どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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8話 ジェイミー第一皇子

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 三週間はあっという間だった。
 
 ダイエット管理官というからには必ず皇子のダイエットを成功させなくてはいけない。なにせ文字通り、私の首がかかってるんだから。それに私を信用してこの仕事に推薦してくれたミーガン叔母様の期待を裏切りたくない。

 一応、何通りかのダイエット計画をノートにまとめてみた。

 調べてみた限りでは、この帝国にダイエット食品なんて無いし、低脂肪のミルクとか体に吸収されにくい糖分なんていうのも存在しない、開発もされていない。

 だから皇子に合ったダイエット計画を立てたあとは、工夫して作るなどして自力でなんとかするしかない。まずは第一皇子がどういう理由で太っているかを確認しないといけないわ。


 ミーガン叔母様が寄越した迎えの馬車は皇室のマークが入った、大きくて豪華で安定感のある立派な馬車だった。転生してすぐのころは、この馬車が苦手で馬車の移動がとても苦痛だった。

 もの凄く揺れて、背中やお尻が痛くなるし、進行方向と逆側に座ると酔うし。でも皇室の馬車はその全ての悪条件をクリアしていた。

 皇宮に到着すると、まずミーガン叔母様がいる皇妃宮に案内された。そこで叔母と一緒に皇子のいる宮に向かった。皇宮は広い、とにかく広い。初めて来たこの場所で、迷子にならない人がいたらぜひ会ってみたい。

「ローズは皇子様にお会いしたことはあるわよね?」
「会ったというよりお見かけしただけです、去年の建国祭で遠くから。なのでお顔もよく分かりません」

「そう、拝謁したことはないのね」
「あの、どういうお方なんでしょう?」

「大丈夫、ちょっと気難しく見えるけど根はいい方だから」

 あっそれ! 前も同じことを言ってましたよね。『根は』ってことは態度はそうじゃないんでしょう? 表面上は気難しくて、扱いにくいって意味でしょう? ああ~憂鬱になってきたわ。

 ミーガン叔母は、私の顔にはっきり表れた不安を見て苦笑していたが「あなたなら大丈夫」と根拠のない励ましをくれて、彼女はずんずんと廊下を歩いて行った。

 皇子の部屋の前には護衛騎士が一人立っていた。

「ジェイミー様と約束しております」
「皇妃様、お待ちしておりました。どうぞお入りください」

 護衛騎士はドアを開けて私たちを通してくれた。

 さすが帝国第一皇子の部屋だけあって、広さも豪華さも申し分なかった。ここはベルサイユ宮殿か?!
 
 あれ、でも……なんだかテーブルの上とか汚くない?

 ソファには上着やタイが放り投げられて、テーブルの上も本が乱雑に置かれている。本と同居して食べ残しのパンやお菓子があちこちに散らばっていた。

 メイドが一生懸命に片付けているところだったらしく、私達が入って行くと慌ててその手を速めた。

「申し訳ございません、すぐ片付けますので」

 テーブルの上を片付けたメイドは次に皇子のベッドへ向かった。

 横目でチラッと盗み見ると、ベッドの上にも本やらお菓子やらが散乱し、そこで寝転がって何かを食べつつ、本を読んでいたのが一目でわかった。

 当の皇子は奥のデスクから立ち上がってのっそりとこちらに向かって来た。うん、予想以上! かなりの巨漢だ。背が高い上に横幅も半端じゃないので物凄い威圧感がある。肌色は青白く、不健康さがみなぎっている。

 私たちにソファを勧めると、自分もドスンと腰を下ろした。振動がテーブルにまで伝わり、その上の物がかすかに揺れた。

「僕がジェイミー・カパリダだ」無表情のままそう言った彼の胸元には、やはりテロップが出てきた。

『ジェイミー・マカロ・カパリダ・十八歳・カパリダ帝国の第一皇子』

 やっぱり出るのね、この表示。まあ情報としては認知済みだけど。
 
 まずミーガン叔母が私を紹介した。

「この者が以前お話したわたくしの姪です」
「お目にかかれて光栄でございます、ローズ・サトリアと申します」

「ああ、いいよ。座ってくれ」

 立ち上がって挨拶した私をまた座らせ一瞥すると、ジェイミーは面倒そうに言った。

「君が僕を痩せさせようというんだね」
「はい、精一杯勤めさせていただきます」

「時間の無駄だと思うけどね」私から視線を外し、近くにあったお菓子に手を伸ばしながら皇子は言った。「どうせ君もすぐ諦めるんだろ?」

「ジェイミー様そうおっしゃらず。ローズはジェイミー様と年も近いですし、楽な気持ちで取り組んで頂けると考えております」

 投げやりな態度と言葉遣いのジェイミーに、ミーガン叔母様は幼い子供に聞かせるように優しくそう言った。

 今までも何度かダイエットに取り組んだ側近がいたらしい。でも皇子が非協力的で失敗に終わっているらしかった。今度もまた適当にあしらって諦めさせようという態度がありありと見て取れる。

 私は腹が立って来た。叔母様はこんなにも皇子様の事を心配しているのに、まるで他人事みたいなその口ぶり! この人は、自分の身体も、立場も、全部投げ出しているんだわ。

 皇子に会うまでは面倒で憂鬱だったけど、彼のいい加減な態度とこのだらしのない部屋を見たら、そんな気持ちも吹っ飛んでしまったわ。

 私を推薦したミーガン叔母様の顔を潰す訳にはいかないもの! 何がなんでもダイエットに協力してもらって、意地でも痩せるまで付き合ってやる。

 あなたは次期皇帝なんだから、覚悟を決めて頂きます!

 ——まずは、そのお菓子から没収ね。
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