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ルーカスが芝生の上に敷物を広げると、シャーロットはその上にペタリと座り込んだ。
「こらロッテ。殿下の前で…」
「ああ、構わん。随分緊張して馬に乗っていたみたいだから疲れたのだろう?」
「はい…もうどっと疲れが…」
シャーロットがユリウスに苦笑いを向けると、ルーカスは無言で少し頭を下げてその場から去って行く。
「ロッテは乗馬が苦手なのか?」
「乗馬…と言うか、運動全般苦手なんです…」
敷物の上に置かれたバスケットから取り皿やグラスを取り出して並べていくシャーロット。
「そうなのか?でもグリフと踊っていたダンスは上手かったぞ?」
「え?ご覧に…?」
「ああ。目立っていたからな」
「あ…あれはグリフ様のリードが良かったからです…」
少し赤くなった頬を両手で押さえるシャーロット。
この反応、ダンスが上手かったと言われて照れているのか、それともグリフを想って照れているのか。
「ああ、そうだ。ロッテ、この間は済まなかった」
「え?」
シャーロットはきょとんとした表情だ。
「四次選考の時…俺はただ一人になりたかっただけで、ロッテを追い出そうと思った訳ではなかったんだ」
「あ…いえ、私こそ、余計な事を言ってしまって申し訳ありません」
「いや、ロッテは心当たりを話してくれただけで、謝る様な事は何もしていない」
そう真剣に言うユリウスに、申し訳なさそうな表情だったシャーロットはホッとして頬を緩ませた。
-----
昼食を終えて池の畔の木が立ち並ぶ間にある小径を並んで歩くユリウスとシャーロット。
ああやっぱりロッテだと、横に並んでいても顔が見えるんだな。
「殿下…あの」
シャーロットがユリウスの方へ向いて、パチンと目が合う。
「ん?」
ああ、いいな。
この表情が良く見える感じ、すごく好きだ。
「…っ」
シャーロットはユリウスがあまりに優しい眼で自分を見ていたので思わず言葉を詰まらせた。
「ロッテ?」
「…あの、王太子殿下にお願いするのは失礼かとは思うんですけど、これを、アイリーン殿下へお渡しいただけませんか?」
シャーロットは俯いてユリウスから視線を逸らすと、上着のポケットから小さな紙袋を取り出す。
「アイリーンに?」
「はい。この間のお茶会でアイリーン殿下に差し上げる約束をしていたブローチです」
「…ああ」
ユリウスはシャーロットの差し出した両手に乗る紙袋を、シャーロットの手に触れない様にそっと取る。
「渡しておく」
ユリウスはニッコリと笑うと、紙袋を上着の内ポケットへと入れた。
笑っておられるのに、何で淋しそうに見えるの?
ユリウスがまた歩き出したので、シャーロットも半歩後ろを着いて行く。
「ロッテ、ルーカスは俺の妃について、何か言っていたか?」
そう言いながら少し振り向いてシャーロットを見たユリウスの表情はいつもと同じ様に見えた。
…あれ?気のせい…だったのかな?
「ロッテ?」
「あ。いえ、あの…お兄様は…」
ええと、「俺の妃について何か言っていたか?」だっけ。
何かって何?
妃…ユリウス殿下の妻、奥方、奥さん、お嫁さん、配偶者?
シャーロットの頭の中をぐるぐると「妻」の類語が回る。
「…いえ、特に何も…」
「そうか。マリアにも何も言っていない様子か?」
マリア?ううん。特に何も変わった様子はないけど、何でマリア?
「はい」
「そうか。…俺は本格的に愛想を尽かされたか」
「え?」
シャーロットはユリウスの表情を見ようとするが、ユリウスはシャーロットの方とは反対側の池の方を見ていて顔が良く見えない。
何だろう。ユリウス殿下が悲しんでる…気がする。
どうしよう…何か、殿下に何かを言いたい、けど…
「ロッテ、今日ルーカスが家に戻ったら『あれは嘘だ』と伝えてくれないか?」
「え?」
ユリウスがシャーロットの方へ向く。少し上目遣いでユリウスを見ると、苦笑いで少し首を傾げるユリウスと目が合う。
「ロッテ」
「は…」
返事をしようとした時、ユリウスの顔が近付いてきて、唇がシャーロットの額に触れた。
……!?
思わずギュッと目を瞑ったシャーロットが、そっと目を開けると、ユリウスはシャーロットに背を向けて木の間を縫って池の方へゆっくりと歩いていた。
「……」
何?今のは…おでこに…キス…?
シャーロットは片手で額を押さえながら、ユリウスの進む方へ整備された小径から一歩足を踏み出す。
ズルッ。
「きゃっ」
明け方までの雨でぬかるんでいた土に足を滑らせて、シャーロットは後ろ向きに倒れた。
「ロッテ?」
ユリウスが振り向いた時、
ガサッ!!
