どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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17話 剣術の稽古、再開

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 皇子はミーガン叔母様から私のダイエットの話を聞いたらしかった。

 再びダイエットに取り組むことになった私たちは、今後は食事制限だけでなく、筋力を付けることで代謝をアップさせて行き、リバウンドしにくい体造りを目指す方向で話がまとまった。

 初めの一週間は朝の散歩から始めた。朝食前に皇宮の広い庭園を十五分歩く。ただし、早めの速度で。

 まだ体重もある上に筋力も弱いため、大股に歩かず歩幅を小さくして腕をよく振りテンポよく早歩き。もちろん私も同行した。おしゃべりしながらだと有酸素運動と肺活量アップの効果も期待できる。

 ただの散歩と侮るなかれ、慣れるまでは結構きついのよこれ。

 毎朝の散歩で私は皇子と色んな話をした。

「ローズは体を動かすことが得意なのか?」
「あまり得意ではありません。どうしてそう思われるのですか?」

「ミーガン妃に聞いた話ではダイエットの時に自邸の庭を走り回っていたと」
「ダイエットのためだけに走っていたのですわ。実は……運動は好きではありません」

 私は苦笑いした。

「徒競走だって遅いんですよ、子供の頃リレーに担ぎ出されて、大恥をかいた苦い思い出もあります」

「徒競走のリレー?」

 皇子はきょとんとしている。あっ、まずい。これは前世の記憶だわ。この世界にそんなのは存在しないんだ。

「ええっと……兄と、そうです。兄と一緒に駆けっこをした事があるんです。小さな子供頃に! それで足の遅い私を兄がからかって、恥ずかしかったのです」

「なるほど、そういう事か」

 はぁ~危ない危ない。

 皇子と毎日色んな話をするせいで、時々前世の記憶と混濁してしまうことがままあった。そんな時、皇子は不思議そうな顔をしながらも楽しそうに私の話を聞いていた。


 慣れてきたら午後にはランニングを追加した。

 ランニングコースとして選んだ皇宮の馬車道に、乗馬用のズボンとシャツを着て現れた私を見て皇子は目を丸くした。

「ローズ。君、もしやその恰好は、一緒に走るつもりなのか?」

「はい! もちろんです! 一人では辛くとも、二人で走れば頑張れます! 私の健康にもいいんですから一石二鳥ですわ!」

 乗馬スタイルで皇子と走る私の姿を見て、皇宮を行き交う人々は驚愕の表情を顔に張り付けていた。時には立ち止まって見られることもあったが、そんなのは気にしていられない。

 雨の日は広い皇宮内を二人で走った。二、三か月もすると皆この光景に慣れてきたようで、振り返る人もいなくなってきた。



――――――


「あれは……兄上ではないですか?」

「シャルル様、そうですわ。なんでも痩せるために人を雇われたそうでございます。指南役の方は女性なのに、あの様にして一緒に走るなんて、周囲の者は皆驚いておりますわ」

 帝国の第二皇子のシャルルは、自室の窓から下の庭園を眺めていた。

 侍女は、ジェイミー皇子のダイエットなるものは運動から食事制限まで徹底して行われていると、シャルルに教えた。

(変化の前触れかもしれない。今回は以前とは違うような気がする!)

 同年代と思しき女性と楽しそうに走るジェイミーを、シャルルは食い入るように見つめていた。


____

 

 再開した皇子のダイエットは順調だった。

 何より、皇子のやる気がまったく違った。皇子はダイエットに関心を寄せ、私にも色々と質問してくるようになった。それに答えるのも、一緒に走るのも私は楽しかった。

 皇子の態度を見て、生活の向上も図る。夜はぬるめのお風呂にゆっくり浸かって、デトックスと睡眠の質の向上を目指す。規則正しい生活はダイエットにも大切な要素である。特に、0時までには就寝すること。寝ながら本を読まないこと。寝る前のスマホはだめよ、って感じかな。




 皇子がダイエットを開始してほぼ一年が過ぎた。皇子と一緒に運動を続けたおかげで、私もすっかり痩せて健康になった。

 そして皇子はというと……。
 
 前半の半年、なかなか効果が出ずに苦しい思いをしたが、後半は皇子の奮闘努力の甲斐あって、久しぶりに皇子と再会した人は、誰だか分からないほど容姿が変化していた。

 体が軽くなってくると動く事への抵抗もなくなったようで、皇子はまた剣術の練習も再開した。

 剣術の稽古は皇室騎士団の副団長、ルイス・ブラウンが担当していた。

「いやぁ、ジェイミー様は本当に呑み込みがお早い」

「そうなのか? 何せ剣術の稽古は子供の時以来だから、初心者と大差ないであろう」

「子供の頃も筋が良かったと、当時の担当者から伺いました」
「そんな事を言われるとは思ってもみなかったな」

 皇子は心から驚いているようだった。私は稽古の合間に冷たい飲み物を差し入れに行ったのだ。
 
 お二人は汗を拭きながら、美味しそうに冷たいレモネードを飲み干した。

「甘さと苦みが程良いバランスで美味しいですね!」

 副団長はお代わりを求めながら、私を見てレモネードを褒めた。

 ルイス・ブラウン。年齢は二十五歳。皇子と並ぶほど高長身で、明るい栗毛色の髪をした、緑の瞳が美しいイケメンだ。まだ未婚、婚約者なしというからさぞかしご令嬢方にモテるだろう。

 うっ、待って! その透き通るような緑の瞳で直視されると動揺しちゃう。イケメンに免疫がない私には眩しすぎる!

「ローズは博識で料理も上手いのだ」

 皇子が話しかけたので副団長の視線は皇子に移った。ナイスタイミング皇子! 私は心の中で皇子にサムズアップ。

「ええ、ぜひまたこのような飲み物を頂けたら、私の指導の励みになります!」そう言って、彼は再びキラキラとした眼差しを私に向けてきた。

 この日から剣術の稽古と、私の差し入れはセットになった。



________



「何だって? 皇子のダイエットが成功してるだと!」

「そうなのよ。私が美味しいお菓子を持って行っても見向きもしないのよ。メイドに聞いてみたら、従者や使用人に分け与えているみたいで、自分は全く口を付けてないらしいの」

 カトリーヌは窓際で外を見ているその男に近づいて言った。

「菓子がダメなら間食を持っていくのはどうだ? 味気ないダイエット食より美味しい物を差し入れすれば、思わず手が出るんじゃないか?」

「そうね、そうしてみるわ」

「それと……皇子のダイエットを管理している男爵家の令嬢も邪魔だな」

「そうなのよ! 四六時中皇子に張り付いて、うざいったらないわ。もうすぐシャルル皇子の誕生日よね、その時に身の程を知らせてやるわ。恥ずかしくて皇宮に出入りできないようにしてあげる」

 男はフフッと笑ってカトリーヌを抱き寄せた。

「君は美しい顔をして怖い事を言うね」

「あら、そんな私が好きなのでしょう? 殿下は」

 二人のキスはノックで中断された。

「ロベルト様、大公閣下がお呼びでございます」
「父上が? 分かった。すぐ行く」

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