どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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26話 エラー

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 週が明けて今日も元気にローズは出勤だ。

 皇子に挨拶を済ませると、ローズはそのままキッチンへ直行した。今日の剣術の稽古は三時頃だから、今から仕込めばちょうどいい時間に出来上がるだろう。

 今日は飲み物と一緒に出すデザート、ヨーグルトケーキを作る予定なのだ。

♪チャカチャッチャッチャツチャッチャッ♪ (出たーーー! っと無視、無視。いちいち気にしていたらきりがないわ)

 今日もネイサンに手伝ってもらってワゴンで大量のデザートと飲み物を騎士団の訓練場へ運んで行った。ネイサンにはキッチンでケーキの味見をお願いしてあった。いつも運搬の手伝いだけでは申し訳ない、そう思ったローズの気づかいだった。

「今日はデザートも一緒にお持ちしました」

 団員達は「おお~」「やった!」と言いながらぞろぞろ集まってきた。
 最近皇子と一緒の時間に訓練すると、美味しい飲み物やデザートにあり付けると知ったのか、この時間帯の団員数は日ごとに増えていた。

「これは先ΨのΔザーΦとΨ〇物でΔね?」

 一口食べたルイスがローズに話しかけた、のだが……。この世界で目覚めたときと同じに、ルイスの言っている言葉が、ローズには部分的に聞き取れない。

(えっ、また? どうしよう、前は時間経過で聞き取れるようになったけど……)

 ローズは突然のことに一瞬固まってしまった。そして無意識に首を傾げた。

「こう人が増えては騒がしいですね。このケーキ、先日のデザートと同じ物ですね?」

 ローズはほっと胸をなでおろしながら、頷いた。

「はい、レストランのよりは劣りますけど」

「私はこちらの方が好きです。さっぱりしていて食べやすい」

 すると、二人の会話に気づいたジェイミー皇子が、さりげなくローズに尋ねた。

「先日のデザートとは?」

「あ、これは先日レストランで食べたケーキを真似して作ってみたんです」

「昔、皇室のコック長をしていた方が経営しているレストランなんです」
 
 ルイスがそう付け加えると、皇子は思わず睨むような目つきでルイスを見た。

「二人で行ったのか?」(声が、思ったより冷たく響いた。どうしてこんな言い方をしているんだ)

「は、はい。オペラを観たあとに……」

 皇子の反応に驚いたルイスが答えると、皇子は食べ終わった皿をワゴンに戻してネイサンに後片付けを命じた。

「行くぞ、ローズ。僕はお茶は執務室で飲むことにする」

(ルイスがローズとオペラを観に行った? そのあとレストランで食事した? つまり二人はそういう仲だという事か? ……だけどどうしてそんなことで僕がイライラするんだ。僕が口出しする事じゃない。なのにどうしてこんな怒りが込み上げてくるんだ……)

 早足で皇宮に戻る皇子、をローズは必死で追いかけた。

(何かまずい事しちゃったかな? レストランで食べた物を真似て作るなんていけなかった? 絶対皇子様は怒ってるよね……)

 ルイスの言葉が聞き取れなくなったと思ったら、皇子の機嫌も悪くなる。トラブルって一気に押し寄せるのね……歩を速めながら、ローズは困惑するのだった。

 執務室に戻った皇子にお茶を淹れたが「ありがとう」と言ったきり、皇子は黙々と仕事を続けた。

「あの、ほかに御用がなければ下がってもよろしいでしょうか?」

 顔を上げた皇子はすぐに返事をしなかった。ローズの顔を見ながら何か考え込んでいる。

「あの……」

「ええと、そうだな……用事は……あ、暖かい茶をもう一杯淹れてくれ。それが済んだら帰っても構わない」

(僕は何をやっているんだ。ローズにこのまま帰って欲しくない。理由もない、用事だってないのに)



 ローズの帰宅後、夜も更けてから皇子が自室に戻ると、ネイサンが入って来た。

「お風呂の用意が整いました」
「ああ、ありがとう。今日は背中を流してくれるか?」

 珍しい事があるものだとネイサンは思った。普段、風呂やシャワーは一人で済ませる皇子が、こんなことを頼むとは。

 ネイサンはジェイミーより五つ年上だ。ジェイミーが子供の頃から従者兼遊び相手としてずっと仕えてきたのだった。

 母親を早くに亡くし、皇帝は自分を顧みない。寂しい気持ちから、食事の量が増え不健康になっていったのもネイサンは気づいていた。子供の頃のジェイミーは利発で活発な方だったのに。

 だがこうしてまたもとの溌剌とした皇子に戻られて本当に良かった。これも全てローズ様と、ローズ様を連れてきて下さったミーガン様のお陰だ。

「今日のローズ様のデザートはとても美味しかったですね」
「ネイサンも食べたのか?」

「はい、キッチンで味見を頼まれまして。ジェイミー様はこの味を好まれるかお尋ねになりました。ローズ様はいつもジェイミー様のことを一番に考えておられますね」

「そうなのか?」
「はい。間違いございません」

「僕は、ローズの苦労に何かを……返せないものかな?」

「ジェイミー様の率直な気持ちをお伝えするのがいいと思います。礼を言われて嬉しくない者はおりません。明日は久しぶりにダンスのレッスンがございます。お相手になって頂いては如何でしょうか?」

 ダンスの相手……ジェイミーは少し顔を逸らし、「うん」とだけつぶやいた。

(おかしい。ルイスが何をしたわけでもない。ローズが誰と出かけようと、僕には何の関係もないことだ。分かっているのに、感情だけが言うことを聞かない)


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