの最終話をもちまして、当初想定していた本編はおしまいです!が!
今からこの後味悪~いお話を、力技でハッピーエンドにします!!(`・ω・´)

5話くらいで終わると思うのですが、わたしの体感は全くあてにならないので適当ですみません!

ざまあフルコースの最後にご用意したデザート『救済』!
お口に合うかどうかは分かりませんが、もしご興味があればお楽しみくださいませ~!
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