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Ⅰ.声優とガチ恋勢と深夜のファミレス
5.幸いにも小の方だった。
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「意外といいところに住んでるのね」
「意外とってどういう意味だよ」
「そのままの意味よ。アンタの身だしなみとか、その辺からしたら、もっとぼろいワンルームにでも住んでそうだから」
実に酷い言い草だ。ただ、
「まあ、本来なら、俺が住めるような部屋じゃないからな」
「本来ならって……どういうこと?」
「このマンション、親の知り合いが管理しててさ。それもあって、住めてるだけで、他の部屋の家賃を考えたら、俺が住めるようなところじゃないのは確かだよ」
「ふーん……」
自分から言い出した癖に、実に興味なさそうな反応で奥の部屋へと歩いていく咲花。本当に自由だ。
ちなみに、今俺は、咲花あやめの身体で、山都瑛一の服を着ている。なんでかって?咲花曰く、「知らない男の部屋に、私の恰好で入るなんて言い訳無いでしょ」とのことだった。
言わんとするところは分かるので、俺も反論はせず、彼女が持ってきた「俺の服」に着替えたが、大分大きい。まあ身長差あるもんな。体型自体は細いからまだいいけど、これで、もうちょっとガタイが良かったら、ギャグみたいなことになるところだった。
もしこれからもこんな暮らしが続くなら、服はどうするかも考えなきゃならない。あんまり無駄な出費をしたくないんだけどなぁ……円盤も買わないとだし。もちろん、咲花あやめの出てる作品のやつ。
「明日何時だっけ?」
「九時。九時に最寄り駅に来るようにって言ってある」
「九時か……早いな……」
「早いって……アンタ普段何時に起きてるのよ」
「何時……まちまちだな。少なくとも九時に起きてることは無い」
「起きてることは無いって……あのさ。ずっと気になってたけど、アンタ、仕事とかっていいの?起きた時間が時間だったし、今日はずっとここにいたけど」
「それなら大丈夫。特に用事はないから」
「用事はないって……アンタもしかして、無職?」
俺は咲花の問いを無視して、
「さ、そんなことより明日は早いんだから、そろそろ寝る準備をしないと。風呂入れるな」
「あ、ちょっと、はぐらかさない……で、って、え?風呂?」
「うん。入らないわけにはいかないだろ?」
瞬間。
咲花が俺の手をがっちりと掴んで、
「ちょっと待ちなさい」
「な、なんだよ」
「貴方。状況分かってる?今貴方と私は入れ替わってるの。つまり、貴方が風呂に入るのは私の身体でってことになるのよ?」
「そうだけど……それが何か?」
咲花が俺の両肩を掴んでぐりんと回転させ、がっちりホールドしつつもとつとつと語り掛ける。
「それがなにか?じゃない!あのね。貴方はもしかしたら気にしないのかもしれないけど、私が気にするの。私は嫌なの。どこの誰かも分からない男に、私の身体を洗われる、なんて」
「とは言っても……洗わないわけにはいかないだろ。大丈夫だって。出来るだけ無心でやるから」
「その出来るだけって表現がもう駄目。努力しないと無心になれない人に、自分の裸を見せるって想像しただけで……」
言わんとすることは分かる。
分かるけど無理がある。
こればっかりは仕方ない。俺だって、出来る限り見ないようにはしたい。
だけど、嫌なんだよ。自分の大切な推し声優が、何日も風呂に入らない、汚くて、臭い身体で現場に行って、「あの頃のあやや、なんか臭ってたよね~」というとんでもないエピソードを暴露され、挙句の果てにはウィキかなんかに「一時期風呂に入っていなかったため、臭っていた時期があった」なんて書き足されるのは。そんなことになるくらいなら、俺が後でどんな報復を受けようとも、洗うべきだと思うんだ。
とはいえ、咲花の言い分もよく分かる。
だから、出来るだけ彼女のダメージが少ないまま、風呂に入るにはどうすればいいか……そうだ!
