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5話 走る令嬢
しおりを挟むやっぱりローズは太りやすい体質ではなかった。食事も改善して適度に運動を始めると簡単に体重は落ちて行った。
「ローズは一体どうしてしまったんだ?」
サトリア男爵(ローズの父)は今日も屋敷の庭をランニングするローズを心配そうに見ていた。
「太っているのは心臓に悪いからと、痩せる為にしているそうですよ」
母のマリアもローズを愛していたが父や兄ほど盲目的ではなかった。娘の自由を尊重して好きなようにさせていた。
「だがあんな風に走ったりするのは……兵士や騎士が訓練のために行う事ではないのか?」
「なんでも食べた物のエネルギーを消費しないといけない、とか言ってましたわね。筋肉を付けると何かが上がるから痩せやすくなる、とも」
「どこでそんな事を知ったんだ」
「あの子、本を読むのが好きじゃないですか。きっと本から学んだのですわ」
娘の心配はそれくらいにして皇宮へ行く時間ですよ、と妻に追い立てられて男爵は屋敷を出た。
サトリア男爵は帝国の財務次官だった。息子のリックも財務補佐官で親子揃っての出勤だ。
_____
私は広い庭をランニングしながら、再度この世界の事を考えていた。
私は一体どこに転生しちゃったんだろう。ヨーロッパみたいだけどカパリダ帝国なんて聞いた事がない。でもモンスターとかはいないからゲームの世界ではないみたい。
あ! 魔法は? 魔法が使えたらちょっと楽しいかも!
ローズは立ち止まって考えた。――ええと、魔法を使う時は普通どうするんだっけ?
私はおもむろに手のひらを前方に突き出し「ファイヤー!」と言ってみた。
シーーーーーーン
背後から「クッ」と笑いをこらえる気配が伝わってくる。エリーが口元を手で覆いながら立っていた。
「ローズ様は魔法がお使いになれませんよ、お忘れですか?」
「ああ~ほら、生き返ったら使えるようになってたりして~なんてね。そういう事例ってきっとあるわよね、私達が知らないだけで。ね?」照れ隠しで早口になる私。
――炎は手からじゃなく顔から出たみたいね。恥ずかしくて顔が熱い。
「お茶をご用意致しました。休憩されてはいかがですか?」
「そうね、そうするわ。あははは」
こういう時は笑って誤魔化すのが一番ね!
お茶の後、ローズは図書室に行ってこの世界の事を調べてみた。
――その結果、【ダラララララララ……ジャーーーン!! 】この世界には魔法が存在する!
え? ちょっと待って。なんだか今ドラムロールみたいなのが聞こえたんだけど。しかも、私の理解を待つみたいな“間”まであった気がする。まさかね、空耳……だよね。
えーと気を取り直して……で、その魔法は生活魔法の範囲を超えない程度らしい。しかも、魔法は有償で使えない人に提供される。魔法を使える人は、自動的にそれが職業になるみたいだ。
雷魔法を使える人は人間発電機って感じかしら? そのおかげで、かなり近代的な生活水準が保たれている。シャワーも出るし、明かりはロウソクやガスではなく電気みたいだし。
貴族の屋敷には何かしらの魔法が使える人間が一人は雇用されている。サトリア家には氷魔法が使える女性がキッチンにいて、とても助かっているらしい。
さて、私ことローズはそうした生活を続けて、季節がひとつ巡った頃――半年もすると見違えるほど痩せて綺麗になってきた。
もともと十七歳の若い体のせいか、筋肉がつくにつれて代謝が上がり、健康的で引き締まったボディが出来上がりつつあった。
白い肌はなめらかで、澄んだ琥珀色の瞳は、痩せたせいで一層大きく見えた。鼻筋もすっきりと通って、ぽってりした赤い唇は実年齢より大人びて見えた。
「うわあ……なんだか自分じゃないみたいね」
いや、自分じゃないんだけどね。
姿見の中の自分に見惚れてつい呟くと、エリーが胸を張って言った。
「もともとローズ様はお綺麗です! 男爵夫妻もリック様も美形ですわ。その血を引いておられるのですから自信を持ってください!」
外出着に身を包んだ私を、エリーは誇らしげに見つめて微笑んだ。
「それにしてもローズ様は凄いですわ。ご自分の力でここまで痩せられて。食事の改善なんてよっぽど強い意志がなければ続きませんもの」
手放しで褒められると、少しむずがゆい。でもやっぱりここも、素直に「ありがとう」と言っておこう。
さて、なぜ外出着かと言うと洋服を買いに出かけるためなのだ。
努力の甲斐あってほぼ普通体型に戻った私は、クローゼットにあるドレスが合わなくなってしまっていたのだ。
外に出た瞬間、なぜか胸の奥がざわついた。――誰かに見られているような気がしたのだ。
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