どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

文字の大きさ
41 / 51

41話 暗躍

しおりを挟む

「何よーーーーっ、どういう事よーーーっ」

 陶器やガラスが割れる甲高い音が部屋に響き渡った。
 目につくものを手当たり次第に投げつけて、カトリーヌがわめき散らしている。

「どうして、あの女が皇子と最初に踊るのよ! それに、あのドレス……まるで皇子とお揃いじゃない。
皇子も皇子よ。あんな身分の低い、醜い女に……どうして、あんなに入れ込んでいるの!」

 年が明けて一週間が経った今も、カトリーヌの怒りは収まらなかった。
 年越しパーティーのあとも皇子からは音沙汰なし。昨日、面会に皇宮へ行ったが門前払いを食らったのだ。

 カトリーヌの部屋は足の踏み場もないほど滅茶苦茶だった。そこへ父のメッサ―伯爵が入って来た。

「カトリーヌ、皇宮からお前あてに書状が来たぞ」
「何ですって!」

 ソファの横でクッションを鷲掴みにしていたカトリーヌは、それを放り投げて父親から書状をひったくった。

「昨日会えなかったことへの詫びに違いないわ。いえ、この間のパーティーでの顛末についてかもしれないわね。私を侮辱したこと、絶対に許さないわ! そうね……とびきり高い宝石でもねだろうかしら。買ってくれたら、少しは許し……」

 書状を読むなりカトリーヌの顔色が真っ蒼に変わった。

「ど、どうしたカトリーヌ。皇子からの詫びの手紙ではないのか?」

 カトリーヌは書状をビリビリと破り捨てた。

「婚約を正式に解消する、ですって?」
「な、な、なんだと!」

 婚約解消!? 娘が皇后になればメッサー家は今まで以上の権力を得て、いずれは大公家に並ぶ勢力になるはずが……。皇帝陛下からの信頼も厚いこの私の娘が何故、婚約解消などに!

 メッサ―伯爵はめまいを覚えた。キーキーと猿のようにわめき続ける娘を置いて、伯爵は部屋を出た。



_______



「そうか、随分と一方的に婚約解消されたもんだな」

「あり得ない! 何年も婚約関係にあったのに、最後は紙切れ一枚で終わらせるなんて酷すぎるわ!」

 広く豪奢な部屋のソファにロベルト・ロデロは座っていた。そしてその膝の上には、傷心の女を演じているカトリーヌが頭を乗せていた。

 実際のところ、傷付いたのはプライドであって心ではなかった。カトリーヌが欲しかったのは皇后の座であって、ジェイミーの愛ではなかったのだから。ロベルトもそれをよく承知していた。

「ねえカトリーヌ、話があるんだよ。悪い話じゃないさ。君は望み通り皇后になれるんだよ」
「どういう事? 私の婚約は解消されたのよ、もう皇后になんてなれないわ!」

「君が愛してるのは僕だろう? もし僕が皇帝になったら……」
「なっ! なんてこと言うの。そんなの誰かに聞かれたら反逆……」

「君が協力してくれたら上手く行くんだよ。あと僕たちに必要なのはお金だけだからね。僕の話を聞いてくれるかな?」

 膝の上に流れるカトリーヌの髪を指で弄びながら、ロベルトは下を向いた。 

 カトリーヌは体を起こし、座りなおした。「ええ、もちろんよ」


 カトリーヌはロデロ大公の屋敷から帰るとすぐに父の書斎を訪ねた。

「お父様、お話がありますの」

 メッサー伯爵は娘の話を聞いて、脂汗が額に浮き出るのを意識した。

 この話に乗ってロデロ大公に手を貸せば、婚約解消によって外れた権力へのルートを回復できるかもしれない。しかし一歩間違えば反逆罪で死刑にもなりかねない。

「ご決断なさって下さい。だって今までやって来たこととそう変わらないでしょう? ただお金の行く先が少し違うだけですわ。お父様は娘の幸せを第一に思って下さるでしょう?」

(『今までやって来たこと』……カトリーヌは私が横領していたことを知っていたのか。お金の行く先、確かに娘の言う通りかもしれない)

「むうぅ。ぐ、具体的にはどうしたらいいのだ?」

「お父様ならそう言って下さると思ってましたわ! まずはロデロ大公と会っていただきたいのです」


_______


「ローズ様、お茶が冷めてしまいましたので淹れ直します」
「あっ、いいのよエリー。このまま頂くわ」

「お嬢様、あの……年越しパーティーで何かございましたか?」

 エリーはいい子ね、私をとても心配してくれている。少しだけ、ほんの少しだけ話してみようかしら……。

 でも当の本人が自分の気持ちを分からないでいるのに、何を話せるだろう? 

 あの時……私は皇子様とキスしてしまった。

 触れる程度、ほんの軽いキスだったけど、ルイス様のときみたいにならず、
受け入れてしまった。
 ルイス様の時は体が勝手に動いてしまったのに、どうして今回はそうならなかったの?

「えっとねエリー、その、皇子様がね。贈り物をしてくれた第一皇子様がね、私とファーストダンスをご希望されて、それで一緒に踊ったのよ……」

「ええええええええっっ」

 エリーの反応は私の予想以上だった。

「お、お、お、お嬢様、それって、それって! あっでも皇子様のフィアンセの方は? 会場にいらしてなかったんですか?」

「いらしてたのよ。会場にはカトリーヌ様をエスコートして入られたんだけど……だからもう大変な騒ぎで」

「うわあぁ~、皇子様はローズ様と結婚されるのですね!」

 エリーは恋愛映画を見てるみたいにうっとりしている。

「えっ、いや、それは飛躍しすぎじゃないかしら。側室にという話は来るかもしれないけれど」

「それでしたら、カトリーヌ様と踊ってからローズ様と踊るんじゃないですか?」

 うっ、エリーの話はもっともだわ。ジェイミー様は皇帝陛下と婚約解消の話は済んでいるって言ってた。側室なら婚約を解消する必要はないんだわ。

 ああああもう~~この休暇が明けたら、私はどんな顔をして皇宮に行けばいいのだろう? 皇子様の顔をまともに見ることが出来るかしら……。


『只今の視聴率12.4%』

 あ、上がってる。前回の花火のときより上がってる。

 これって皇子様との関係が動いたせいよね、絶対。でも、ルイス様と『もっと、親密に』っていうテロップを無視したら、下がったこともあった。

 視聴者は私がルイス様と皇子様、どちらと結ばれても別にいいって思ってるのかしら。面白ければなんでもいいって?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お城のお針子~キラふわな仕事だと思ってたのになんか違った!~

おきょう
恋愛
突然の婚約破棄をされてから一年半。元婚約者はもう結婚し、子供まで出来たというのに、エリーはまだ立ち直れずにモヤモヤとした日々を過ごしていた。 そんなエリーの元に降ってきたのは、城からの針子としての就職案内。この鬱々とした毎日から離れられるならと行くことに決めたが、待っていたのは兵が破いた訓練着の修繕の仕事だった。 「可愛いドレスが作りたかったのに!」とがっかりしつつ、エリーは汗臭く泥臭い訓練着を一心不乱に縫いまくる。 いつかキラキラふわふわなドレスを作れることを夢見つつ。 ※他サイトに掲載していたものの改稿版になります。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

春告竜と二度目の私

こもろう
恋愛
私はどうなってもいい。だからこの子は助けて―― そう叫びながらも処刑された王太子の元婚約者カサンドル。 目が覚めたら、時が巻き戻っていた。 2021.1.23番外編追加しました。

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...