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chapter.3
16.未完
『間違いだらけのハーレムエンド』
それは瑠壱にとって大きな意味を持つ作品の名前だ。
けれど、それはもう終わった作品だ。
アマチュアに端を発し、人気を元にメディアミックス展開までし、それに影響を受けたと公言する作家すら出てくるようなそんな名作は、
未完成のまま、過去のものとなってしまったのだ。
メディアミックスされる前の時点では一応、完結までは作られていたという話はある。
しかし、その完成版をみたものは誰もいないというのが現状だ。未完の名作。それが『間違いだらけのハーレムエンド』なのだ。
そう。終わったはずなのだ。
過去となり、続編は出ず、主題歌のデータ一つですら入手が困難で、どれだけ待ち望んでも続きはない。そんな作品のはずなのだ。
それが何故。
ここ二日間だ。
瑠壱の周りで常に『まちハレ』という作品が回り続けている。存在感を出し続けている。自己主張を続けている。まるで、
まだ終わっていないとでもいうかのように。
智花がぽつりと、
「『間違いだらけのハーレムエンド』って……え、それって瑠壱が好きなやつ、だよね?」
余計なことを。
だが、隠し通せないことも事実だ。
そもそも隠し通すことに意味があるのかもまた、分からない。
瑠壱はゆっくりと、足元を確認するように、
「確かに。俺は『まちハレ』が好きですよ。でも、それが一体なんで、その生徒会の……」
店長が補足するように、
「夏織か?」
「そう。その彼女を助けることになるんですか?」
ここまでくれば情報を隠すより、引き出した方がいい。
なにせ瑠壱もまた、『まちハレ』の続編を望み続けている一人なのだから。
店長はやはり形而上の口髭をさすりながら、
「そうだな……それはすまないが、本人から聞いてくれ。俺が勝手に話すのも良くないだろう。ただ、」
言葉を切り、懐を探ったうえで、小さな紙きれを取り出して瑠壱に渡し、
「花咲吟次……」
店長──吟二が、
「俺の名刺だ。それを見せればある程度のことは話してくれるだろう。それ以上は……お前次第だけどな。不肖の娘ながらなかなかに頭の回るやつでな。ちょっとやそっとじゃ腹の底を見せてはくれないだろうが、まあ、頑張れ」
瑠壱は受け取った名刺をしげしげと眺める。
花咲吟二。
カラオケハウス藤ヶ崎学園店店長。
それ以外の情報はと言えば、メールアドレスと、固定電話と、携帯電話の番号くらいのものだった。
ちなみにメールアドレスと、固定電話はどうやらカラオケハウスのものらしい。従って彼個人につながる情報は携帯電話だけだった。
まじまじと名刺を見つめる瑠壱の思考を読んだのか吟二は、
「もし、お前が『まちハレ』の続編を望んでいるいちファンだとするならば」
「……!」
「俺はお前の敵じゃあない。こんな面とガタイをしてるやつに言われても説得力はないだろうがな」
といって、苦笑いをする。
その視線の先に、偽りの色は見えない。
瑠壱は一言だけ、
「明日、生徒会室に行く用事があるんですよ」
「ほう?」
「多分、花咲さん……夏織さんもご存じだと思いますけど、生徒会長の冷泉に呼ばれてるんです。だから、まあ、その時に話すこともあると思うんで、よろしくお伝えください。娘さんに」
「…………ああ、分かった」
聞きたいことは山ほどある。
もしかしたら聞いたら答えてくれるのかもしれない。
だが、なんとなくそれはフェアじゃない気がした。
聞くべき相手は、そして、語るかを決める相手は、多分目の前にいる吟二ではない。
だから、
「それじゃ、またそのうち」
別れだけ告げて、
「すまんな。時間取らせて。行くか。何号室だ?」
急に話を振られた智花はしどろもどろで、
「え?あ、部屋番号?え、えっとね…………一番」
一番だった。今日もお客はあまり入ってないらしい。
「一ね。ほれ、行こうぜ」
「あ、ちょっと」
「そうだ、ちょっと待ってくれるか?」
二人から呼び止められた。一人はまだ分かるが、もう一人とはもう話が終わったはずではないのか?
