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初めまして、俺だよ
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「…………………」
扉に手をかけたまま、陸は無言だった。
教師からメールが届いているはずだ。昨日のうちに。
にも関わらず、この態度ということは、これは相当嫌われている。
「風紀委員長さんですか?初めまして、青山千尋です」
俺はわざとらしく深深と頭を下げた。
正直、色んな意味で初めましてのわけなんてないのだが、ここは何とかして主導権を握らないといけない。致し方がないが、今の俺が頼れるのは色んな今でこいつだけだ。
「初めまして、だと?」
案の定、陸の顔がひくついた。
「すみません、俺、記憶がなくて」
それを聞いて、陸の肩がピクリと反応をする。
「俺?青山が、俺だと?」
陸は俺の事を頭からつま先までじっくりと眺めた。完全に疑っているのが分かる。
「まぁ、信じられないだろうけど、マジっぽい」
横山が改めてそう言うと、陸は小さくため息をついた。
「学校から直接頼まれている。仕方がないから部屋に入れ」
本気で嫌なんだな。って、分かるぐらいの顔をして、陸は俺を部屋に入れてくれた。
部屋はずいぶんと快適なワンルームだった。これなら陸が帰ってこないのも理解出来た。洗濯乾燥機まで付いている。テレビはでかいし、パソコンもずいぶんいいものを使っているようだ。
俺がキョロキョロと、室内を見渡していると、室内に誰かがいた。本当に横山の言った通りらしい。
風紀委員長なのに、連れ込んでいる。
俺ほどではないが、黒髪で色の白い、キレイめの生徒だ。俺はお目目クリクリ系の可愛い感じの顔をしている。うん、好みではなければ更に嫌いにはなるよな。
「適当に座れよ」
言われて、横山と何となく座ると、そのキレイめの生徒がコーヒーをいれてきた。全員ブラックだ。
ミルクと砂糖を別に持ってきた。
「いただきます」
俺はそれらを使わずにブラックを冷ましもしないで飲んだ。
それをみて、驚いたのはコーヒーを出してきた生徒だ。
「千尋が、ブラック?」
やっぱり、青山千尋は甘いカフェオレが好みだと皆が知っているようだ。
「風紀委員長は砂糖が2つ」
俺はあえて陸を見ないでそう言った。
すると、コーヒーをいれた生徒が俺を睨んだ。
「と、言うより、本当は牛乳でいれたカフェオレが好き。猫舌だから少しぬるめのやつ」
俺がそこまで言うと、陸がこちらを睨むように見ていた。
「初めまして、俺は青山千尋。バス事故のせいでただいま記憶喪失中。同じバスに乗っていた藤代昴の様態について知っていなら教えてくれないか?」
俺がいい切る前に、陸が二人を部屋から追い出した。
「何をどこまで知っている?」
陸が俺の肩を痛いぐらいに掴んできた。
「聞きたいか?」
俺がニヤリと笑うと陸の顔が引きつった。
「青山、じゃない、のか?記憶がないって、言うのは…」
「俺の話、冷静に聞いてくれるかな?」
話す内容がめちゃくゃすぎるので、途中でチャチャを入れられるのは困る。静かに聞いて欲しいのだ。
「分かった」
「ありがとう」
意外に陸が素直で助かる。
「俺は青山千尋、だけど中身は藤代昴だ」
陸の目が大きく見開かれた。
喉を鳴らす音がやけに大きく聞こえたが、もしかして、二人同時にしたのだろうか?
本当に静かに陸は俺の話を聞いてくれた。こんな荒唐無稽な話、頭がおかしいと言われて終わるようなものだ。だが、これが事実で俺にとって死活問題だ。
「俺昴が五月生まれで、お前陸が三月生まれの兄弟で、両親はとても仲がいい」
俺は陸の様子をながら話す。
「最初に飼ったペットは犬で、近所の人から貰った。茶色の雑種で名前はまんまチャロにした」
「うん、あってる」
「通っていた幼稚園は、つくし幼稚園でもも組とうめ組だった。担任のけいこ先生が大好きだった。きょうだいだから、絶対にクラスは一緒になったことは無い。中学の時は校舎も別だった」
「うん、そうだ」
俺は藤代昴でないと知らない情報を話していく。
まだ話さないと信じないかな?
