ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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 最後のチェックポイントのテントには、クリスティン・マーシャルと、イヴァンが立っていた。
 ローゼに気付いたクリスティンが小走りに走って来る。
「ローゼ!」
「ク…クリスティン様」
 ローゼは思わず一歩後退る。
「ちょっ…マーシャル様、印を貰うの待ってる人がいるじゃないですか」
 デボラがそう言ってテントを指差しながらローゼの前に立つ。
「そんなの先生に任せておけば大丈夫だ」
「おーい、マーシャル君?」
 イヴァンがテントで印を押しながらクリスティンに声を掛けるが、クリスティンは聞こえない素振りでローゼに近寄る。
「ローゼ、公爵家うちに帰って来てくれ!」
「は?」
 思わず声が出る。ローゼはクリスティンが近寄って来た分だけ後ろに下がった。
「あの、ローゼは公爵家での行事見習いを終えて家に戻ったんですよ?」
 デボラがローゼとクリスティンの間に立ちながら言うと
「それは分かっているが、ローゼ…もうあんな事しないから、帰って来て欲しい」
 切羽詰まったら表情でクリスティンは言う。
 …嫌だ。
 ジリジリと詰め寄るクリスティンと同じだけ後退るローゼとデボラ。
 見兼ねたイヴァンが、印を待っている生徒に「ちょっと待っててください」と声を掛けて、ローゼたちの方へ足を踏み出した。

 その時、
 黒い影が二つ、林から出て来て、それぞれがローゼとデボラを捉えた。

 何!?

 後ろから腹に手を回され、口を塞がれ、あっという間に目の前のデボラとクリスティンがローゼの視界から消え、林の木々が視界を流れて行く。
 口に当てられた布に仕込んであったらしい薬で、一瞬の間に木々も見えなくなり、ローゼは意識を失った。

-----

 薄っすらと目を開けると、ローゼの目の前に黒い影が見えた。
「!」
「もう目が覚めたか?まあまだ朦朧としてるか」
 声を出そうとして、口に布を押し込まれ、更にそれを押さえた布を頭の後ろで結ばれている事に気付く。
 腕は身体の後ろで縛られていて、足は縛られていないが、黒尽くめの男が腿を跨ぐように座っていて、身動きはできない。
「よく見りゃ貧相な小娘だなぁ」
 ローゼの脚の上に座った男はローゼの顎を掴んで言った。
「ピンクの髪だし、間違いねぇとは思うが…こんな貧相なのが稀代の妖婦なのか?」
 グイグイと顎を左右に動かす。指が食い込んで痛いが、痛いと思う余裕もローゼにはなかった。
「ぐ…」
 息と一緒に呻き声が漏れる。
 妖婦って…実父を破滅させ、学園の男を籠絡する妖婦って噂を信じて攫われた…?
 ローゼは薬で上手く回らない頭で考える。
 黒尽くめの男の目出し帽から見える茶色の目だけがギラギラと光っていた。
「船が来るまでもう少し時間があるし、ヤッてみりゃ、見た目と違ってすげぇ技があるとか、実は名器だとか分かるんじゃねぇの?」
 ローゼの足元から違う男の声がした。
 ローゼからは見えない位置にもう一人の男がいるようだ。
「…そっちの女の方がよっぽど婀娜っぽいな」
「ああ?んーまあ確かにな」
 そっちの女って…もしかしてデビィ?
「もしかして、髪を染めて擬装してるんじゃねぇか?」
 ローゼの腿に座った男が身体を捻るようにして後ろを見ている。
「ない話でもないな。こっちも確かめてみるか」
「俺にその女をヤらせろや。こんな貧相な女じゃ…」
「いいぜ。俺はガキでも何でもいいし」
 足元の男がヒヒッと下卑た笑い声を上げた。

 デビィが…危ない…
 腿の上が少し軽くなる。男たちが入れ替わろうとしているようだ。
 ローゼは力を振り絞って、縛られた手で床を押し、足を思い切り振り上げた。
「ぐえっ!」
 腿の上の男がくぐもった声を出す。ローゼの膝が急所に当たったようだ。
「なっこの女!」
 足元の男の声が聞こえた。
 腿が軽くなったので、ローゼは身を捩って起き上がると、視界の端に見えた扉へと駆けて行き思い切り身体をぶつけた。

 バタンッ

 扉が開き、ローゼの視界いっぱいに水面が映る。

 バシャーンッ

 音と水飛沫を立てて、湖に落ちた。


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