ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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「はあ…尊い…」
 眠っているローゼが小さく呟く。
 よく聞こえなかったサイオンは、ローゼの顔を覗き込む。
「ローゼ」
 うなされている様子はないが、小声で呼び掛けてみる。
 反応はない。
 湖に落ちたローゼを王城へと連れ帰ったのは昨日の事だ。容体が安定したので今日は王宮の自分の部屋へと連れて来た。
 昨夜、話し合った通り、ローゼを別人にするため。そしてリリーに言われたようにローゼに自分の気持ちを伝えるために。
「ローゼ」
 もう呼べなくなるだろう名前を呼ぶ。
 ローゼは名前も身分も取り巻く環境も変わってしまう事、ローゼ・エンジェルとしての十五年間を捨てる事を受け入れてくれるだろうか?
 俺の気持ちを、受け入れてくれるだろうか?

 ローゼがゆっくりと目を開ける。
「ローゼ」
 ぼんやりとした視線がサイオンを見ている。
「気がついたか?気分はどうだ?」
「…何これ、夢?」
「ローゼ?」
 ローゼは小さな声で言うと、手を動かして、サイオンの頬に触る。
 夢を見ているのか?
 サイオンが頬に触れた手に触ろうとした時、ローゼがふっと微笑んだ。
「…っ」
 サイオンは息を飲む。
 愛おしさが胸に溢れ、思わずローゼに口付けた。
 ベッドに膝を乗り上げ、ローゼを抱きしめる。
「俺のローゼ…絶対にどこへもやらない」
 リリーはローゼの意思を蔑ろにするなと言った。
 もちろん蔑ろにするつもりはないが、俺はもう嫌われ、拒絶されたとしてもローゼを離さない。

「私…死んだんじゃないの?」
 ローゼが呟く。
 本当にそう思うのなら…
「ローゼ」
 ローゼの背中と後ろ頭に回した手に力を入れる。
「…サイオン…?」
 呼び捨てられ、胸が掴まれたように締め付けられ、生まれて初めて指先が痺れるような切なさを感じる。
 もしかして、前世の夢を見ていたのか?
 ローゼの肩に埋めていた顔を上げ、正面からローゼの顔を覗き込む。
「ローゼ…」
 まだ定まらない視線で俺を見るローゼ。
 ああ、かわいい。愛しい。
「ローゼ、もしもあの時、命を落としたと思ったならば…これからの人生を、俺にくれないか?」
 ドクドクと心臓が鳴る。
 どうか俺を拒まないで…
「…うん」
 サイオンの腕の中で、ローゼは小さく頷いた。

-----
 
「何しろ、ローゼには、これから死んでもらうからな」
 そう言うと、ローゼは目を見開いてサイオンを見る。
「…え?」
 サイオンは起き上がると、ローゼの手を引いて、自分の脚の間に座らせた。
「大丈夫か?眩暈とかしないか?」
「はい。大丈夫…みたいです。けど、殿下これは…」
 後ろから手を回してローゼの胸の下を抱き寄せ、身体を密着させる。
「あの。さっきの『これからの人生』って、私、あの…半分夢の出来事だと思って…」
 ローゼは少しもがいてサイオンから離れようとする。が、サイオンはローゼを抱きしめて離さない。
「半分夢なら、頷いたのがローゼの本音って事だろう?」
「……」
 ローゼは黙って両手で顔を覆う。後ろから見た耳が、首筋がほんのりと赤く染まっている。
 こんなの「そうだ」と言っているような物じゃないか。
 チュッとローゼのほんのり赤い首筋にキスをする。
「ひゃっ」
 ピクンと反応するローゼがまたかわいい。
「俺は…ローゼが好きだ」
「…!」
 息を飲む気配。
「ローゼが好きだ」
「……」
 ローゼはますます赤くなりながら俯く。
「ローゼが好」
「ででで殿下!もうわかりました!」
 サイオンの言葉を遮るように、ローゼは振り向きながら言う。
 サイオンと目が合う。
 涙目になった青い瞳。頬も額も真っ赤だ。
 チュッと唇に触れるだけのキスをする。
「…でっ殿下!」
 慌ててますます赤くなるローゼ。
「こういう時は殿下じゃなくサイオンと呼んで欲しいなあ」
「何言って…いえおっしゃってるんですか」
「夢の中では呼び捨てなんだろう?」
「ひえっ」
 小さく「声に出してたのか私っ」と呟くローゼ。ああ、何でこんなにかわいいんだろう。

「ごめんな。ローゼ。リリーからはローゼの意思を蔑ろにするなと言われたんだが…俺はもうローゼを離す気はないから」
 ぎゅっと抱きしめる。
 ローゼは小さくて細くて、力を込めると潰れてしまいそうだ。
「え?意思?リリー様が?離す気はないって何ですか?」
 おろおろするローゼ。
「例えローゼが俺を嫌いでも…」
「…サイオン殿下」
 ローゼはサイオンの言葉を止めるように言う。
「ん?」
 サイオンはローゼに笑顔を向ける。
 ここでローゼに何を言われようとも、俺の決意は揺るがない。
「…そんなに苦しそうな表情かおをしないでください。私…サイオン殿下の事、好きですよ?」
「……好き?」
「はい」
 頬は赤いが、ローゼは真っ直ぐにサイオンを見ていた。
「その、好きとは…どういう?」
 窺うように言うサイオンに、ローゼは微笑みかける。
「こんな風に、後ろから抱きしめられて、私が平気でいられるのは…サイオン殿下だけです」






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