家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

二章 しかし、概して人々が運命と呼ぶものは、大半が自分の愚行にすぎない。

「絶対に振り返るな！」と言われたけど、振り返りたい理由があった。すごく可愛い人とすれ違ったとか、ね

　無事に屋敷を出ることができたレベッカは、待ち合わせ場所まで走っていた。
　街中なので、いく人かの人々とすれ違うが、その人たちにぶつからないように慎重に走る。

　アイトとの待ち合わせ場所はこの街で唯一の噴水が備えられている広場だ。
　レベッカが広場に到着すると、既にアイトは待っていた。

「アイト。おまたせ」

　レベッカは速度を落とさずにアイトの前に到着。そのまま膝に手を置いて「はぁ、はぁ」と疲れたように呼吸した。

「ごめんねアイト。待った？」

「いえ。まだ約束の時間まで余裕がありました。それより」

　アイトはハンカチを取り出すと、レベッカの額を拭き始めた。

「かなり急いで来たみたいですね」

「え！？」

　アイトからハンカチを貰って額を拭くと、確かに汗をかいていた。

「あっごめんね、アイト」

「いえいえ。大丈夫ですよ」

　アイトは気にしないでと言いながら周囲を見渡してみる。
　今日はレベッカは銀髪の状態で外に出てきていたので周りはレベッカだとわかっている。

　だが、聞いていたような痩せ細った姿ではなく、絶世の美少女ということで、ほとんどの男が見惚れていて、女ですら羨ましがっている。

　ナンパを検討する男もいたが、一緒にいるのがアイトだとわかって断念していた。

「ねぇ、アイト。この服似合ってる………？」

　と、アイトが視線をレベッカに戻したタイミングである程度汗を拭き終えたレベッカが上目遣いで聞いてくる。

　アイトは少しだけレベッカの姿を見ると、

「はい。とても綺麗です」

　素直な賞賛を受けたレベッカは顔を赤くしながら下を向いた。

「さあ、時間は有限です。早速行きましょうか」

　そう言ってアイトはレベッカに手を差し出した。
　だが、レベッカはその手を掴まずに見ているだけだった。

「お嬢様？」

　レベッカは少しだけ首を振ると

「ねぇアイト折角のデートなんだし」

　レベッカは少しだけ下を向いていた視線を真っ直ぐにアイトを見るように変えて

「レベッカって呼んで？」

　普段の生活では決して呼ばせることができない名前。
　レベッカは、アイトにそう呼んで欲しかったのだ。

「わかりました。では、行きましょうか。レベッカ」

　たったの1回。それだけでレベッカの心は歓喜に震える。
　アイトは絶対に仕事の時はお嬢様と呼ぶ。だから、愛のこもった声で名前を呼ばれるのは久しぶりだったのだ。

　その声を聞くだけで、レベッカは嬉しくなる。

「ありがとう！アイト」

　レベッカは笑みを浮かべながらアイトの手を握った。
　2人はそのまま手を繋いだまま歩いていった。

　その後ろ姿は、まるで本物の恋人のように。