「でも、ほら。トイレとかは行っちゃってるわけだから、そんなにダメージは……ない」
時々思う。
人は何故、こうも簡単に失言をしてしまうのだろうと。
違うんだ。決して変な意味があったわけじゃないんだ。ただ、「もうトイレには行ってしまってて、大事な部分の片割れは見てしまってるから。実際のダメージは咲花が考えているものの半分くらいだよ。良かったね!」って思ったんだ。でも、これって、今はまだ何も見られてないって思ってる咲花からすれば、とんでもないカミングアウトで、
「今、なんて言った?」
襟首をつかまれる。怖い。何せ俺はギリギリでも百七十センチ以上あるのに対して、咲花は百五十五センチしかない。その差は実に十五センチ以上。力技でねじ伏せられたらどうしようもないレベル。
咲花はゆっくりと続ける。
「今、言ったわよね?トイレに行った?私の身体で?ふーん……一体何をしたのかしらね?」
怖いよぉ。
トイレに行ったはずなのに漏らしそうだよお。
いや、殆どは俺が要らない発言をしたからいけないんだけど。
でも、仕方ないじゃない。生理現象なんだから。俺だってそんなことはしたくないんだよ。許して……くれないかもなぁ、これは。
「意外とってどういう意味だよ」
「そのままの意味よ。アンタの身だしなみとか、その辺からしたら、もっとぼろいワンルームにでも住んでそうだから」
実に酷い言い草だ。ただ、
「まあ、本来なら、俺が住めるような部屋じゃないからな」
「本来ならって……どういうこと?」
「このマンション、親の知り合いが管理しててさ。それもあって、住めてるだけで、他の部屋の家賃を考えたら、俺が住めるようなところじゃないのは確かだよ」
「ふーん……」
自分から言い出した癖に、実に興味なさそうな反応で奥の部屋へと歩いていく咲花。本当に自由だ。
ちなみに、今俺は、咲花あやめの身体で、山都瑛一の服を着ている。なんでかって?咲花曰く、「知らない男の部屋に、私の恰好で入るなんて言い訳無いでしょ」とのことだった。
言わんとするところは分かるので、俺も反論はせず、彼女が持ってきた「俺の服」に着替えたが、大分大きい。まあ身長差あるもんな。体型自体は細いからまだいいけど、これで、もうちょっとガタイが良かったら、ギャグみたいなことになるところだった。
もしこれからもこんな暮らしが続くなら、服はどうするかも考えなきゃならない。あんまり無駄な出費をしたくないんだけどなぁ……円盤も買わないとだし。もちろん、咲花あやめの出てる作品のやつ。
「明日何時だっけ?」
「九時。九時に最寄り駅に来るようにって言ってある」
「九時か……早いな……」
「早いって……アンタ普段何時に起きてるのよ」
「何時……まちまちだな。少なくとも九時に起きてることは無い」
「起きてることは無いって……あのさ。ずっと気になってたけど、アンタ、仕事とかっていいの?起きた時間が時間だったし、今日はずっとここにいたけど」
「それなら大丈夫。特に用事はないから」
「用事はないって……アンタもしかして、無職?」
俺は咲花の問いを無視して、
「さ、そんなことより明日は早いんだから、そろそろ寝る準備をしないと。風呂入れるな」
「あ、ちょっと、はぐらかさない……で、って、え?風呂?」
「うん。入らないわけにはいかないだろ?」
瞬間。
咲花が俺の手をがっちりと掴んで、
「ちょっと待ちなさい」
「な、なんだよ」
「貴方。状況分かってる?今貴方と私は入れ替わってるの。つまり、貴方が風呂に入るのは私の身体でってことになるのよ?」
「そうだけど……それが何か?」
咲花が俺の両肩を掴んでぐりんと回転させ、がっちりホールドしつつもとつとつと語り掛ける。
「それがなにか?じゃない!あのね。貴方はもしかしたら気にしないのかもしれないけど、私が気にするの。私は嫌なの。どこの誰かも分からない男に、私の身体を洗われる、なんて」
「とは言っても……洗わないわけにはいかないだろ。大丈夫だって。出来るだけ無心でやるから」
「その出来るだけって表現がもう駄目。努力しないと無心になれない人に、自分の裸を見せるって想像しただけで……」
言わんとすることは分かる。
分かるけど無理がある。
こればっかりは仕方ない。俺だって、出来る限り見ないようにはしたい。
だけど、嫌なんだよ。自分の大切な推し声優が、何日も風呂に入らない、汚くて、臭い身体で現場に行って、「あの頃のあやや、なんか臭ってたよね~」というとんでもないエピソードを暴露され、挙句の果てにはウィキかなんかに「一時期風呂に入っていなかったため、臭っていた時期があった」なんて書き足されるのは。そんなことになるくらいなら、俺が後でどんな報復を受けようとも、洗うべきだと思うんだ。
とはいえ、咲花の言い分もよく分かる。
だから、出来るだけ彼女のダメージが少ないまま、風呂に入るにはどうすればいいか……そうだ!
「でも、ほら。トイレとかは行っちゃってるわけだから、そんなにダメージは……ない」
時々思う。
人は何故、こうも簡単に失言をしてしまうのだろうと。
違うんだ。決して変な意味があったわけじゃないんだ。ただ、「もうトイレには行ってしまってて、大事な部分の片割れは見てしまってるから。実際のダメージは咲花が考えているものの半分くらいだよ。良かったね!」って思ったんだ。でも、これって、今はまだ何も見られてないって思ってる咲花からすれば、とんでもないカミングアウトで、
「今、なんて言った?」
襟首をつかまれる。怖い。何せ俺はギリギリでも百七十センチ以上あるのに対して、咲花は百五十五センチしかない。その差は実に十五センチ以上。力技でねじ伏せられたらどうしようもないレベル。
咲花はゆっくりと続ける。
「今、言ったわよね?トイレに行った?私の身体で?ふーん……一体何をしたのかしらね?」
怖いよぉ。
トイレに行ったはずなのに漏らしそうだよお。
いや、殆どは俺が要らない発言をしたからいけないんだけど。
でも、仕方ないじゃない。生理現象なんだから。俺だってそんなことはしたくないんだよ。許して……くれないかもなぁ、これは。
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