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第20話
しおりを挟む「ひぃぃぃ」
またもや直江の引つるような悲鳴が上がった。肌寒い季節になってきて、先程まで確かにあった温もりが取り除かれた途端に強い刺激が与えられたのだ。驚くなという方が無理な話である。
「可愛いです。雅治さん。お腹に沢山つけてあげますからね」
何を?なんて聞くだけ無意味である。あるいは野暮だと言うのだろう。この状態で、自分の身体に付けられるものと言ったら一つしかない。一つしかないのだが、かつて直江は妻の身体にそんな風に痕などつけた覚えなどない。その前に、いつの間に安倍は裸になったのだろうか?男らしく逞しい身体が直江の目の前に現れて、二重に直江は驚いたのだ。しかも、自分の下半身も露わにされていた。薄々気が付いていた事なのだけれど、直江もほぼ裸である。かろうじてパジャマの袖が腕にかかっているだけの状態だ。
「最高です。雅治さん」
安倍が舌なめずりをしながら直江の身体を眺めていた。
「いや、あの……ぁ、隆弘くん落ち着きたまえ」
直江は必死の説得に出ることにした。とにかく落ち着いて欲しい。落ち着いてもらわなくては困る。何しろ直江の視界の範疇には落ち着きがない安倍の息子がハッキリと見えているのだ。とにかく落ち着け。直江の願いはただそれだけである。
「雅治さん、何を言っているんですか?初夜ですよ?落ち着くわけなんかないじゃないですか」
いや、初夜に設定をしてきたのは安倍であって直江ではない。それに同居であって同棲ではない。その辺の認識の違いから話し合わなくてはならない。だからこそ、安倍には落ち着いてもらい、直江の話を聞いて貰いたいのだ。
「据え膳食わぬは男の恥って言うじゃないですか。雅治さん」
そんなことを口にして、安倍が再び直江の上にのしかかってきた。とは言っても先程までとは体勢が違っていた。直江の片足が上に持ち上げられている。安倍の顔が直江の顔の真上に来ていて、安倍の頭の後ろには直江の足が見えた。これは中年にはなかなか苦しい体勢である。五十代のおっさんである直江の身体はそんなに柔らかくはない。むしろ硬い方だろう。
「いや、隆弘くん?」
名前を呼んだあと、直江の喉が鳴った。無意識に緊張しているのだ。もちろん直江だって男である。この状況がどう言ったものなのかぐらい理解している。それはつまり、貞操の危機である。男にそんな概念があるのかないのかは分からないが、簡潔に述べるのならば貞操の危機である。
「やっと雅治さんをぶち犯す時が来ました」
興奮しているのがハッキリとわかるほどに安倍の目が見開いていた。血ばしってなどはいないけれど、それでも鼻息はかなり荒い。何度も舌なめずりをされては、嫌でも直江が被食者なのだと思い知らされる思いである。体勢的にもどうにもならない程に直江は不利な状況に陥っていた。だからといって、大きな声を出して助けを求めるわけにはいかない。なにしろここは直江の自宅の寝室である。たとえ男同士であったとしても、裸で寝室のベッドの上にいたら酌量の余地なくそう言うことだと認定されるだろう。何しろ二人で仲良く駅前の店で飲食しているのだ。目撃者は多数いるわけだから、誰も直江の言い訳なんて聞いてはくれないだろう。
だから、直江は助けなんて呼べないのである。逃げたければ自力で逃げるしかない。内側から鍵がかけられる空間に逃げ込むしかないのだが、何しろ裸だ。そんなことをしたら風邪を引いしまうだろう。色々なことが頭の中を過ぎるけれど、直江の人生で培ってきた智識が何ひとつ役に立たないことだけは痛感したのである。
「いや、待ちたまえ。イキナリでは怪我を、私が怪我をしてしまうじゃないか」
何とか総動員させた知識の欠片から、男同士のまぐあいについて思い出してみた結果、口から出てきたことはコレである。
そうだ、これはいける。
直江の中で確信が芽生えた。安倍はぶち犯す?とか物騒な事を言ってはいるが、なんだかんだと直江に対して丁寧?な対応をしてくれていた。まずは男の子だということを思い出して、なんて言いつつ一応は優しく丁寧に枯れ果てていた直江の愚息を呼び覚ましてくれたではないか。男なら支配欲とでも言えばいいのだろうか、自分のものにしたい言うことを聞かせたい組み伏せたい。そう言った願望は持ち合わせているものである。ただ、それを上手いこと隠すか隠せないかという所に昨今のハラスメントが関わっているのだと直江は思っていた。
