郷守の巫女、夜明けの嫁入り

春ノ抹茶

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第二十三話︰いざ調査へ

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 祝言と再生の儀が行われるまで、あと二日。

 朝早くに目を覚ました紬は、軽く朝食を済ませて着替えた。
 今日は彗月と共に、学校の調査に臨む。手回ししてくれた彗月曰く、今日の紬は「彗月の視察に同行する教員志望の使用人」という設定になっているそうなので、春子に頼んで、使用人の着物を借りることにした。

「教員志望の使用人っぽい髪型……って、なにかしら」

 とりあえずは、元気な子供たちを相手にすることを想像して、髪をひとつに括っておく。
 廊下で彗月と合流し、さあと気を引き締める。

「行きましょう。」
「ええ。……と、その前に」
「!」

 彗月の手が、するりと頬に触れてきた。
 不意を打たれて心臓がはねて、思わずその場で固まる紬。

「瞳の色を変えないといけませんね。」
「……あ。そ、そうですね。」

 にこ、と爽やかに笑う彼を見て、ドッと体が脱力した。
 わざとからかっているのかしら。それとも素なのかしら。どちらにせよ、緊張して損した。
 一瞬で高鳴った心臓が置いてけぼりにされた気分で、紬は不服そうに、彗月を見上げる。

「変えるのはどうやるんです?先日細工をしてくれた時紀さんは、いませんけど……」
「いえ、まだこの屋敷にいると思いますよ。多分。」
「いる?……多分?」

 首を傾げる紬が連れていかれたのは、日暮の部屋だ。
 まさかと察したところで、彗月が「入っても大丈夫かな」と声をかける。
 少しの間の後に「どうぞー」と返ってきたのは、二人分の声だった。

「なんだァお二人さん、朝早くから揃って。」

 襖を開けるなり、布団に寝そべったままの時紀に言われた。
 それはこちらの台詞である。何故、当たり前のように時紀がこの部屋にいるのか。それも日暮より我が物顔で。

「こいつ、帰るのが面倒だからって泊まっていったんだよ」

 部屋主の日暮が同じ布団に座りながら、時紀の体を雑に叩いている。

「なはは、あと二日は居座る。」
「いや帰れ。布団が狭い。」
「時紀の分の布団も用意させようか?」
「俺の部屋は使われる前提ですか?もうこいつ用の部屋をくれてやってください、部屋を」

 朝からよく口が回る日暮に笑いながら、時紀はよっと体を起こして、紬を見た。

「んで?外に出るって?」
「!」

 どうやら、目的を説明する必要はないらしい。
 時紀は立ち上がってきて、紬の目元に手をかざす。そして初めて会った日と同じように、金の瞳を空色に変えた。

「これで良しと」
「ありがとうございます。……よく、これを頼みに来たとわかりましたね」
「そりゃあもちろん。祝言の日まではこの屋敷にいますんで、外出の際はいつでもどーぞ。」

 その様子を見ていた日暮が、なるほどと納得したように腕を組む。

「なんだ、泊まったのはそのためか。」
「そ。っつーわけで、残り二日もよろしく。」
「……仕方ないな」

 目を細めて笑う時紀をじとっと見上げながら、日暮は乱れた寝間着をなおした。
 泊まり込むもっともな目的がわかったからには、部屋を追い出すつもりはないようだ。仕事にしても何にしても、文句を言いつつなんだかんだ甘いのよねと、紬は生あたたかい目で彼を見た。

「じゃあ、そろそろ失礼するよ。朝からお邪魔したね。」
「お二人とも、ありがとうございました。」

 ひらひらと手を振る彼らに見送られ、紬たちは踵を返した。

 紅蓮邸を出て、調査先の“アカツキ学校”へと向かう。
 念の為、日和が通勤時に使うという道を歩いてみるが、特に変わったところは見られない。
 ……いや、人間の村から来たばかりの紬に言わせれば、摩訶不思議な光景ばかりだが。とりあえず、暁の里としてはいつも通りである。

「こちらに来てから、まだあまり外に出ていませんし、紬さんにとっては馴染みのない景色ばかりでしょう。」
「そうですね。あやかしには、ずいぶんと慣れてきたと思うんですが……さっき、足が触手になっている男性に驚いてしまったし、まだまだです」
「ふふ、蛸でしょうか。海洋系のあやかしですね。」

 曰く、今はずいぶんと人型に近づいているが、彼らの先祖は海に住んでおり、蛸そのものの姿だったそう。

「海洋系というくくりがあるなら、他にも、海に住んでいたあやかしがいるんですか?」
「ええ。有名どころで言うと、人魚など。」
「あ!知っていますよ、村でも伝承を聞いたことがあります」

 あやかしの豆知識が面白くて、色々と聞いてみると、彗月はなんでも答えてくれた。
 河童、九尾、雪女など、自分が知るあやかしの言い伝えは本当なのかと、伝承の真相を聞くのは楽しかった。

「ちなみに、影族は元々どこに?」
「詳しい文献は残っていませんが、一説によると、月がよく見える森の中に住んでいたとか。」

 さりげなく彗月に関係する質問をしてみて、その答えをもらうと、彼のことをまた少し知れたようで、嬉しかった。

「すごい、物知りですね彗月さん。先生みたい。」
「いえいえ。これでも、あやかしの頭領の側近ですからね。必要な知識を身につけているだけです。……学校の先生方なら、もっと詳しい話を聞かせてくれますよ。」
「!」

 彗月が目を向けた先を見ると──そこには、木造の学び舎があった。
 ここがアカツキ学校。
 日和たちが教師をつとめる学校であり、日和が瘴気に侵され、倒れた現場でもある。

「……」

 紬の身に緊張が走る。
 事故か、事件か。徹底的に調べてみせると意気込んで、いざ、その敷地に足を踏み入れる。
 ……その時だった。

「わー!きたあ!」
「彗月さま~!」
「!?」

 その意気込みがスコンと飛んでいってしまうような、無邪気で幼い声が、どっと校内から押し寄せてきた。
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