瑠壱は智を呼ぶ

蒼風

文字の大きさ
26 / 36
chapter.3

16.未完

しおりを挟む
『間違いだらけのハーレムエンド』

 それは瑠壱るいにとって大きな意味を持つ作品の名前だ。

 けれど、それはもう終わった作品だ。

 アマチュアに端を発し、人気を元にメディアミックス展開までし、それに影響を受けたと公言する作家すら出てくるようなそんな名作は、

 未完成のまま、過去のものとなってしまったのだ。

 メディアミックスされる前の時点では一応、完結までは作られていたという話はある。

 しかし、その完成版をみたものは誰もいないというのが現状だ。未完の名作。それが『間違いだらけのハーレムエンド』なのだ。

 そう。終わったはずなのだ。

 過去となり、続編は出ず、主題歌のデータ一つですら入手が困難で、どれだけ待ち望んでも続きはない。そんな作品のはずなのだ。

 それが何故。

 ここ二日間だ。

 瑠壱の周りで常に『まちハレ』という作品が回り続けている。存在感を出し続けている。自己主張を続けている。まるで、

 まだ終わっていないとでもいうかのように。

 智花ともかがぽつりと、

「『間違いだらけのハーレムエンド』って……え、それって瑠壱が好きなやつ、だよね?」

 余計なことを。

 だが、隠し通せないことも事実だ。

 そもそも隠し通すことに意味があるのかもまた、分からない。

 瑠壱はゆっくりと、足元を確認するように、

「確かに。俺は『まちハレ』が好きですよ。でも、それが一体なんで、その生徒会の……」

 店長が補足するように、

夏織かおりか?」

「そう。その彼女を助けることになるんですか?」

 ここまでくれば情報を隠すより、引き出した方がいい。

 なにせ瑠壱もまた、『まちハレ』の続編を望み続けている一人なのだから。

 店長はやはり形而上の口髭をさすりながら、

「そうだな……それはすまないが、本人から聞いてくれ。俺が勝手に話すのも良くないだろう。ただ、」

 言葉を切り、懐を探ったうえで、小さな紙きれを取り出して瑠壱に渡し、

花咲はなさき吟次ぎんじ……」

 店長──吟二が、

「俺の名刺だ。それを見せればある程度のことは話してくれるだろう。それ以上は……お前次第だけどな。不肖の娘ながらなかなかに頭の回るやつでな。ちょっとやそっとじゃ腹の底を見せてはくれないだろうが、まあ、頑張れ」

 瑠壱は受け取った名刺をしげしげと眺める。

 花咲吟二。

 カラオケハウス藤ヶ崎学園店店長。

 それ以外の情報はと言えば、メールアドレスと、固定電話と、携帯電話の番号くらいのものだった。

 ちなみにメールアドレスと、固定電話はどうやらカラオケハウスのものらしい。従って彼個人につながる情報は携帯電話だけだった。

 まじまじと名刺を見つめる瑠壱の思考を読んだのか吟二は、

「もし、お前が『まちハレ』の続編を望んでいるいちファンだとするならば」

「……!」

「俺はお前の敵じゃあない。こんな面とガタイをしてるやつに言われても説得力はないだろうがな」

 といって、苦笑いをする。

 その視線の先に、偽りの色は見えない。

 瑠壱は一言だけ、

「明日、生徒会室に行く用事があるんですよ」

「ほう?」

「多分、花咲さん……夏織さんもご存じだと思いますけど、生徒会長の冷泉れいせんに呼ばれてるんです。だから、まあ、その時に話すこともあると思うんで、よろしくお伝えください。娘さんに」

「…………ああ、分かった」

 聞きたいことは山ほどある。

 もしかしたら聞いたら答えてくれるのかもしれない。

 だが、なんとなくそれはフェアじゃない気がした。

 聞くべき相手は、そして、語るかを決める相手は、多分目の前にいる吟二ではない。

 だから、

「それじゃ、またそのうち」

 別れだけ告げて、

「すまんな。時間取らせて。行くか。何号室だ?」

 急に話を振られた智花はしどろもどろで、

「え?あ、部屋番号?え、えっとね…………一番」

 一番だった。今日もお客はあまり入ってないらしい。

「一ね。ほれ、行こうぜ」

「あ、ちょっと」

「そうだ、ちょっと待ってくれるか?」

 二人から呼び止められた。一人はまだ分かるが、もう一人とはもう話が終わったはずではないのか?

 瑠壱はもう一人の方に応じて振り向き、

「なんでしょうか?」

 もう一人の方──吟二はさっきよりも低い声で、

「もしお前が二股して、沙智さちを悲しませるっていうんなら、その時は俺もしかるべき行動に出るからそのつもりでな?」

 にやりと笑った。

 その笑顔は、今までの吟二のした表情のなかで一番怖かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...