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しおりを挟む「おねーさん目を付けられたみたいだね」
ショッピングモールの地下一階にはスーパーがあって、その前を通り過ぎる。先を進む銀河君に手を引っ張られている。ほかの買い物客の間をすり抜けながら急いだ。
顔を動かして後方を見てみる。件の男は二十メートルくらい離れた、まだ出入り口に近い所にいる。あちらはそんなに急いでいないようにも窺える。しかしそれが逆に恐ろしく感じる。少しずつ確実にこちらへ近付いてくる。
銀河君に導かれるままエスカレーターに乗った。その間に少し息を整える。一階に着いてエスカレーターを降り、出口へ急いだ。大きめの出入り口から外へ出た。
涼しかった中と違い外は少し蒸し暑い。手を引かれたまま銀河君に続いて走った。横断歩道を渡る。
後方を確認するけど例の男は追い掛けて来なかったのか見当たらなかった。少しホッとした後、今の状況に戸惑った。
私、学校行事じゃない件で男の子と手を繋ぐのって初めてだよね?
途端に緊張してしまった。
横断歩道を渡った直後に脇道へ入った。細い道路を行く途中でスピードが緩んだ。銀河君が振り返って私を見た。
「大丈夫? 顔が赤くなってる。走らせてごめん」
「えっ……と」
優しく心配されてドキッとしてしまう。あ、あれっ?
「あいつももう追って来てないみたいだし、そこの公園で休もう」
提案されて頷いた。
公園のベンチに座って自動販売機で買った水を飲んだ。隣に腰を下ろした銀河君は背もたれに身を預けぐったりしている。意外と体力がなさそうな雰囲気だ。
『大丈夫なのかしら?』
己花さんが心配している。
『音芽。もっと彼を気遣ってあげてくださいまし。それからお礼も伝えないと』
己花さんの銀河君を気に掛ける言動に察した。ははぁ。なるほど?
『音芽? 今、何を考えていたの?』
『さっき何でドキドキしていたのか分かった。己花さんのせいだったんだね』
『お、音芽?』
『お礼は己花さんから言ってもらってもいい?』
そう断って眼鏡を掛けた。
「お、音芽~っ!」
呼んでも返事はありません。わたくしが主体になって体を動かしている間、音芽からの反応がないのはいつもの事です。少し恨めしく思ってしまいます。
「どうしたの?」
銀河様が声を掛けてくれます。僅かに緊張しつつ彼の方へ顔を向けました。
「大丈夫ですの?」
平静を装って尋ねました。銀河様は瞼を大きく開いて見返してきました。
「やっぱりアンタだったんだな。雰囲気が違ってたから、もしかして双子の姉か妹だったんじゃないかって疑ってた」
頬を緩める彼から視線を逸らしました。地面を見つめながら言葉にします。
「えっと……。何と説明すればいいのかしら? 双子ではありません。何とも説明しづらいのですけれど……二重人格に近いのかもしれませんわ。あの……」
再び彼に向き直って伝えました。
「音芽を、助けていただきありがとうございました」
深く頭を下げました。
「いや。オレがそうしたかったからしただけで。どういたしまして。……あっ、じゃあ君は違う名前なの?」
少し焦ったような口調で問われました。顔を上げて相手の目を見ました。
「わたくしは……己花と申します」
「己花さん」
呼ばれて少し騒がしくなった胸を押さえました。
その時、銀河様の頭の右上に何かがくっついたのを見ました。
「フフッ」
穏やかな光景にほっこりしてしまいます。笑っていると銀河様に不思議そうな表情をされました。教えて差し上げます。
「頭にシャボン玉が乗っていますわ」
銀河様の後方の離れた所で子供たちがシャボン玉を飛ばして遊んでいます。銀河様も振り返っていました。
「え、どこ?」
彼は頭に付いたシャボン玉に触れようと手を伸ばしていましたが、惜しくも当たりませんでした。わたくしが笑っていると、わざとらしくむくれた顔をして「取って」と要求してきました。
「ここです」
代わりに触りました。彼の髪は思っていたよりも硬い手触りでした。思い出して尋ねます。
「そう言えばあなたと似ている男子が音芽のバイト先に来るのですけれど」
音芽は全く気にしていないみたいでしたけど、わたくしはずっと心に引っ掛かっていました。
「ああ」
彼は事もなげに言います。
「それ、オレの兄弟かもね。双子なんだ」
こちらに向けられていた目が不穏な気配を孕むように細められました。
「何? もしかして兄貴の事が好きなの?」
ニヤニヤした顔で聞かれました。
「そうかもしれません」
答えると凄く驚いた表情で凝視されました。その面持ちが可愛くてつい笑ってしまいました。ちょっとは脈があるのかしら。
「わたくしじゃなくて音芽の方が……ね」
「……あ、そう…………」
銀河様は気まずそうに視線を逸らしました。
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