「それと……」
俺が次の情報を言おうとした時、陸が突然俺の側に座った。反射的に俺は跳ねるように避けた。
「なんで?」
陸が首を傾げる。
なんで、じゃない。俺は陸から逃げる理由がある。
「なんで?なんでかは、お前が一番わかってるよな?陸」
俺がそう言うと、陸が困ったような笑みを浮かべた。
「昴なんだ」
「そう言ってる。だから、お前を頼りたいけど躊躇している」
俺がそう言うと、わかりやすいぐらいに陸はため息を着いた。なにせ、俺が来た時にいた生徒は誰なのか?説明をされてない。
「覚えているんだ」
「忘れるわけが無い。中三の夏だ」
「それで、俺はここを受験したんだよね」
陸が諦めたように呟いた。
「それに、さっきの生徒、なに?青山の俺が言うのもなんだけど、セフレ?」
「どういう…」
「横山が、休日は連れ込んだりしてるって」
なんだか、いたたまれなくて俺は目線を逸らした。浮気を咎める恋人じゃないんだから、堂々とすればいいのだろう。
「はぁ、そーだよな」
陸はガックリと肩を落とした。
**********
中三の夏だ。俺と陸は部活もなくなり家で受験に向けて勉強をしていた。両親は共働きで不在。エアコンをつけたリビングで俺は参考書を片手にノートに書き込みをしていた。
テレビの音が少し大きくなったな。程度には思っていた。カーテンは省エネ対策できっちり閉められている。
いつもの事だから、横に座る陸のことなんて気にもとめなかった。俺の隣に陸がいるのは当たり前だから。10ヶ月の差なんて、ほんとうに小さい頃だけで、中学に入ったら運動のおかげで体の大きさなんて大差なくなっていた。
気配で陸の顔が近づくのは分かっていた。参考書が見たいのだろう。程度に思っていたのに、陸の手が俺の頭に回り、首を動かすと俺の唇に陸のくちびるが重なっていた。
俺は目を見開いたまま、陸を凝視していた。陸も目を閉じていない、お互い見つめあったまま身動きが取れなかった。
陸の手が俺からシャーペンを取り上げ、そのまま右手を掴む。抱え込まれるように後ろに倒されると、思わず口が開いた。
その隙を狙ってか、陸の舌が俺の口内に侵入してきて、歯列をなぞったり上顎を舐めたりしてきた。
陸の手が俺のシャツの中に入り、脇腹からゆっくりと上に移動して、胸の突起に触れた時、俺は思わず仰け反った。痛いような快感が一瞬で体を駆け巡ったからだ。
その瞬間、陸が笑ったのが見えた。
俺は、陸が怖くて全力で押し返した。
「やめろ」
自分でも、驚くぐらいに、低い声だった。
陸が素直に俺から離れて、そのままリビングから出ていった。
そして、陸があの山の中の学園を受験したことをずいぶん後に知らされた。
扉に手をかけたまま、陸は無言だった。
教師からメールが届いているはずだ。昨日のうちに。
にも関わらず、この態度ということは、これは相当嫌われている。
「風紀委員長さんですか?初めまして、青山千尋です」
俺はわざとらしく深深と頭を下げた。
正直、色んな意味で初めましてのわけなんてないのだが、ここは何とかして主導権を握らないといけない。致し方がないが、今の俺が頼れるのは色んな今でこいつだけだ。
「初めまして、だと?」
案の定、陸の顔がひくついた。
「すみません、俺、記憶がなくて」
それを聞いて、陸の肩がピクリと反応をする。
「俺?青山が、俺だと?」
陸は俺の事を頭からつま先までじっくりと眺めた。完全に疑っているのが分かる。
「まぁ、信じられないだろうけど、マジっぽい」
横山が改めてそう言うと、陸は小さくため息をついた。
「学校から直接頼まれている。仕方がないから部屋に入れ」
本気で嫌なんだな。って、分かるぐらいの顔をして、陸は俺を部屋に入れてくれた。
部屋はずいぶんと快適なワンルームだった。これなら陸が帰ってこないのも理解出来た。洗濯乾燥機まで付いている。テレビはでかいし、パソコンもずいぶんいいものを使っているようだ。
俺がキョロキョロと、室内を見渡していると、室内に誰かがいた。本当に横山の言った通りらしい。
風紀委員長なのに、連れ込んでいる。
俺ほどではないが、黒髪で色の白い、キレイめの生徒だ。俺はお目目クリクリ系の可愛い感じの顔をしている。うん、好みではなければ更に嫌いにはなるよな。
「適当に座れよ」
言われて、横山と何となく座ると、そのキレイめの生徒がコーヒーをいれてきた。全員ブラックだ。
ミルクと砂糖を別に持ってきた。
「いただきます」
俺はそれらを使わずにブラックを冷ましもしないで飲んだ。
それをみて、驚いたのはコーヒーを出してきた生徒だ。
「千尋が、ブラック?」
やっぱり、青山千尋は甘いカフェオレが好みだと皆が知っているようだ。
「風紀委員長は砂糖が2つ」
俺はあえて陸を見ないでそう言った。
すると、コーヒーをいれた生徒が俺を睨んだ。
「と、言うより、本当は牛乳でいれたカフェオレが好き。猫舌だから少しぬるめのやつ」
俺がそこまで言うと、陸がこちらを睨むように見ていた。
「初めまして、俺は青山千尋。バス事故のせいでただいま記憶喪失中。同じバスに乗っていた藤代昴の様態について知っていなら教えてくれないか?」
俺がいい切る前に、陸が二人を部屋から追い出した。
「何をどこまで知っている?」
陸が俺の肩を痛いぐらいに掴んできた。
「聞きたいか?」
俺がニヤリと笑うと陸の顔が引きつった。
「青山、じゃない、のか?記憶がないって、言うのは…」
「俺の話、冷静に聞いてくれるかな?」
話す内容がめちゃくゃすぎるので、途中でチャチャを入れられるのは困る。静かに聞いて欲しいのだ。
「分かった」
「ありがとう」
意外に陸が素直で助かる。
「俺は青山千尋、だけど中身は藤代昴だ」
陸の目が大きく見開かれた。
喉を鳴らす音がやけに大きく聞こえたが、もしかして、二人同時にしたのだろうか?
