郷守の巫女、夜明けの嫁入り

春ノ抹茶

文字の大きさ
7 / 41

第七話︰足を踏み入れたが始まり

しおりを挟む
 乾いた土の匂い。
 風に揺られて、木の葉が擦れる音がする。

「……ここが、暁の里。ですか?」

 辺り一面、だだっ広い平地。その周りは木々に囲まれている。
 ずいぶんと味気のない場所だ。正直拍子抜けしてしまって、紬は彗月に尋ねた。

「今いるのは、御車の停留所です。この木々を抜ければ、賑やかな景色になりますよ」
「ああ、なるほど……あら?」

 ピンと何者かの気配を感じて、振り返る。

「誰かいますね」
「ええ、います。私が呼んでおきました」

 彗月の言葉を合図に、気配の主がゆらりと姿を現した。

「──彗月さん、お戻りで。」

 へらりと笑う口元に、細めた瞼から覗く真っ黒な瞳。灰色の長髪は高い位置でまとめて垂らして、扇子を片手に礼をすると、髪刺の飾りが小さく揺れる。

「そちらが例の巫女様かい?」
「!はい。紬と申します」
「へぇー」

 彼は、紬の頭のてっぺんからつま先まで見下ろして、愉快そうに口角を上げた。

「目は巫女の証の金色で、髪は夜の空ぁ溶かした色かい。人形みてェでべっぴんなこった。あんたとお似合いじゃねーの、彗月さん」
「それはどうも。先日話した通り、屋敷まで案内を頼んだよ。時紀トキ
「はいよ、御意に」

 時紀は紬に向き直り、名を名乗る。

「俺ァ案内人の時紀ってモンです。新入りさんに里を見せて回ったり、間違って里を出た迷子を連れ帰ったりと、仕事は色々。どーぞよしなに」

 からっと笑う彼の耳は尖っている。彗月と気配が似ているし、あやかしで間違いないだろう。

「んじゃ、早速行きましょうや」
「はい。よろしくお願いします、時紀さん」

 三人は時紀を先頭に、木々の囲いを歩いて抜ける。

「!」

 紬は、抜けた先の明るさに目を細める。そしてゆっくりと見開いた。
 ──活気に溢れる里があった。
 晴天の下、人々が行き交い、そしてあやかしが行き交っていた。
 大きな牙を持つ男。その男に景気良く話しかける八百屋の人間。獣の尾を揺らす女。その女の隣で一緒に団子を食べ歩く人間。空を走る牛車のことなどは、誰一人として気にとめない。
 異常な光景が、日常としてそこにあった。

「……さあ、足を踏み入れたが始まり!」

 時紀は手元の扇子を広げた。
 紬を振り返り、まるで物語の前口上のように、“案内人”の言葉を連ねた。



「此処は人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」
「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」
「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」

「​──ようこそ、暁の里へ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

働きませんわ。それでも王妃になります

鷹 綾
恋愛
「私は働きませんわ」 そう宣言して、王太子から婚約破棄された公爵令嬢エルフィーナ。 社交もしない。慈善もしない。政務にも口を出さない。 “怠け者令嬢”と陰で囁かれる彼女を、王太子アレクシスは「王妃に相応しくない」と切り捨てた。 ――だが彼は知らなかった。 彼女が動かないからこそ、王家は自力で立つことを覚えたのだということを。 エルフィーナは何もしない。 ただ保証を更新せず、支援を継続せず、静かに席を外すだけ。 その結果―― 王家は自らの足で立つことを強いられ、王太子は“誰の力にも頼らない王”へと変わっていく。 やがて外圧が王国を揺らしたとき、彼は気づく。 支配でも依存でもなく、並んで立てる存在が誰だったのかを。 「君と並びたい」 差し出されたのは、甘い救済ではない。 対等という選択。 それでも彼女の答えは変わらない。 「私は働きませんわ」 働かない。 支配しない。 けれど、逃げもしない。 これは―― 働かないまま王妃になる、公爵令嬢の静かなざまあ恋愛譚。 優雅で、合理的で、そしてどこまでも強い。 “何もしない”という最強の選択が、王国を変えていく。

処理中です...