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第七話︰足を踏み入れたが始まり
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乾いた土の匂い。
風に揺られて、木の葉が擦れる音がする。
「……ここが、暁の里。ですか?」
辺り一面、だだっ広い平地。その周りは木々に囲まれている。
ずいぶんと味気のない場所だ。正直拍子抜けしてしまって、紬は彗月に尋ねた。
「今いるのは、御車の停留所です。この木々を抜ければ、賑やかな景色になりますよ」
「ああ、なるほど……あら?」
ピンと何者かの気配を感じて、振り返る。
「誰かいますね」
「ええ、います。私が呼んでおきました」
彗月の言葉を合図に、気配の主がゆらりと姿を現した。
「──彗月さん、お戻りで。」
へらりと笑う口元に、細めた瞼から覗く真っ黒な瞳。灰色の長髪は高い位置でまとめて垂らして、扇子を片手に礼をすると、髪刺の飾りが小さく揺れる。
「そちらが例の巫女様かい?」
「!はい。紬と申します」
「へぇー」
彼は、紬の頭のてっぺんからつま先まで見下ろして、愉快そうに口角を上げた。
「目は巫女の証の金色で、髪は夜の空ぁ溶かした色かい。人形みてェでべっぴんなこった。あんたとお似合いじゃねーの、彗月さん」
「それはどうも。先日話した通り、屋敷まで案内を頼んだよ。時紀」
「はいよ、御意に」
時紀は紬に向き直り、名を名乗る。
「俺ァ案内人の時紀ってモンです。新入りさんに里を見せて回ったり、間違って里を出た迷子を連れ帰ったりと、仕事は色々。どーぞよしなに」
からっと笑う彼の耳は尖っている。彗月と気配が似ているし、あやかしで間違いないだろう。
「んじゃ、早速行きましょうや」
「はい。よろしくお願いします、時紀さん」
三人は時紀を先頭に、木々の囲いを歩いて抜ける。
「!」
紬は、抜けた先の明るさに目を細める。そしてゆっくりと見開いた。
──活気に溢れる里があった。
晴天の下、人々が行き交い、そしてあやかしが行き交っていた。
大きな牙を持つ男。その男に景気良く話しかける八百屋の人間。獣の尾を揺らす女。その女の隣で一緒に団子を食べ歩く人間。空を走る牛車のことなどは、誰一人として気にとめない。
異常な光景が、日常としてそこにあった。
「……さあ、足を踏み入れたが始まり!」
時紀は手元の扇子を広げた。
紬を振り返り、まるで物語の前口上のように、“案内人”の言葉を連ねた。
「此処は人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」
「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」
「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」
「──ようこそ、暁の里へ!」
風に揺られて、木の葉が擦れる音がする。
「……ここが、暁の里。ですか?」
辺り一面、だだっ広い平地。その周りは木々に囲まれている。
ずいぶんと味気のない場所だ。正直拍子抜けしてしまって、紬は彗月に尋ねた。
「今いるのは、御車の停留所です。この木々を抜ければ、賑やかな景色になりますよ」
「ああ、なるほど……あら?」
ピンと何者かの気配を感じて、振り返る。
「誰かいますね」
「ええ、います。私が呼んでおきました」
彗月の言葉を合図に、気配の主がゆらりと姿を現した。
「──彗月さん、お戻りで。」
へらりと笑う口元に、細めた瞼から覗く真っ黒な瞳。灰色の長髪は高い位置でまとめて垂らして、扇子を片手に礼をすると、髪刺の飾りが小さく揺れる。
「そちらが例の巫女様かい?」
「!はい。紬と申します」
「へぇー」
彼は、紬の頭のてっぺんからつま先まで見下ろして、愉快そうに口角を上げた。
「目は巫女の証の金色で、髪は夜の空ぁ溶かした色かい。人形みてェでべっぴんなこった。あんたとお似合いじゃねーの、彗月さん」
「それはどうも。先日話した通り、屋敷まで案内を頼んだよ。時紀」
「はいよ、御意に」
時紀は紬に向き直り、名を名乗る。
「俺ァ案内人の時紀ってモンです。新入りさんに里を見せて回ったり、間違って里を出た迷子を連れ帰ったりと、仕事は色々。どーぞよしなに」
からっと笑う彼の耳は尖っている。彗月と気配が似ているし、あやかしで間違いないだろう。
「んじゃ、早速行きましょうや」
「はい。よろしくお願いします、時紀さん」
三人は時紀を先頭に、木々の囲いを歩いて抜ける。
「!」
紬は、抜けた先の明るさに目を細める。そしてゆっくりと見開いた。
──活気に溢れる里があった。
晴天の下、人々が行き交い、そしてあやかしが行き交っていた。
大きな牙を持つ男。その男に景気良く話しかける八百屋の人間。獣の尾を揺らす女。その女の隣で一緒に団子を食べ歩く人間。空を走る牛車のことなどは、誰一人として気にとめない。
異常な光景が、日常としてそこにあった。
「……さあ、足を踏み入れたが始まり!」
時紀は手元の扇子を広げた。
紬を振り返り、まるで物語の前口上のように、“案内人”の言葉を連ねた。
「此処は人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」
「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」
「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」
「──ようこそ、暁の里へ!」
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