瑠壱はもう一人の方に応じて振り向き、
「なんでしょうか?」
もう一人の方──吟二はさっきよりも低い声で、
「もしお前が二股して、沙智を悲しませるっていうんなら、その時は俺もしかるべき行動に出るからそのつもりでな?」
にやりと笑った。
その笑顔は、今までの吟二のした表情のなかで一番怖かった。
それは瑠壱にとって大きな意味を持つ作品の名前だ。
けれど、それはもう終わった作品だ。
アマチュアに端を発し、人気を元にメディアミックス展開までし、それに影響を受けたと公言する作家すら出てくるようなそんな名作は、
未完成のまま、過去のものとなってしまったのだ。
メディアミックスされる前の時点では一応、完結までは作られていたという話はある。
しかし、その完成版をみたものは誰もいないというのが現状だ。未完の名作。それが『間違いだらけのハーレムエンド』なのだ。
そう。終わったはずなのだ。
過去となり、続編は出ず、主題歌のデータ一つですら入手が困難で、どれだけ待ち望んでも続きはない。そんな作品のはずなのだ。
それが何故。
ここ二日間だ。
瑠壱の周りで常に『まちハレ』という作品が回り続けている。存在感を出し続けている。自己主張を続けている。まるで、
まだ終わっていないとでもいうかのように。
智花がぽつりと、
「『間違いだらけのハーレムエンド』って……え、それって瑠壱が好きなやつ、だよね?」
余計なことを。
だが、隠し通せないことも事実だ。
そもそも隠し通すことに意味があるのかもまた、分からない。
瑠壱はゆっくりと、足元を確認するように、
「確かに。俺は『まちハレ』が好きですよ。でも、それが一体なんで、その生徒会の……」
店長が補足するように、
「夏織か?」
「そう。その彼女を助けることになるんですか?」
ここまでくれば情報を隠すより、引き出した方がいい。
なにせ瑠壱もまた、『まちハレ』の続編を望み続けている一人なのだから。
店長はやはり形而上の口髭をさすりながら、
「そうだな……それはすまないが、本人から聞いてくれ。俺が勝手に話すのも良くないだろう。ただ、」
言葉を切り、懐を探ったうえで、小さな紙きれを取り出して瑠壱に渡し、
「花咲吟次……」
店長──吟二が、
「俺の名刺だ。それを見せればある程度のことは話してくれるだろう。それ以上は……お前次第だけどな。不肖の娘ながらなかなかに頭の回るやつでな。ちょっとやそっとじゃ腹の底を見せてはくれないだろうが、まあ、頑張れ」
瑠壱は受け取った名刺をしげしげと眺める。
花咲吟二。
カラオケハウス藤ヶ崎学園店店長。
それ以外の情報はと言えば、メールアドレスと、固定電話と、携帯電話の番号くらいのものだった。
ちなみにメールアドレスと、固定電話はどうやらカラオケハウスのものらしい。従って彼個人につながる情報は携帯電話だけだった。
まじまじと名刺を見つめる瑠壱の思考を読んだのか吟二は、
「もし、お前が『まちハレ』の続編を望んでいるいちファンだとするならば」
「……!」
「俺はお前の敵じゃあない。こんな面とガタイをしてるやつに言われても説得力はないだろうがな」
といって、苦笑いをする。
その視線の先に、偽りの色は見えない。
瑠壱は一言だけ、
「明日、生徒会室に行く用事があるんですよ」
「ほう?」
「多分、花咲さん……夏織さんもご存じだと思いますけど、生徒会長の冷泉に呼ばれてるんです。だから、まあ、その時に話すこともあると思うんで、よろしくお伝えください。娘さんに」
「…………ああ、分かった」
聞きたいことは山ほどある。
もしかしたら聞いたら答えてくれるのかもしれない。
だが、なんとなくそれはフェアじゃない気がした。
聞くべき相手は、そして、語るかを決める相手は、多分目の前にいる吟二ではない。
だから、
「それじゃ、またそのうち」
別れだけ告げて、
「すまんな。時間取らせて。行くか。何号室だ?」
急に話を振られた智花はしどろもどろで、
「え?あ、部屋番号?え、えっとね…………一番」
一番だった。今日もお客はあまり入ってないらしい。
「一ね。ほれ、行こうぜ」
「あ、ちょっと」
「そうだ、ちょっと待ってくれるか?」
二人から呼び止められた。一人はまだ分かるが、もう一人とはもう話が終わったはずではないのか?
瑠壱はもう一人の方に応じて振り向き、
「なんでしょうか?」
もう一人の方──吟二はさっきよりも低い声で、
「もしお前が二股して、沙智を悲しませるっていうんなら、その時は俺もしかるべき行動に出るからそのつもりでな?」
にやりと笑った。
その笑顔は、今までの吟二のした表情のなかで一番怖かった。
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