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「学園の建物はほぼ被害がなかったんだ。頑丈にできているんだな」
ユリウスは生徒会室を出た所の廊下の壁に手を当てて言う。
「ガラスが割れたくらいか。ちょうど休日で学園内に人がいなかったから負傷者も出なかったし」
メレディスもユリウスの横で壁に手を当てながら言った。
「殿下?メレディス様?」
廊下の向こうからシャーロットが首を傾げながら歩いて来る。
「ロッテ」
ユリウスが笑顔でシャーロットを見た。
うわあ。眩しい。
「あの…何をなさってるんですか?」
並んで壁に手を当てる男二人は、同時にペチペチと壁を叩いた。
「学園の建物は丈夫な造りだな、と話していたんだ」
ユリウスは壁から手を離すと、シャーロットに向けて差し出す。
シャーロットはちょこんと、ユリウスの手の平に自分の手を載せた。
そのまま手を引かれ、生徒会室のソファへと促される。
エスコート、まだ慣れなくて恥ずかしい…
シャーロットはソファへ座ると、自分の頬を手で押さえた。
「お話があると伺いましたが…?」
「ああ。スアレスの立太子式が決まったんだ」
シャーロットの向かいに座りながらユリウスが言う。
「いつですか?」
「一年と三か月後。スアレスが学園の一年生を終え、二年生になる前の春休暇中だ。それまでは俺が暫定王太子だな」
不祥事や身体状態の問題が何もない現役の王太子である第一王子が「王太子を辞める」と言い出す想定外の事態。国王と議会は、第二王子の立太子の準備が整うまでに国王に不測の事態が生じた場合は、暫定的に第一王子が王位を継ぐ事を条件に本人の意思を尊重することを決定したのだ。
「今まで王太子を『辞めさせられる』事はあっても、王太子が『自ら辞める』事などなかったから議会も対応に苦慮しているんだな」
ユリウスの隣に座ったメレディスがそう言うと、ユリウスは苦笑いを浮かべた。
「しかしスアレス殿下とオードリー様のご婚約は早々に承認されて良かったな。ユリウスも安心しただろ?」
「そうだな」
頷きながら、ユリウスはシャーロットの顔を見る。
ユリウスとオードリーの婚約については、オードリーが「自分が望むのは王太子妃だ」と強く主張した上、王家と議会からの口添えもあり、教会から婚約取り消し許可が下りるのは早かった。
「オードリー様が議会で『私はユリウス殿下が王太子だから婚約する事にしたのです。王太子ではない殿下と結婚する気はありません』と言い切ったのが大きかったな」
メレディスは面白そうにユリウスを見た。ユリウスは苦笑いで片眉を上げる。
「宰相閣下がオードリーさんにそう言うよう助言をされたってオードリーさんから聞きましたけど」
オードリーはシャーロットの手を取って「私の希望も、ユリウス殿下とロッテさんのお気持ちも全て叶って嬉しいです」と満面の笑顔で言ったのだ。
「ああ。実際婚約に関する宰相の動きは早くて正確だったな」
任せろと自分で言うだけある。とユリウスは思った。
「メレディス」
ユリウスがシャーロットを見た後、メレディスに視線を向けると、メレディスは肩を竦める。
「まだ婚約していないんだから、五分だけな」
そう言って立ち上がると、生徒会室を出て行き、扉を閉めた。
これで生徒会室にはユリウスとシャーロットの二人だけになる。
「ロッテ」
「はい」
「卒業パーティー、俺にエスコートさせてくれないか?」
そ、卒業パーティーにエスコート…と言う事は、ユリウス殿下の「恋人」は私ですって皆に知らしめるって事で…
気持ちが通じてから約三か月経つが、ユリウスは婚約取り止めや廃太子の事で何かと忙しく、シャーロットとゆっくり会う事もできていない。たまに学園でこうして少しの時間二人で話すくらいで、恋人らしい語らいも触れ合いもない。つまりシャーロットには自分がユリウスの恋人だと言う実感も自覚もまだないのだ。
「…嫌か?」
ユリウスが不安そうにシャーロットを見る。
「いえ!嫌なんて事は!」
シャーロットは慌てて首をブンブンと振った。
「ロッテ?」
「…ヒールだと、私…殿下と同じくらいに…」
俯いて、言いにくそうに言う。
「ロッテ、立って」
ユリウスは立ち上がってテーブルを回ってシャーロットの傍に立つとに手を差し出した。
「…はい」
シャーロットはユリウスの手を取り立ち上がる。
と、ユリウスはシャーロットの手を引いて、シャーロットを抱きしめた。
「ひゃ!」
クスクスと笑うユリウスはシャーロットの耳元で囁く。
「俺は、ロッテの背が高い処を好きになった」
「え?」
「表情が良く見えるだろう?」
「殿下…」
シャーロットは上目遣いでユリウスを見る。
確かに、顔が近い!殿下の息が、おでこに当たる!