つまり、ベッドの上で男が欲望丸出しになってしまうのは普段欲求を押さえ込んでいるからこその反動なのである。直江はそうだと思っている。つまりだから、そこを的確に安倍に伝えることが出来れば、この状態を回避出来る気がするのだ。
「雅治さん、安心してください」
そんなことを言って安倍は得体の知れないボトルを直江の前に出てきた。この際、どこに隠していたのかなんて気にしてはいけない。出処が恐らく直江の頭の後ろの方だった気がしなくもない。
「なんだね。それは」
嫌な予感しかしなかった。直江だって若かりし頃はラブホテルと呼ばれる場所に行ったことがある。車で入るところと徒歩で入るところとでは難易度が大分違う。いきあたりばったりで入ってしまうと残念なつくりだったりもするものだった。だが、あのころはスマホなんてなかった時代だ。携帯電話で調べられることなんてほとんどない。クチコミの掲示板で地元を探すのは気恥しかった。だからこそ、雑誌を読み漁って智識を蓄えた物である。通信販売のページでその手のグッズの知識も得た。だからこそ、目の前に出されたボトルに対して嫌な予感しかないのである。あからさまに怪しい色合いのボトルである。ピンクに紫なんて、そうそう使われるような色合いではない。Loveという文字が最早ヤバそうである。
「ローションに決まってるじゃないですか」
予想通りの答えが安倍の口から出てきた。分かっている。知っている。半端ではあるがその程度の知識はある。男同士でなくても、男女間でも使われることは使われる。所謂潤滑である。男にも女にもある穴を使用するのだ。そこは女にしかない穴とは違い自然分泌の潤滑剤を生み出さない。だからこそ必要とされるけれど、リスクが少ないから若者でも安心して挑める。とか、いわれていたけれど、多分リスクは沢山ある。
「いや、そうではなくて、だね。隆弘くん、無理だよ。入らないだろう」
何が何処に?とは決して口にしたくはない直江である。わかっているからこそ、分かりたくはないことが世の中にはあるのだ。
「それこそ心配無用ですよ。雅治さん。事前準備は風呂場でしてあります」
「風呂場で?」
安倍から言われた言葉を聞いて、直江の声がひっくり返る。いやいや、確かに風呂には入った。安倍の介助を貰いながらではあるが、確かに風呂に入った。温かくて気持ちの良い風呂に入り水を飲み、直江はものすごくスッキリしたのだ。
「ええ、一緒にお風呂に入って雅治さんの後ろ、しっかり準備させて頂きましたよ」
絶望である。
準備されていただなんて、聞いていない。いや、いつどのようになにをされてしまっていたのか、直江にはさっぱり記憶にないのである。確かにスッキリはした。それが何かなのか、実の所直江には分からない。と、言うより、記憶にございませんないのだ。断片的には覚えてはいる。楽しく食事をして、久しぶりの酒を飲んだ。久しぶりすぎてペース配分を間違えたのは否めない。五十代にもなって若者のような飲み方をしてしまったのだろうと思っていた。ふわふわとした気持ちで足取り軽やかに帰宅した。安倍から水を貰いコップ一杯飲み干した。
「いや、その、あ……雅治くん、君は一体私になにをしたんだ?」
必死で記憶を手繰り寄せてもまるで思い出せない。直江は絶対絶命のピンチに陥っていた。
「何をしたって、隆弘さん、コレからナニをナニするんですよ。事故にならないようにちゃんと準備してありますから安心してください。俺、精一杯頑張ります。隆弘さんの処女、ありがたくゴチになります」
そう言うやいなや、安倍は器用にボトルの蓋を開け、中の液体を時分の手のひらにとるとそのままその手を直江の知りへと持って行った。
「ひっ」
覚悟はしていたものの、出すべき器官にナニかが入り込んできて、直江は短い悲鳴を上げたのだった。
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