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裏切り者ルーエン

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空気がざわめいた。

森の木や動物達が落ち着きなく騒いでいた。

母か妹が動き出したのは魔力で分かった。
もしかしたらもう聖剣を見つけたのかもしれない。

俺は急いで森を駆け抜けた。

アレが見つかったら大変だ、焦る気持ちが強くなる。

魔女の魔力の気配を道しるべに走り、足を止めた。
足元に何人もの人が倒れている。
装備を着けているから騎士だろう。
首筋に手を当てる……ダメだ、もう…

周りの人も皆そうなのだろうか、誰か一人でも生き残りがいれば…

そう思っていたら小さな呻き声が聞こえた。
そちらに目を向けるとより魔女の魔力が強く反応した。

そこにいたのは小さな少年と妹の姿だった。
妹が少年の首を片手で掴み、その片手から黒い魔力を放出していて少年を呑み込もうと蠢いていた。

俺は手を地面に付いた。

「大地を震わせ、精霊の陣」

足元から突き上げるような地鳴りが響いた。
妹はすぐに俺の方を見て少年を投げ飛ばし、その場から飛んだ。
飛ぶのに少年は邪魔でしかないから離してくれて良かった。
俺は少年を受け止める。

カインとそう変わらない年齢の少年だ、何故こんなところにいるのか不思議だった。
カインみたいに拐われて来たのか、それとも騎士達に紛れて来てしまったのか。

「邪魔するんじゃないわよ、ルーエン」

近くで声がして前を向く。
するとそこには妹が洞窟の前で立って俺を睨んでいた。

あの洞窟に聖剣があるのか?

俺は少年を安全な木の下に寝かせて結界を張った。
これでもし俺達の攻撃が当たっても結界が守ってくれる。

少年の頭を撫でて妹の方を向いた。

「人間を庇うの?裏切り者」

「…小さな子供にまで手を上げるのか、お前は」

ギリッと妹は歯を噛み締めていた。

子供にまで手を上げるのが魔法使いだと言うのなら俺は裏切り者で構わない。

洞窟の中に入るには妹を負かす必要がある。

俺は再び妹に手をかざした。

妹も俺に向かって手をかざした。

スピードが勝負だ。

呪文が必要な俺と必要ない妹、当然妹の方が早くなるだろう。
なら時間稼ぎをするしかない。

妹の手から黒い禍々しいものが放出された。
それが蛇のように動き俺に向かってくる。

それを避けつつ小さく呪文を唱える。

一度避けてもまた蛇のようなのは向かってきた。
妹はニヤニヤ笑いながら高みの見物をしていた。

一撃で終わらせないと体力がなくなるのが早そうだ。
蛇を消したいが、妹に向けた方がいいだろう…妹が操る蛇も同時に消えると思った。

「光で照らせ!精霊の陣!」

「は…?なに、これ…」

辺りが眩い光で覆われた。

妹は目を黒いローブで塞いだ。

一度も試した事がなかった光魔法、発動して良かった。

妹も母も黒魔法を得意としているから俺は対抗するために魔法の中で最も覚えるのが難しいと言われていた光魔法を洞窟を探しながら練習した。
俺の心が闇に染まっていなかったからか光の聖霊は俺に応えてくれた。

闇魔法の蛇が消えて妹も耐えられず洞窟の中に入ろうとした。

ダメだ、あそこに入られたら…
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