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4 再会
しおりを挟む……やってしまった。
「お、覚えてなさいよっ!」
捨て台詞を残して派手めな外見の女子数人が廊下を走り去って行く。眼鏡が外された時には既にそんな光景だった。
私の後ろに立つクラスメイトの少女を見やる。彼女は涙目で震えていた。
「大丈夫?」
声を掛けると大きな瞳をこちらへ向けてくれた。
さっき逃げて行った女子生徒たちに目の敵にされているらしく何度か嫌がらせをされている場面を見かけた。今日はもう我慢できなくて己花さんにいじめっ子たちを懲らしめてもらった。
少女も眼鏡を掛けている。黒縁の大きめな形のものだ。眼鏡で分かりにくいけどかなりの美少女だった。両サイドで三つ編みにした黒髪は癖毛なのか全体的に波打っている。図書室で借りたと思われる単行本を大事そうに胸の前で持つ姿に好感を抱いた。
「あっ、ありがとうございましたっ! 私なんかの為に……」
俯く彼女の言動に違和感を覚えた。弱気な姿が自分にも重なる気がして苦笑した。
中学生の頃の自分を救ってくれたのは己花さんだった。私の憧れの人。小説の中に生きている強く賢く自分を信じる事に迷いのない登場人物のように、現実を生きてきた私よりずっと生き生きしている感じがして眩しかった。
己花さんなら言いそうだなと少し笑った後、精一杯口真似した。
「よおく考えれば現状を変える策は結構あったりしますわよ?」
私の口調がおかしいのは分かっている。三つ編みの女子生徒もきょとんとした表情になっている。ちょっと恥ずかしく思いながら「んんっ」と咳払いした。中学が同じだった子には十分知られているし、もう今更だ。
「知る事、考えて行動する事を放棄していたらこの世界……渡り歩けませんわよ?」
これは前、己花さんに言われた台詞。言われた時はよく分かってなかったけど、後で考えてみると「そうだな」って自分の思考と重なるものを見付けた。己花さんからの激励だと感じた。
「って私も前、家族から言われてね。えっと……」
口真似をやめてしどろもどろに説明する。三つ編みの子の表情がゆっくりと明るいものに変わっていく。頬にも血色が戻っている。
「はい。精進致します……! ヤバいギャップ萌える」
持っていた本で口元を隠し恥ずかしがっているような仕草で見つめられた。最後に何か違和感のある呟きが聞こえたけど深く考えないようにした。
かくして高校で初めての友達を得た。もしかしたら私が勝手にそう思っているだけかもしれないけど。いじめられている境遇が過去の自分と重なって放っておけなかった。実際に助けてくれたのは己花さんなんだけどね……。
次の日曜日にその子と遊ぶ約束をした。バイトは夕方からなので午前中から。
当日、待ち合わせ場所のショッピングモール前にいた彼女を発見した。
「あややーん!」
明るく呼んで手を振った。小学生の頃に文葉(あやは)ちゃんという名前にちなんで「あややん」というあだ名で呼ばれていたらしく気に入っていたのでそう呼んでほしいと頼まれた経緯がある。そして私の方は……。
「音ちゃん!」
あややんが可愛い声で呼んでくれた。彼女が提案してくれた呼び方で、とても気に入っている。
ショッピングモール側にあるちょっとしたスペースには時計のモニュメントがあって、その正面にあややんはいた。
濃い緑のチェック柄で裾の長いシャツワンピースを着ている。私服も可愛いなぁ。私の方は白地に青い小花模様のシャツと黒いズボン。
今日はこの近くにあるカラオケ店に行く予定だった。
彼女の側へ行こうと数段ある階段を上った。その時、気付いてしまった。ショッピングモールから出て来た人物が知っている人だった。正確には私じゃなくて己花さんの知り合い。己花さんが『あっ』と言ったのでピンときた。この人が例の……。
相手もこちらに気付いた様子で、私と目が合うとニヤッと笑い掛けてきた。
「あれ? あれあれ?」
わざとらしい口調で表情も随分と楽しそう。近付いてくる。
私の前に立ち止まった彼の、少し長めの金髪が風に揺れている。
「おねーさんまた会ったね。そう言えば次に会った時はカラオケに付き合ってくれるって約束だったよね」
ニコニコと言及された。
どうしてこうなったのだろう。
「かぁっこいいんです! いじめっ子なんていち殺です!」
あややんが銀河(ぎんが)君に力説している。場所はカラオケの一室。コの字に配置されていたソファーにそれぞれ腰を下ろし、まずは簡単な自己紹介をした。
金髪の男の子は「銀河」と名乗った。同い年らしい。
その後は何故か私の話題になった。あややんが己花さんの武勇伝を誇らしげに話している。銀河君も「なるほどー」と頷きつつ時々こちらを見てニヤニヤしてくる。
そのような経緯があって先程のあややんの台詞が放たれた。
「いち殺って……」
銀河君が苦笑いしている。そしてまたチラッとこっちを見てくる。分かる。今の私が己花さんより大人しいからでしょう? がっかりさせてたらごめんなさい。詐欺みたいに思われているかもしれない。
三人各々好きな曲を歌ったりしていたら、あっという間に時間が過ぎた。
予定と違ってメンバーが一人増え緊張するかと思っていたけど杞憂だった。あややんも優しく癒しだし、銀河君も場を盛り上げたり楽しませたりするのが上手で私は接待されていると錯覚するくらいに満喫していた。
退出時刻になりカラオケ店を出た。
「音ちゃん、すっごく楽しかったです! 銀河君も同志の匂いがするし! 二人ともまた遊んでください」
「もちろん」
「私も楽しかった! こちらこそ! 二人ともありがとう。……じゃあ、またね」
名残惜しく思いながらも解散した。踵を返し歩き出す。
一つ目の角を曲がって進んだところで気付いた。前方から来る人物に。片手をポケットに入れ歩いているその人は道の向かい側にある店に気を取られているようでこちらには気付いていない様子だった。
前をセンター分けにした栗色の髪。薄ピンク色のシャツに白いズボン。茶色の革靴。
本屋さんで絡んできた人だ! どうしよう。
近くを通らなければ……こちらの存在に気付かれないかもしれない。そう考えて今まで歩いて来た道を戻ろうとした。だけど。
視線が合った。
最初、相手は驚いたような表情だった。その後、まるでよからぬ事を企んでいそうなニチャアッとした笑みが浮かんでいるのを目の当たりにして悪寒に震えた。
逃げなきゃ。
直感で思う。でもどこに?
迷っている間にも男はこちらへ歩みを進めてくる。
「こっち!」
近くで声がして左手首を引っ張られた。見知った金髪に緊張が和らぐ。導かれるまま左横にある階段を下りショッピングモールへと入った。
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