「横に並んでいても、視線だけでどんな表情かわかる。俺にとっては重要な事なんだ」
ユリウスはそう言うと、シャーロットの額に口付けた。
「学園の建物はほぼ被害がなかったんだ。頑丈にできているんだな」
ユリウスは生徒会室を出た所の廊下の壁に手を当てて言う。
「ガラスが割れたくらいか。ちょうど休日で学園内に人がいなかったから負傷者も出なかったし」
メレディスもユリウスの横で壁に手を当てながら言った。
「殿下?メレディス様?」
廊下の向こうからシャーロットが首を傾げながら歩いて来る。
「ロッテ」
ユリウスが笑顔でシャーロットを見た。
うわあ。眩しい。
「あの…何をなさってるんですか?」
並んで壁に手を当てる男二人は、同時にペチペチと壁を叩いた。
「学園の建物は丈夫な造りだな、と話していたんだ」
ユリウスは壁から手を離すと、シャーロットに向けて差し出す。
シャーロットはちょこんと、ユリウスの手の平に自分の手を載せた。
そのまま手を引かれ、生徒会室のソファへと促される。
エスコート、まだ慣れなくて恥ずかしい…
シャーロットはソファへ座ると、自分の頬を手で押さえた。
「お話があると伺いましたが…?」
「ああ。スアレスの立太子式が決まったんだ」
シャーロットの向かいに座りながらユリウスが言う。
「いつですか?」
「一年と三か月後。スアレスが学園の一年生を終え、二年生になる前の春休暇中だ。それまでは俺が暫定王太子だな」
不祥事や身体状態の問題が何もない現役の王太子である第一王子が「王太子を辞める」と言い出す想定外の事態。国王と議会は、第二王子の立太子の準備が整うまでに国王に不測の事態が生じた場合は、暫定的に第一王子が王位を継ぐ事を条件に本人の意思を尊重することを決定したのだ。
「今まで王太子を『辞めさせられる』事はあっても、王太子が『自ら辞める』事などなかったから議会も対応に苦慮しているんだな」
ユリウスの隣に座ったメレディスがそう言うと、ユリウスは苦笑いを浮かべた。
「しかしスアレス殿下とオードリー様のご婚約は早々に承認されて良かったな。ユリウスも安心しただろ?」
「そうだな」
頷きながら、ユリウスはシャーロットの顔を見る。
ユリウスとオードリーの婚約については、オードリーが「自分が望むのは王太子妃だ」と強く主張した上、王家と議会からの口添えもあり、教会から婚約取り消し許可が下りるのは早かった。
「オードリー様が議会で『私はユリウス殿下が王太子だから婚約する事にしたのです。王太子ではない殿下と結婚する気はありません』と言い切ったのが大きかったな」
メレディスは面白そうにユリウスを見た。ユリウスは苦笑いで片眉を上げる。
「宰相閣下がオードリーさんにそう言うよう助言をされたってオードリーさんから聞きましたけど」
オードリーはシャーロットの手を取って「私の希望も、ユリウス殿下とロッテさんのお気持ちも全て叶って嬉しいです」と満面の笑顔で言ったのだ。
「ああ。実際婚約に関する宰相の動きは早くて正確だったな」
任せろと自分で言うだけある。とユリウスは思った。
「メレディス」
ユリウスがシャーロットを見た後、メレディスに視線を向けると、メレディスは肩を竦める。
「まだ婚約していないんだから、五分だけな」
そう言って立ち上がると、生徒会室を出て行き、扉を閉めた。
これで生徒会室にはユリウスとシャーロットの二人だけになる。
「ロッテ」
「はい」
「卒業パーティー、俺にエスコートさせてくれないか?」
そ、卒業パーティーにエスコート…と言う事は、ユリウス殿下の「恋人」は私ですって皆に知らしめるって事で…
気持ちが通じてから約三か月経つが、ユリウスは婚約取り止めや廃太子の事で何かと忙しく、シャーロットとゆっくり会う事もできていない。たまに学園でこうして少しの時間二人で話すくらいで、恋人らしい語らいも触れ合いもない。つまりシャーロットには自分がユリウスの恋人だと言う実感も自覚もまだないのだ。
「…嫌か?」
ユリウスが不安そうにシャーロットを見る。
「いえ!嫌なんて事は!」
シャーロットは慌てて首をブンブンと振った。
「ロッテ?」
「…ヒールだと、私…殿下と同じくらいに…」
俯いて、言いにくそうに言う。
「ロッテ、立って」
ユリウスは立ち上がってテーブルを回ってシャーロットの傍に立つとに手を差し出した。
「…はい」
シャーロットはユリウスの手を取り立ち上がる。
と、ユリウスはシャーロットの手を引いて、シャーロットを抱きしめた。
「ひゃ!」
クスクスと笑うユリウスはシャーロットの耳元で囁く。
「俺は、ロッテの背が高い処を好きになった」
「え?」
「表情が良く見えるだろう?」
「殿下…」
シャーロットは上目遣いでユリウスを見る。
確かに、顔が近い!殿下の息が、おでこに当たる!
「横に並んでいても、視線だけでどんな表情かわかる。俺にとっては重要な事なんだ」
ユリウスはそう言うと、シャーロットの額に口付けた。
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