2 / 42
2貴族裁判
しおりを挟むジュリエットが連行されるのを見届けたゴードンはその足ですぐリンの元へ急いだ。
ベッドに横たわり眠るリンの顔色はまだ優れなかったが、医者が言うには命に別状はないらしい。ゴードンの処置が良かったのと飲んだ毒が微量だったのだ。
「ああ、助かって良かった。君の身に何かあったら私はどうしたらいいんだ」 ゴードンはそっとリンの手を取り、優しく自分の両手で包み込んだ。
ゴードンがミナの聴取を始めようと廊下に出ると弟のライオネルがこちらに向かって歩いて来た。
「兄上、リンが倒れたと聞きましたが」その顔には困惑の表情が広がっている。
「ああ、詳しくは歩きながら話そう。私はこれからミナの聴取に向かう所だ、お前も同席してくれ」
「分かりました。しかし聴取とはまたなぜ? まさか俺が遅れた茶会で何かあったのですか?」
「ああ。リンが毒を盛られた。幸い命に別状は無かったが・・」
「毒ですって! では犯人はミナなのですか?」ライオネルは心底驚いて兄の顔を見返した。
「まずは聴取してからだ」ゴードンは厳しい表情でそう言ったまま押し黙ってしまった。
ミナの聴取はゴードンの執務室で行われた。
ミナはリンのカップに薬を入れて欲しいとジュリエットから薬の小瓶を手渡された事、その薬は滋養強壮剤で、最近リンから『多忙で疲れが取れない』と相談されたからだとジュリエットに言われた事を供述した。
「リン様は王太子殿下とのご婚約が決まってからとてもご多忙でしたから、お疲れの事は皆が存じておりました。ですから私も何の疑いもなく薬をリン様のお茶に入れてしまったのです」
ミナはボロボロと涙を流しながら訴えた。
「どうか、どうかお許し下さい。私は決してリン様を傷つけるつもりは無かったのです!」
ミナの供述を聞いているライオネルの顔から血の気が引いて行った。「 それは・・本当なのか? 本当にジュリエットがお前に薬を渡したのか?」
その質問にはたった今入室して来た王立騎士団の団長ネイサン・ロードが答えた。
「ジュリエット様のパースからお茶に混入されたと思われる毒の小瓶が見つかりました。中身は分析に掛けている途中ですが」ロードはここで言葉を切った。
「毒なのには間違いないようです」
ゴードンは頭を振った。
「ライオネル、残念だがジュリエット自身も「妃教育を受けてきたのは自分なのに」と話していた。リンを妬んでの行動だったのだろう。リンがいなくなれば自分が妃になれるとでも考えたのか、浅はかな女だ」
「そっ、そんな」ライオネルは兄の言葉をにわかには信じられなかった。自分の目で、自分の耳でジュリエットから話を聞きたかった。だから今はただこう言った。「俺も残念です・・兄上」
ライオネルはそう言うとゴードンの執務室を出て行った。
後日ジュリエットからも聴取がなされた。確かに毒薬は自分が購入した物だと認め、リンを妬む気持ちもあったと認めた。
ただ毒をリンのカップに入れる指示をしたかと聞かれると「指示していない」と一言言ったきり、それ以上は何も話さなくなってしまった。
ジュリエットは貴族裁判に掛けられた。
裁判の間もジュリエットは聴取の時と同じ事のみを返答し、それ以外は何も話さなかった。
裁判の結果、リンの命に別状は無く、後遺症も残らなかった事、ジュリエットが高位貴族である事などを考慮されたが、リンは王太子妃になる人物だ。
後の王妃になる人物に私怨から自分勝手な犯行に及んだ事、また自らの手を汚さずミナを欺いて毒を混入させた犯行は非道だと非難され、地下牢に20年の幽閉を言い渡された。
あまりにも重い刑罰に世間は騒然となったが、ジュリエットの冷酷な性格を知っている貴族たちは裁判中も反省の色を見せない態度に当然の刑罰だと陰で囁いていた。
父親のクレイ公爵でさえ、家の恥だとジュリエットを罵り刑罰に異を唱えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、
魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる