どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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39話 年越しの日

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 今年最後の日。

 皇宮では夕方から始まる年越しパーティーの準備で大わらわだった。

 建国祭のように外国からの客はいないが、それでも帝都の近くに住んでいる貴族が大勢詰めかける。

 皇室騎士団も皇宮の警備や護衛にたくさんの人員が当てられた。ルイス・ブラウンはシャルル皇子の護衛に配置された。

 本音は、ルイスもローズをエスコートして年越しパーティーに参加したかった。夜には花火が上がる。それを二人で眺めたかったが、自分の仕事ではそんなゆとりはなかった。パーティー会場で会うことくらいは出来るだろう。


_______



「まあ~とっても綺麗よローズ」

「お嬢様にぴったりですわ! サイズもデザインも……では最後にネックレスをお付けします」

 自分の支度が早く終わった母は、エリーと一緒になって私のドレスアップを楽しんでいた。アクセサリーが入ったケースを開け、エリーが私の首にネックレスを掛ける。

 夕方、まだ空がほの明るいこの時間、アレキサンドライトは光に当たると深いグリーンに輝いた。

 そう、私はジェイミー皇子からの贈り物を受け取った。

 それで分かったことがひとつある。視聴率が下がる行動を選択して、実際に視聴率が下がるとペナルティが課せられるのだ。

 あの日、悩んだ末に出した私の答えは『受け取る』

 そう決めた途端、視聴率が上がり始めたのだ。と同時にエリーの言葉が聞き取れるようになった。

 視聴率を軽く見るのは危険だ。

 今回はエリーだったけれど、もし関わりの深い人の言葉が聞き取れなくなったら? もし原因を突き止められなくて、聞き取れないままだったら?

 想像するとぞっとした。


「支度は出来たか~?」

 ノックがしてリック兄様が入ってきた。今日の私のエスコート役は彼だ。ルイス様は、今日私をエスコートできないことを残念がりつつ、私に謝ってくれた。仕方ないわ、お仕事だもの。

 それに皇子様から贈られたドレスを着て、ルイス様にエスコートしてもらうというのも、少し気が咎めるわ。

「おお~我が妹は今日も素晴らしく綺麗だ! 今夜は悪い虫が付かないようにしっかり見張っていないとな!」

 んもう~妹バカにも程がありますよ、お兄様!

到着するころにはすっかり日が暮れ、灯りの魔法が施されたランプやシャンデリアが皇宮を美しく照らしていた。

 パーティーが開催されている大広間では大勢の貴族が賑やかに談笑している。今回は怪しい侍女に呼び止められることもなく、私は無事に大広間に入った。

「あら私もその噂を聞きましたわ。確かに今の皇子様なら、次期皇帝に相応しいですわね」

「うちの娘なんか、週に何度も皇宮の庭園に通い詰めてますのよ。ジェイミー様が皇帝になったら、うちの娘を側室に迎えてくれないかしら」

 どこからどんな風に流れるのか分からないが、ジェイミー皇子様が皇太子に指名されるという噂がここでも囁かれていた。

 あっ、シャルル様だわ! シャルル様の近くにはルイス様が控えていた。ルイス様が護衛担当なのね。

 私に気づいた彼は軽く会釈してにっこりと微笑んでくれた。
 良かった、この間のことでギクシャクするのは嫌だったから……。

 シャルル皇子様に続いてジェイミー皇子とフィアンセの登場が伝えられた。
 
 カトリーヌは相変わらず綺麗だった。ちょっとドレスが派手過ぎのような気がするけど、それを堂々と着こなしているんだから凄いわ。ジェイミー皇子は、あれは確かに一緒に選んだデザインね。色は……うん?……んんん?!

 最後に皇帝陛下とミーガン妃が姿を現し、皇帝のお言葉が終わるとオーケストラが演奏を始めた。

 お母様とお父様はもう踊り始めている。幾つになってもラブラブ夫婦なのはいいことです! リック兄様は二人を見て「僕らも兄妹仲良く踊ろうか!」と言って私の手を取ろうとした。

「ファーストダンスの栄誉は僕に譲って頂けないだろうか?」

 いつの間にかジェイミー皇子が私の後ろに立っていた。

「これは、第一皇子殿下」

 リック兄様は一瞬とても驚いた表情を浮かべた。だがファーストダンスの意義について高察を仰ぐこともなく、すぐに社交の仮面を被り愛想よく答えた。

「勿体ないお言葉でございます。殿下のお相手を務めるのは妹にとっても光栄なことですから」

「ローズ、私と踊ってくれないか?」兄の許可を得たジェイミー皇子が、私に視線を向けた。

 私も一瞬ためらった。気に入ったドレスや、高価な宝飾品をもらったせいではない。もちろん視聴率を意識したわけでもなかった。

 私は皇子様の差し出すその手に、自然と自分の手を伸ばしていた。

「……はい、喜んで」

 ジェイミー皇子は私の手を取り、私たちは踊り始めた。当然広間は騒然とした。

 舞踏会でもパーティーでも、ファーストダンスの相手は自分のパートナーかエスコートしてくれた相手というのが通例だ。最初の相手は自分にとって特別な人だという意思表示をするのだ。

 しかも私が着ているドレスと皇子の礼服はお揃いだった。施されている刺繍も同じ。皇子のタイの色はスカートのチュールと同色。どう見てもペアであつらえた物だった。

 みんなの視線が私たちに集中しているのは明らかだ。

「あらっ! ねえ、ジェイミー皇子様のお相手をご覧になって!」
「あの方は、前回スカートがやぶ……」
「しっ、今日のドレスはどう見ても皇子様とペアよ」

「カトリーヌ様はどちらに? あっ……」
「み、見てはいけませんわ! 目が合ったら大変よ」

 オーケストラの演奏が開始されたとき、カトリーヌは当然ジェイミーが自分の手を取るものだと思っていた。だがジェイミーはカトリーヌを置いてすたすたとローズの方へ行ってしまった。そしてあろうことか、ローズに最初のダンスを申し込んだのだ!

 一人取り残されたカトリーヌは怒りで全身を震わせていた。

 メッサ―伯爵は自慢の娘が、次期皇帝となる皇子と踊る姿を周囲に自慢しようと待ち構えていた。

だが、目の前の信じられない出来事にただ呆然と立ち尽くしてしまった。メッサー伯爵夫人は慌てて、一人で立っているカトリーヌをそっと隅へ連れて行った。

 『喜んで』なんて言ったけど、全く喜べない状況なんですけど!

 カトリーヌ様は般若のような顔でこちらを睨みつけ、ルイス様も驚きを隠せず顔に出てしまっている。

 私の家族は贈り物が届いた時点で、驚きの一波が来ていたのでそれほどでもなかったようだが。

 私の動揺を見たジェイミー様が申し訳なさそうな顔をした。

「すまない、驚かせるつもりはなかった」
「あの、ドレスや宝石も……色々とありがとうございます」

「とてもよく似合っている。宝石はすごく迷ったんだ、だからミーガン妃に相談して決めた」
「もしかして、礼服の色選びに行ったのは、初めからドレスも作る予定だったからですか?」

「そうだ。ドレスを贈りたいと言っても断られそうだから……」

 そうかもしれない。こんな展開になると分かっていたら絶対に断っていただろう。……でも本当にそうだろうか? 

 周囲の視線はどうあれ、彼と踊るのは楽しかった。二人の息を合わせて、リズムに乗り優雅に踊る。ジェイミー様の瞳は私をしっかりとらえて離さない。

「ローズ、この曲が終わったら父上に会ってくれ。君に礼を言いたいそうだ」

  
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