どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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4話 冬華は決意する

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 この世界に来る直前の自分を思い出していたせいね。

 お茶のカップを手に、目に涙をいっぱいためた私を見て、兄のリックは慌てた。

「ローズどうしたの? どこか痛むの? お茶が濃すぎた?」

「いえ、何でもありません。その……昔の事を思い出してしまって」

 リックは妹の言葉に目を丸くした。

「息を吹き返してからのローズは本当におかしいよ。僕に対して敬語を使うなんて。僕たちはあんなに仲が良かったのに、こんな風によそよそしくするなんて!」

 そして私の手を取り、真剣に訴えた。

「心配事があるなら何でも僕に話すんだよ、一人で抱え込むのは良くない。僕も母さんも明るいローズが大好きなんだから。ほら、このケーキも食べて! これ大好きだろう?」

 このリックという兄の態度といい、家族はローズを溺愛しているようだった。 

 クローゼットには趣味の悪い(本物さんごめんなさい)ドレスがずらりと並び、女の子が好きそうな物で部屋は溢れかえっている。食事を好きなだけ食べさせている様子から、欲しいものは何でも与えていることが明らかだった。

 でも私は、こんな風に家族に愛されているローズが羨ましくもあった。そのローズに注がれていた愛情は今や自分のものだ。もしかしたら本物のローズは、どこか別の世界で生きているのかもしれない。

 お互い(多分)一度死んで転生したなら、戻れるかどうかも分からない。
 
 それならこの世界で家族に愛されるローズとして生きていく方がずっといいように思えてきた。

「お兄様、心配してくれてありがとうございます!」

 以前の私は素直じゃなかった。甘えたりするのはみっともないし、媚びを売っているようで嫌悪すらしていた。

 でも変わろう、以前はできなかったけれど、ここは素直に笑ってみよう。この世界で私は新しい私になるんだ!

「お兄様だって?! ローズ、『リック』でいいよ」

 リックはまだ私の反応に戸惑っていたが、当然か。中身が違うんだもの。


____



 それから私はここでの生活に溶け込むよう努力した。

 言葉が途中から理解できるようになったのと同じく、体に刻まれたローズの記憶が徐々に蘇ってきた。自分の幼少期から現在に至るまで。ローズの歴史は私の歴史になっていった。

 そしてどうやらこの体型は、やはり両親や周囲に甘やかされた結果らしい。リックも両親も普通体型なのだ。自分だけが、かなりのぽっちゃりさんだった。

 しかも相当な我がままで、家族以外、特に使用人に対する態度もひどい。こういうのは改善しなくちゃいけないわ。

 あとはこの体型のせいで命が縮まるのはまずいわね。これも何とかしないと! 以前はこの体が欲しがるのは太りそうなものばかりだったが、冬華の自我が体に馴染んだせいか、少しずつ食の好みが変わってきた。そう、私はこってり系は好きじゃないのよ。

 さらにその上で自分でも努力を惜しまなかった。



「お、お嬢様!? どうされましたか? その恰好は……」

 この世界の女性はズボンをはかない。例外は乗馬と狩猟のみ。

 仕方ないので乗馬ズボンとシャツを着て部屋で体操をしていたところを、部屋に入って来たエリーが見て仰天している。

 しかも私はベッドから毛布を下ろして床に敷き、その上でストレッチをしていた。

 ローズの体は柔軟だった。今の私は大股広げて前のめりになっている、T字のポーズだ。

 うう~ん、貴族の令嬢にはあるまじき姿ですよね、そうですよね。だからってエリー、そんな顎が外れそうなほど大きな口を開けて驚く事ないでしょ。

「エリー、口、くち! オホン、私ねダイエットすることにしたの」
 
 エリーははっと口に手をあてて平静を取り戻すと、聞き慣れない言葉に首を傾げた。

「ダいえ……でございますか?」

 うん? ダイエットって知らない?

「痩せるのよ。また心臓発作で死んだら困るでしょ?」
「まあ、また死ぬなんてそんな恐ろしい……」

 エリーはローズ付きのメイドだ。まだ幼い頃からサトリア家に奉公し下働きをしていたが、働き者のエリーは年が近いためローズ付きのメイドに抜擢されたのだ。

 エリーはローズのわがままとも上手く付き合って、いい関係を築いていたらしかった。心優しいエリーはまた私が死ぬなんて想像しただけで卒倒しそうだわ。

「それと食事のメニューも見直して欲しいのよ。スープは野菜たっぷりのコンソメにして頂戴、パンは油分と塩分を控え目にした軽いトーストに変えて。それから肉類は脂肪分の少ない赤身か鶏肉を。味付けは薄目でね。魚や野菜料理を増やすようにもしてほしいわね、生野菜じゃなく温野菜が理想的ね。それから……」

「す、すみません。書き留めていいでしょうか?」

「あらごめんなさい、私が書くから料理長に渡してもらえる?」
「はい、かしこまりました」

 私が書いたメモは、私から見ると日本語なのにエリーたちにも読めるらしくて便利だった。その逆もしかり。うん、異世界、悪くない!

 メモを受け取ったエリーは信じられないと言った目つきで、メモに目を落としながら部屋を出て行った。

 ――もう、体も人生も、流されるままにはしない。

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