木の影から黒い塊が飛び出して来た。
ルーカスが芝生の上に敷物を広げると、シャーロットはその上にペタリと座り込んだ。
「こらロッテ。殿下の前で…」
「ああ、構わん。随分緊張して馬に乗っていたみたいだから疲れたのだろう?」
「はい…もうどっと疲れが…」
シャーロットがユリウスに苦笑いを向けると、ルーカスは無言で少し頭を下げてその場から去って行く。
「ロッテは乗馬が苦手なのか?」
「乗馬…と言うか、運動全般苦手なんです…」
敷物の上に置かれたバスケットから取り皿やグラスを取り出して並べていくシャーロット。
「そうなのか?でもグリフと踊っていたダンスは上手かったぞ?」
「え?ご覧に…?」
「ああ。目立っていたからな」
「あ…あれはグリフ様のリードが良かったからです…」
少し赤くなった頬を両手で押さえるシャーロット。
この反応、ダンスが上手かったと言われて照れているのか、それともグリフを想って照れているのか。
「ああ、そうだ。ロッテ、この間は済まなかった」
「え?」
シャーロットはきょとんとした表情だ。
「四次選考の時…俺はただ一人になりたかっただけで、ロッテを追い出そうと思った訳ではなかったんだ」
「あ…いえ、私こそ、余計な事を言ってしまって申し訳ありません」
「いや、ロッテは心当たりを話してくれただけで、謝る様な事は何もしていない」
そう真剣に言うユリウスに、申し訳なさそうな表情だったシャーロットはホッとして頬を緩ませた。
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昼食を終えて池の畔の木が立ち並ぶ間にある小径を並んで歩くユリウスとシャーロット。
ああやっぱりロッテだと、横に並んでいても顔が見えるんだな。
「殿下…あの」
シャーロットがユリウスの方へ向いて、パチンと目が合う。
「ん?」
ああ、いいな。
この表情が良く見える感じ、すごく好きだ。
「…っ」
シャーロットはユリウスがあまりに優しい眼で自分を見ていたので思わず言葉を詰まらせた。
「ロッテ?」
「…あの、王太子殿下にお願いするのは失礼かとは思うんですけど、これを、アイリーン殿下へお渡しいただけませんか?」
シャーロットは俯いてユリウスから視線を逸らすと、上着のポケットから小さな紙袋を取り出す。
「アイリーンに?」
「はい。この間のお茶会でアイリーン殿下に差し上げる約束をしていたブローチです」
「…ああ」
ユリウスはシャーロットの差し出した両手に乗る紙袋を、シャーロットの手に触れない様にそっと取る。
「渡しておく」
ユリウスはニッコリと笑うと、紙袋を上着の内ポケットへと入れた。
笑っておられるのに、何で淋しそうに見えるの?
ユリウスがまた歩き出したので、シャーロットも半歩後ろを着いて行く。
「ロッテ、ルーカスは俺の妃について、何か言っていたか?」
そう言いながら少し振り向いてシャーロットを見たユリウスの表情はいつもと同じ様に見えた。
…あれ?気のせい…だったのかな?
「ロッテ?」
「あ。いえ、あの…お兄様は…」
ええと、「俺の妃について何か言っていたか?」だっけ。
何かって何?
妃…ユリウス殿下の妻、奥方、奥さん、お嫁さん、配偶者?
シャーロットの頭の中をぐるぐると「妻」の類語が回る。
「…いえ、特に何も…」
「そうか。マリアにも何も言っていない様子か?」
マリア?ううん。特に何も変わった様子はないけど、何でマリア?
「はい」
「そうか。…俺は本格的に愛想を尽かされたか」
「え?」
シャーロットはユリウスの表情を見ようとするが、ユリウスはシャーロットの方とは反対側の池の方を見ていて顔が良く見えない。
何だろう。ユリウス殿下が悲しんでる…気がする。
どうしよう…何か、殿下に何かを言いたい、けど…
「ロッテ、今日ルーカスが家に戻ったら『あれは嘘だ』と伝えてくれないか?」
「え?」
ユリウスがシャーロットの方へ向く。少し上目遣いでユリウスを見ると、苦笑いで少し首を傾げるユリウスと目が合う。
「ロッテ」
「は…」
返事をしようとした時、ユリウスの顔が近付いてきて、唇がシャーロットの額に触れた。
……!?
思わずギュッと目を瞑ったシャーロットが、そっと目を開けると、ユリウスはシャーロットに背を向けて木の間を縫って池の方へゆっくりと歩いていた。
「……」
何?今のは…おでこに…キス…?
シャーロットは片手で額を押さえながら、ユリウスの進む方へ整備された小径から一歩足を踏み出す。
ズルッ。
「きゃっ」
明け方までの雨でぬかるんでいた土に足を滑らせて、シャーロットは後ろ向きに倒れた。
「ロッテ?」
ユリウスが振り向いた時、
ガサッ!!
木の影から黒い塊が飛び出して来た。
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