ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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 出て、行かなくちゃ。
 リリー様が領地から戻られる前に。

 今までサイオン殿下は他の攻略対象者とは違うと思って考えないようにしてたけど、ゲームでは王太子の婚約者の悪役令嬢は卒業パーティーで婚約破棄され、断罪され、投獄される。そしてその獄中で病死するのよ。
 リリー様が不幸になるなんて許せる訳がない。
 私はリリー様からもサイオン殿下からも、遠ざからなくては、いけない。

 ローゼはサイオンの手が触れ、甲に口付けられる様子を眺めながらどこか冷静にそう思った。
「ローゼはイヴァンの恋人だから、俺の気持ちには応えなくても良いんだ」
「え?」
 ローゼの手を取ったままサイオンは笑う。
「俺は生まれて初めて誰かを特別に好きだと思った。だからその相手にそれを告げたかっただけだ」
「だったら…リリー様との婚約解消なんて言わなくて良かったんじゃ…?」
 そう呟くローゼに「他の女性を想いながら違う女性と結婚などできない」と苦く笑うサイオン。

 やっぱり、殿下は、リリー様と婚約解消した事を一生後悔するんだ。だって「他の女性を想っている」状況は失くなるんだから。

「リリーは『婚約解消については私が承諾するまで国王陛下や教会へは言わないで』と言っていた。俺もリリーが承諾するまでは陛下やマーシャル公爵家には言わないつもりだ」
 そう、サイオンは言った。

「ローゼ」
 イヴァンに送られて帰る馬車で、隣に座るローゼの手をイヴァンが取った。サイオンに口付けられた、手。
「先生は…サイオン殿下がリリー様に婚約解消を告げるのを知ってたんですよね?私に…告白する事も」
「ああ」
「何故ですか?何故、自分の恋人に他の男性が告白するのを許すんですか?そりゃ本当の恋人じゃありませんけど…」
「それは、俺がローゼもサイオンも好きだから…かな」
 イヴァンはローゼの手に唇を寄せる。
 そこには、殿下が…
 ローゼは思わず手を引こうとし、イヴァンはそれに気付いてローゼの手をぎゅっと握った。
「ほら。サイオンがキスをした上に俺がキスするのは嫌なくらいローゼはサイオンを好きなんだろう?」
「……」
「俺はサイオンが誰かに『恋』をする姿を初めて見たんだ。俺の好きなサイオンが、俺の好きなローゼに恋をしている。そしてローゼもサイオンに恋をしている」
「…私は…恋なんて…」
 していない。と言い切る事はできないローゼ。
 イヴァンは口角を上げた。
許したんだ。サイオンは決して俺から恋人を奪ったりはしない。ローゼに好きだと告げても応えてもらおうとはしない。ローゼも決してリリー嬢を裏切ってサイオンの気持ちを受け入れたりしない。俺はサイオンが告白しローゼが断ると言う形を具現化したかった」
 そう言うイヴァンは笑顔だが、眉を顰めて苦しそうだ。
「先生」
「…何故俺の好きなサイオンと俺の好きなローゼは、どちらも俺を好きじゃないんだろうな」
 ああ、先生も苦しんでる。
 ゲームのせいで。私を好きになってしまって。

-----

 朝になったら、公爵家ここを出て、お兄様の所へ帰ろう。
 そう考えるローゼは、エンジェル男爵家を思い出し、小さく身震いする。
 あの屋敷にはが…ううん。あの男は一年前に亡くなったとお兄様から連絡をもらったじゃない。もういないのよ。
 公爵家で与えていただいた物はできるだけ置いて行かなくちゃ。
 ローゼは少しの着替えをカバンに詰めた。

 その時、ローゼの部屋をノックする音がする。
「はい」
 ローゼがドアを開けると、そこにクリスティンが立っていた。
「クリスティン様?」
 通常、公爵家の嫡男が使用人の部屋を訪ねる事などない。しかも今は夜だ。
「……」
 何も言わずにローゼを睨む様に見るクリスティン。
 何か…不味い気がする…
「御用ならクリスティン様のお部屋へ伺います」
 ローゼが部屋を出ようとすると、クリスティンはローゼの肩を押した。
「クリスティン様!?」
 クリスティンは無言でよろけたローゼの腕を掴むとローゼを押し込むように部屋へ入る。
 ローゼを床に投げるように腕を離した。
「きゃっ」
 床に倒れ込むローゼ。クリスティンは後手でドアを閉めると、鍵を掛ける。
「クリスティン様…?」
 倒れたローゼが上半身を起こすと、クリスティンはローゼの前にしゃがみ込んだ。
「…今日も、ニューマン先生と会っていたのか?」
「え?」
 クリスティンは俯いていて表情は見えない。
「今日姉上から早馬で知らせが来た」
「リリー様から…」
「サイオン殿下から婚約解消を申し入れられたと。他に想う方がいるからと…相手は言われなかったそうだが、きっとローゼだろうと」
 クリスティンは顔を上げてローゼを見据える。
 憎しみのような、苛立ちのような表情が見えた。
「リリー様が…」
「ローゼは本当に男を誘惑するのが上手いんだな」
 クリスティンは口角を上げる。
「王太子殿下まで籠絡するとは、サフィ嬢の言った事もあながち間違っていないんじゃないか?」
 
 幼い頃から男性を誘惑する事に長けていた。

 サフィはそう言ったのだ。
「違っ…」
「俺もローゼに誘惑された。責任を取って先生や王太子殿下だけじゃなく、俺の相手もしろよ」
 クリスティンはそう言うと、ローゼに覆い被さった。


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