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あの女の子が店に来て、丁度一週間経った日。あの日以来彼女が店に来ることはなく、毎日のように店の外も注意して見ていたのだが、店の前を通る様子も見受けられなかった。
――何探してんだ僕。きもいって。
レジカウンターの前で大きなため息をつくと、窓を拭いていた三木さんに「最近ため息ばっかりですね」と呆れられた。
そんなにため息ついてたかな。なんで、ああ、卒論のこと考えてたら憂鬱になってきちゃってさ。……なんて言い訳を考えてしまうあたりも気持ち悪いな。
もう一つ大きなため息を吐いたとき、カランコロン、と控えめなベルの音を立てて店の扉が開いた。
午後二時半。
あの子だ! 顔を挙げた僕はハッと目を見開いた。
今日の彼女は、半袖で裾が控えめのフリルになっているライトグレーのカットソー、ミモレ丈のほとんど白に近いような薄いピンクのプリーツスカート、靴とバッグはこないだと同じ物だった。
「いらっしゃいませ」
よし、噛まずに言えた。思わず笑みがこぼれてしまいそうで堪えている僕を尻目に見た三木さんが、ふっと笑った気がした。
その女の子はまっすぐショーケースの前まで来て、この間のようにさほど悩むことはなく、ショーケースの端のマカロンの陳列を指差して「マカロンのバニラを一つください」と言った。
マカロン一つだけ? 僕ははたと疑問に思ったが、すぐにショーケースからマカロンを取り出した。
「持ち歩きのお時間はどうされますか?」
「三十分でお願いします」
三十分ということは、彼女の家は店からさほど遠くないのかな。いや、道中で食べるのかもしれないし。なんせまた彼女の顔をこうして見られたことが心から嬉しい。
手早く包装を済ませ、会計をする。今日は財布を開こうとする彼女の顔をじっくりと見てみた。
改めて可愛らしい顔立ちをしている。くっきりとした二重と、大きめの涙袋が印象的な目元。財布にかける指に落としたその目の、伏せられた睫毛の長さに思わず息を飲んだ。そして決して高くはない、日本人特有の柔らかそうな小さい鼻。定期的にケアをしているのか潤った桜色の唇。右分けの前髪の隙間からのぞく、髪よりワントーン明るめの毛並みの整った眉。
女優並の美人ではないと言ったが、このとき僕は確信した。この子は僕の好みの、ドンピシャなのだと。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
去り際に彼女は、僕と窓を拭いていた三木さんにも会釈をし、控えめに扉を開けて店を出た。
「……なになに、なんですか。まーちゃん。顔赤くないですかー?」
「うっさい、赤くねーよ。ほら休憩行って来て」
「照れない照れない。お先に休憩いただきまーす」
バケツを片手に三木さんが厨房に入って行くのを確認してから、僕はその場に崩れ落ちた。
熱を持った頬を両手で抑え、大きく息を吐く。
顔が、熱い。
――何探してんだ僕。きもいって。
レジカウンターの前で大きなため息をつくと、窓を拭いていた三木さんに「最近ため息ばっかりですね」と呆れられた。
そんなにため息ついてたかな。なんで、ああ、卒論のこと考えてたら憂鬱になってきちゃってさ。……なんて言い訳を考えてしまうあたりも気持ち悪いな。
もう一つ大きなため息を吐いたとき、カランコロン、と控えめなベルの音を立てて店の扉が開いた。
午後二時半。
あの子だ! 顔を挙げた僕はハッと目を見開いた。
今日の彼女は、半袖で裾が控えめのフリルになっているライトグレーのカットソー、ミモレ丈のほとんど白に近いような薄いピンクのプリーツスカート、靴とバッグはこないだと同じ物だった。
「いらっしゃいませ」
よし、噛まずに言えた。思わず笑みがこぼれてしまいそうで堪えている僕を尻目に見た三木さんが、ふっと笑った気がした。
その女の子はまっすぐショーケースの前まで来て、この間のようにさほど悩むことはなく、ショーケースの端のマカロンの陳列を指差して「マカロンのバニラを一つください」と言った。
マカロン一つだけ? 僕ははたと疑問に思ったが、すぐにショーケースからマカロンを取り出した。
「持ち歩きのお時間はどうされますか?」
「三十分でお願いします」
三十分ということは、彼女の家は店からさほど遠くないのかな。いや、道中で食べるのかもしれないし。なんせまた彼女の顔をこうして見られたことが心から嬉しい。
手早く包装を済ませ、会計をする。今日は財布を開こうとする彼女の顔をじっくりと見てみた。
改めて可愛らしい顔立ちをしている。くっきりとした二重と、大きめの涙袋が印象的な目元。財布にかける指に落としたその目の、伏せられた睫毛の長さに思わず息を飲んだ。そして決して高くはない、日本人特有の柔らかそうな小さい鼻。定期的にケアをしているのか潤った桜色の唇。右分けの前髪の隙間からのぞく、髪よりワントーン明るめの毛並みの整った眉。
女優並の美人ではないと言ったが、このとき僕は確信した。この子は僕の好みの、ドンピシャなのだと。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
去り際に彼女は、僕と窓を拭いていた三木さんにも会釈をし、控えめに扉を開けて店を出た。
「……なになに、なんですか。まーちゃん。顔赤くないですかー?」
「うっさい、赤くねーよ。ほら休憩行って来て」
「照れない照れない。お先に休憩いただきまーす」
バケツを片手に三木さんが厨房に入って行くのを確認してから、僕はその場に崩れ落ちた。
熱を持った頬を両手で抑え、大きく息を吐く。
顔が、熱い。
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