ヤンキー、悪役令嬢になる

山口三

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38ゴードンの謝罪

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「話とはなんでしょう?」

 種明かしを終えた後、ゴードンに一人呼び止めを食らったあたしは、ちょっとだけ面倒そうに聞いてしまった。

「そう邪険にしないでくれ。私はただ君に謝りたかったんだ」
「え?」

「私はカイエンの言う事を鵜呑みにして君の事を誤解していた。幼い頃から君を知っていたはずなのに、自分の目で見て頭で考えて判断せず、周囲の噂を信じ込んでしまった」

 こんな風にゴードンに謝罪されたら、ジュリエットならなんと答えるだろう。後でジュリエットがこっちに帰って来た時に、恥ずかしくないような受け答えをしてあげたい。

 ジュリエットへの誤解は解けて、投獄も免れた。でもゴードンはやはり、リンと結ばれてしまう。それにライオネルの想いをジュリエットはどう受け止めるだろう?

「その‥君の気持ちも知らずに傷つけてしまった」
「わたくしとゴードン様は少し似ている所がありますね」

 ゴードンは真面目で人を信じやすい善人だ。それ故、カイエンの話にもあっさり騙され、正しい判断をすべき心の目が濁ってしまっていた。

 ジュリエットもその真面目さと勤勉さから、妃教育で教えられた通りに振る舞ったせいで、周囲から冷たい女性だと誤解を受けていた。

「そう・・なのだろうか?」
「はい。何にせよ、わたくしの願いはゴードン様のお幸せです。それはこれからも変わる事はありません。ですからどうかリンと幸せになって下さい」

「ジュリエット、もっと早く君と・・いや、君にも幸せになって欲しい。これからは良き友人として、困ったことがあったら何でも相談してくれ」

 ゴードンは言いかけた言葉を飲み込んで、踏ん切りがついたように笑顔で締めくくった。

 これでいい。きっとジュリエットもゴードンの幸せを一番に願っているはずだから。



 さらに数日後にはミナとカイエンが王宮の地下牢に移送された。ジュリエットと同じく貴族裁判にかけられる事が決定しているが、間違いなく有罪になるだろう。ジュリエットの様に獄中で死んでしまったりはしないだろうけど、長い時間を地下牢で暮らす羽目になるんじゃないかな。

 ミナからお金を貰って偽証をした雑貨屋の店主アル・クリークは雑貨屋を取り潰しにされて、国外追放の刑に処せられた。向こう10年は国に帰ってこられないらしい。


 あたしは以前と同じようにアカデミーに通うようになった。そして放課後に時間が取れると、騎士科の練習場を借りて弓を射った。無心に矢を放っていると、このまま自分の世界に帰れないんじゃないかという不安を一時でも忘れていられる。

「お前の世界じゃ女もみんな弓を射るのか?」

 最近はあたしにくっついて歩いてるライオネルが、隣で弓に矢をつがえながら聞いて来た。

「ないない。弓はスポーツの一種で狩りには使わないから、ほとんどの人が弓は射れないと思うよ。あたしは高校生の時に授業以外の活動として弓を習ったから射れるだけ」

「ふぅ~ん。じゃあお前はなんで弓を習おうと思ったんだ?」

 今日はやけに色々聞いてくるなぁ。ジュリエットが向こうでどんな風に過ごしてるか気になるのかな。

「んとね、わたしが子供の頃見た映画でね、弓を扱う綺麗な妖精が出て来たのよ。それに憧れて自分も弓を射れるようになりたいって思ったの」

 本当の所、その妖精に憧れたのはあたしじゃなくて藤本先輩だ。まだ小学生だったあたし達は夏休みに親に連れられてアニメ映画を見に行ったのだ。兄貴達はヒロインのお姫様が可愛いって騒いでたけど、藤本先輩はお姫様を守る騎士の内の一人、アーチャーの妖精にお気に入りの1票を投じたのだった。

「映画ってなんだ?」

 ライオネルが続けて質問している。だけどすぐ隣にいるはずのライオネルの声がすごく遠くに聞こえる。あれ? なんだか視界もぼやけて来てるような気が・・。

「ジュリエット、おい大丈夫か? ジュリエット!」




________




「ジュリエット、しっかりしろ、ジュリエット」

 ああもう、そんな大声で言わなくたって聞こえてるってば康兄ぃのバカ・・・・って、あれ? 康兄ぃの声?!

「だ、大丈夫ですわ。急にめまいがしただけですから」

 ジュリエットが応えてる! 気付くと康兄ぃがわたしの顔を覗き込んでいた。わたしは自分のベッドの上に横になっているようだ。

『ジュリエット、大丈夫? なんかあった?』
「和華!」
「なに! 和華が帰って来たのか?」

「お待ちください、確認致しますわ」
『いるいる。帰って来てるよ』

「ええ、和華が帰って来ていますわ。でもおかしいですわね、今日は半月ではありませんのに」
『へぇ~わたし達って半月の時に行き来してたんだ?』

『そうなのです。それより良かったですわ、無実が証明されて』
『そうそう! ライオネルがホントに頑張ってくれたからね~』

「今、裁判の話をしていますわ。和華と交代しましょうか?」
「いや、先にこっちであった事を説明してやってくれ」

『康兄さまも藤本先輩も、和華を戻すために尽力されていたのです。それでまずは本の作者に会いに行こうという事になりましたの』

 ジュリエットは作者の橘先生に聞いた話をしてくれた。そしてミナが黒幕だった事を突き止めたのはいいが、それを新月の、ジュリエットの体に戻った時にわたしに伝えようとして失敗した事も説明してくれた。

『それで、白紙の本に物語を書き込んだのです』

 わたしはライオネルがミナの動機に思い当たったのだと思っていたけど、それはジュリエットが書き込んだシナリオだった事を聞かされた。ボートの上での密談時にライオネルが動機に気づき、そこからミナの陰謀を暴く計画を立てるというシナリオだ。

『へぇ~っ、凄いじゃん! じゃあマギーにミナを尾行させるのもジュリエットの案だったの?』
『いえ、わたくしはミナに動機があって黒幕だという事を、お二人に知らせただけですわ。時間もなくて細かい所までは考え付かなかったのです。なので和華とライオネル様がうまく作戦を立ててくれる事を願っていましたの』

『なんだか不思議だね。本に書き込んだ事が向こうで現実になるなんて』
『ええ、本当に』

 ジュリエットがわたしに説明している間、康兄ぃはずっとスマホをいじっていた。

「康兄さま、何を見てるのか和華が聞いてますわ」
「ああ、藤本に連絡してた、和華が戻って来たって。飯食ってたみたいで、終わったらすぐ来るってよ」


 

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