ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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「人のいない学園って…何だか落ち着きますね」
 学園の教員控室でイヴァンの席の側の椅子に腰掛けてローゼは言った。
「そうか?俺はいかにも『休日出勤してる』感じがしてげんなりするぞ」
 机に向かって書類を眺めながらイヴァンは嫌そうな表情で言う。
「先生にとっては職場ですもんね」
「そう。なあローゼ」
「はい?」
 イヴァンは視線を書類に置いたまま、片手をローゼの方へ差し出した。
 ローゼはイヴァンの手の平へポンッと自分の手を置く。
「『お手』って感じだなぁ」
 書類から視線を外したイヴァンは苦笑いしながら横目でローゼを見た。
 そして置かれたローゼの手を握る。
「…先生?」
「そろそろ、先生じゃなくて名前で呼ばないか?」
「……」
 でも先生が私を好きなのも、ゲームが終わるまでかも知れないし…
 イヴァンはふっと息を吐きながら笑う。
「嫌か」
「嫌と言うか…」
 ローゼが俯くと、イヴァンは椅子から立ち上がる。
「先生?」
「最近ずっとコーネリアと三人だったから、久しぶりに二人きりで…ローゼ、キスして良い?」
 イヴァンは椅子に座るローゼの前に立ち、屈むようにしてローゼの頬を両手で包む。
「良くないです」
「…そう言うと思った」
 イヴァンは苦笑いをすると、そのままローゼに顔を近付けた。
「やっ…」
 顔を背けようとするローゼだが、イヴァンに頬を押さえられているので顔を動かせない。
「しないよ」
 鼻が触れる距離で止まる。
「先生?」
「サイオン!そこに居るんだろ?」
 イヴァンがその距離のままで言う。
 え?サイオン殿下?

 教員控室のドアが開き、バツの悪そうな表情のサイオンが姿を現す。
 サイオン殿下?
 何故?
 今頃はリリー様の所へ行かれている筈では?
「…俺が居ると分かっていてローゼ嬢にキスをしようとしたのか」
「ローゼは俺の恋人だからな」
 ローゼの頬を押さえたまま、イヴァンは顔を上げ、挑発的な笑みを浮かべる。
「…恋人、か」
 そう呟くサイオンは少し淋しげな笑顔だ。
「で?リリー嬢の所へ行って来たんだろう?」
「ああ。リリーに…婚約を解消したいと告げて帰って来た」
 え?
 こんやくを、かいしょう、したい?
「そうか」
 イヴァンはローゼの頬から手を離す。
「なっ何故ですか!?」
 ローゼはサイオンに食って掛かるように言った。

 リリー様はサイオン殿下をお好きで…
 サイオン殿下のお話をしている時のリリー様は本当に嬉しそうで幸せそうで、あんな綺麗なリリー様の笑顔を引き出せるのはサイオン殿下だけなのに。

「俺が、ローゼ嬢に、惹かれているからだ」

 ……は?

「わた…し…?」
 愕然とするローゼの前に、サイオンが跪く。
「ローゼ嬢」
「なっ。何なさってるんですか!?殿下!」
 王太子が男爵令嬢の前に跪くなんて、ありえない!
 ローゼが慌てて立ち上がろうとすると、横からイヴァンがローゼの肩を押さえて立たせないようにする。
「先生?」
「まあ、サイオンにとっては惚れた女に告白するなんて一生に一度かも知れないからとりあえず聞いてやってよ」
「イヴァン…」
 サイオンはイヴァンを軽く睨む。
「先生まで何言ってるんですか!?」
「まあまあ」
 イヴァンはローゼを宥めるように肩をポンポンと叩いた。

「ローゼ」
 サイオンがローゼの手を取る。
 手袋のないサイオンの手が直接ローゼの手に触れている。更に初めて呼び捨てで名を呼ばれたローゼの心臓がドクドクと音を立てた。
「王城の渡り廊下で初めてローゼを見た時、文字通り天使だと思った。隠していたがそれからずっと目が離せなくて…」
 サイオンの紫の瞳が真っ直ぐにローゼを見ている。
 いけない。言わせてはいけない。
 そう理性が言うが、ローゼは声も出せなかった。
「俺はローゼが好きだ」
 吸い込まれそうな青紫の瞳。

 言わせてしまった。 

 サイオン殿下が私を好きなのも、ゲームの力なのに。
 だからきっと一年後には殿下は後悔しているのに。

 


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