本当に静かに陸は俺の話を聞いてくれた。こんな荒唐無稽な話、頭がおかしいと言われて終わるようなものだ。だが、これが事実で俺にとって死活問題だ。
「俺昴が五月生まれで、お前陸が三月生まれの兄弟で、両親はとても仲がいい」
俺は陸の様子をながら話す。
「最初に飼ったペットは犬で、近所の人から貰った。茶色の雑種で名前はまんまチャロにした」
「うん、あってる」
「通っていた幼稚園は、つくし幼稚園でもも組とうめ組だった。担任のけいこ先生が大好きだった。きょうだいだから、絶対にクラスは一緒になったことは無い。中学の時は校舎も別だった」
「うん、そうだ」
俺は藤代昴でないと知らない情報を話していく。
まだ話さないと信じないかな?
「それと……」
俺が次の情報を言おうとした時、陸が突然俺の側に座った。反射的に俺は跳ねるように避けた。
「なんで?」
陸が首を傾げる。
なんで、じゃない。俺は陸から逃げる理由がある。
「なんで?なんでかは、お前が一番わかってるよな?陸」
俺がそう言うと、陸が困ったような笑みを浮かべた。
「昴なんだ」
「そう言ってる。だから、お前を頼りたいけど躊躇している」
俺がそう言うと、わかりやすいぐらいに陸はため息を着いた。なにせ、俺が来た時にいた生徒は誰なのか?説明をされてない。
「覚えているんだ」
「忘れるわけが無い。中三の夏だ」
「それで、俺はここを受験したんだよね」
陸が諦めたように呟いた。
「それに、さっきの生徒、なに?青山の俺が言うのもなんだけど、セフレ?」
「どういう…」
「横山が、休日は連れ込んだりしてるって」
なんだか、いたたまれなくて俺は目線を逸らした。浮気を咎める恋人じゃないんだから、堂々とすればいいのだろう。
「はぁ、そーだよな」
陸はガックリと肩を落とした。
**********
中三の夏だ。俺と陸は部活もなくなり家で受験に向けて勉強をしていた。両親は共働きで不在。エアコンをつけたリビングで俺は参考書を片手にノートに書き込みをしていた。
テレビの音が少し大きくなったな。程度には思っていた。カーテンは省エネ対策できっちり閉められている。
いつもの事だから、横に座る陸のことなんて気にもとめなかった。俺の隣に陸がいるのは当たり前だから。10ヶ月の差なんて、ほんとうに小さい頃だけで、中学に入ったら運動のおかげで体の大きさなんて大差なくなっていた。
気配で陸の顔が近づくのは分かっていた。参考書が見たいのだろう。程度に思っていたのに、陸の手が俺の頭に回り、首を動かすと俺の唇に陸のくちびるが重なっていた。
俺は目を見開いたまま、陸を凝視していた。陸も目を閉じていない、お互い見つめあったまま身動きが取れなかった。
陸の手が俺からシャーペンを取り上げ、そのまま右手を掴む。抱え込まれるように後ろに倒されると、思わず口が開いた。
その隙を狙ってか、陸の舌が俺の口内に侵入してきて、歯列をなぞったり上顎を舐めたりしてきた。
陸の手が俺のシャツの中に入り、脇腹からゆっくりと上に移動して、胸の突起に触れた時、俺は思わず仰け反った。痛いような快感が一瞬で体を駆け巡ったからだ。
その瞬間、陸が笑ったのが見えた。
俺は、陸が怖くて全力で押し返した。
「やめろ」
自分でも、驚くぐらいに、低い声だった。
陸が素直に俺から離れて、そのままリビングから出ていった。
そして、陸があの山の中の学園を受験したことをずいぶん後に知らされた。
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