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新人指揮官・カイン視点

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「カイン様、指揮官になる方をお呼びしました」

「入れ」

城の中で国王のサインが必要な書類を見ていたら、窓の向こう側からランドの声が聞こえた。
もう指揮官が来たのか、ランドに入るように言うと部屋に入ってきた。

女性とはいえ騎士を引っ張るとなればどんなキレ者なのか楽しみでもあった。

椅子から立ち上がって、ランドとその指揮官を見た。
俺の想像とは全くの真逆で、開いた口が塞がらなかった。

彼女が、俺達を指揮する人…なのか?

「初めましてカイン様、アリスと申します」

「…あ、あぁ…カイン・シュヴァリエだ…よろしく」

「精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」

俺に頭を下げるのは、どう見ても俺より年下の少女だ。
学校を卒業したなら、そんなに歳は離れていないと思う。
それでも、キレ者には見えない普通の少女が来たから驚いた。

ランドに目を向けると、ランドは頷いていた。
どうやら、冗談ではないようで…とりあえずどのくらい出来るか見てみようと思った。

見た目で判断するものではない、もしかしたら仕事になれば顔付きも変わるかもしれない。

「平和隊の隊員は会議室に集まっているなら君も来てくれ」

「はい!」

ランドと別れて、俺はアリスを会議室に連れて行った。

皆に会わせる前に、俺自身も聞きたい事がある。
城を出て、会議室がある兵舎までの道のりを歩いていた。
ランドにはある程度聞いたが、やはり自分の耳で直接聞きたい。

それが俺の平和隊に入る、絶対条件だからだ。
そうでないと、指揮官は任せる事が出来ない。

「君は、魔法使いの事をどう思っている」

「えっ…魔法使い…ですか?」

「誰しも幼少期の頃から魔法使いについて聞かされているだろ、遠慮なんていらない…君の本音を聞かせてほしい」

足を止めて、アリスの方を見ると少し遅れてアリスも足を止めた。

ただ隊に入りたいからとか、何となくふんわりした事を言うなら今すぐ辞めさせる。
この隊は名前こそ平和ボケしているようだが、そんな簡単なものではない。

常に命懸けなんだ、平和隊だけではなく全ての騎士が…
騎士団に入った事がなくて、いきなり指揮官にされたんだから知らなくて当然だ。
一般人に辛さや苦しさを気付かれないようにやっているんだから…

「私は、正直魔法使いって怖いものだと思ってました…街を襲ったり人を食べたり」

「それが普通だ、なのに何故君は平和隊に志願したんだ?平和隊について知らないわけはないだろ」

平和隊の仕事は一般人にも公表している、反感はあるだろうがそれが一番手っ取り早いと思ったからだ。
俺達は本気だと周りに分かってもらうには、人間と魔法使いを共存させたいと隠してはいけない。

だから、彼女がその事を知らない筈はないんだ。

ランドから騎士団に入りたいと言っていた事は聞いている。
ずっと兵舎の前で騒いでいたらしく、騎士達が俺に伝えに行ってランドが代わりに対応したらしい。

確かにあの時は他国との交流の話とかでゴタゴタしていた。
だからって、俺に話が行くのがいろいろ決めた後ってどうなんだ?

ランドは信頼しているが、今後は真っ先な俺に言うように言っておいた。

そして彼女は前に俺に助けられた事があり、俺の役に立ちたいと言っていたらしい。

助けた…記憶にないが、きっと彼女にとっては大切な記憶なのだろう。
ただ、俺への恩があっても魔法使いに対しては分からない。

俺が目指している未来だから協力したいとランドに言ったらしいが、正直動機としては薄い。
俺達騎士は魔法使いと会って、それでも共存を望んでいる。
両親を殺されても……その決意は簡単なものではない。

彼女は街を襲った魔法使いを見て、共存したいと思えるのか?

「私も、魔法使いと仲良くしたいって思います!」

「怖いと感じているのにか?」

「確かに、怖いです…でも、私はこのままじゃダメだと思うんです!」

「……」

「憎んでいるだけでは、私達人間も前に進めない…変わらないといけないんです!そうしたら憎しみで泣く人がいなくなります」

「……そうか」

アリスの心の中の叫びのようなものが聞こえた。
さっき言った言葉は嘘ではないのだろう、それは俺にも分かった。

決意は分かった、ただやる気だけではどうにもならない…とりあえずどのくらい出来るのか見せてもらう。

俺は「止まって悪かった、行こうか」と再び歩き出した。

会議室に着くと、椅子でくつろいでいたり話していたりのんびりと時間を過ごしている隊員達がいた。
俺の姿が見えると、話すのを止めていっせいに立ち上がった。

「もう話は聞いているが、新しい指揮官が来てくれた…今はまだ仮だから今後も指揮官をやってもらうかは全員で判断してくれ」

俺はアリスを連れて、皆の前で自己紹介をさせた。

女が来たからか大盛り上がりの隊員達を見てため息を吐く。
男とか女とかではなく、ちゃんと公平に見られるのか不安だ。
俺も平和隊の仕事の時は見るつもりだが、俺がいない間はイレインに任せる。

イレインも例外ではなく、目を輝かしていた。

俺はイレインを呼んで、アリスとイレインに話をする事にした。

「イレイン、俺がいない間はアリスの事を見ていろよ…平和隊の名に恥じぬ事をしろ、信頼してるから」

「分かっています!俺がアリスちゃんを守ります!」

「アリス…ちゃん?」

「お前、指揮官がどういうものか分かっているのか?」

「親しみを込めただけですって!」

「…はぁ、アリスも分からない事は俺かこのイレインに聞け」

「分かりました」

「よろしくね!アリスちゃん!」

先が思いやられるなと、イレインの態度に頭を抱えた。
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