悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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「もちろんアドルフがこのフォスター家を継いでくれるならば、それが何よりだと思う。イライザが婿を取ってくれるなら、それも良いと思う。だが、私たちはアドルフにもイライザにもブリジットにも、それを強要するつもりはないんだよ」
 イライザたちの父は、アドルフ、イライザ、ブリジットの前で穏やかにそう言った。

 夕食後のサロンに一家勢揃いしたフォスター家。父も母も三人の子供たちも、部屋の隅に控えている執事や侍女たちも、みんな神妙な面持ちだ。
「しかし…」
「でも…」
 アドルフとイライザが何かを言おうとすると、母が片手を上げてそれを制した。
「私も旦那様と同じ気持ちよ。私たちはアドルフにもイライザにもブリジットにも幸せになって欲しいの。しがらみなど気にせずに」
「そうだ。だから私の代でフォスター家が途絶えたとしても構わない。それではお前たちの気が済まないと言うなら、誰か養子に迎えてフォスター家を継いでもらっても良いしな」
 父がそう言うと、母も大きく頷いた。

ーーーーー

「昨夜の旦那様も奥様も、格好良かったですね…」
 イライザの髪を梳きながら、アンリがうっとりとして言う。
「それは本当にそう。でも…」
 お父様もお母様もああ言ったけど、本当の本当の処は三人の子供の誰かに家を継いで欲しいんじゃないかってどうしても思っちゃうけど。
「とどめは『もしもアドルフがサクソン家へ行ったとしても、我が家がアドルフの家であり、私たちが父と母と妹である事には何ら変わりはないんだからな』って、アドルフ様の頭をポンって…はあ~本当旦那様格好良い」
 櫛を持ったまま頬を押さえて言うアンリ。
「それは本当に格好良かったけど」
 もし本当にお兄様がサクソン公爵家へ戻る事になったとして、その上で私がグレイ殿下に好きって言われた事をブリジットが知ったら、もしかしてブリジットがお兄様と結婚せずに、お婿さんを迎えてこの家を継ぐとか言い出すかも。
 それは駄目。
 だから私がグレイ殿下とりょ…両想いになった事、ブリジットには…ううん。誰にも知られないようにしなくちゃ。
 グレイ殿下にもちゃんとお断りして……

「イライザお嬢様!?」
 アンリが驚いて言う。
「何?」
 イライザは鏡越しにアンリの方を見ようとして、視界が歪んでいる事に気付いた。
「…あ」
 鏡の中のイライザの両眼から涙がポロポロと溢れている。
「ど、どうされました?」

 嫌。嫌よ!どうして両想いになったのに、諦めないといけないの!?
 イライザの心の中でそんな想いが渦巻いた。

 …ああ。これ、イライザの声だわ。
 私の中でイライザが泣いて叫んでる。

「死に掛けてないのに…それともイライザにとっては死に掛けたのと同じ位ショックだった?」
 それとも私、実は死に掛けてるのかな。
「お嬢様?」
 アンリが心配そうにオロオロしている。

 自己犠牲なんて悪役令嬢イライザには相応しくないわ!
 そんなのでグレイ殿下を傷付けるだなんて許さない!
 絶対に許さないから!!

「待っ…」
 イライザは立ち上がろうとすると、目の前がすうっと暗くなった。
「……」
 立ち上がった処でピタリと動きが止まる。
「お…お嬢様…?」
 目を見開いたままで固まるイライザに恐る恐るアンリが話し掛けた。

「…ふふ」
 不意に笑い出すイライザ。
「お嬢様…?」
「ふふふ。オホホホホ!」
 口元に手の甲を当てて高笑いをするイライザに、訝し気だったアンリがハッと気付く。
「この笑い方!まさか…」
「その通りよアンリ。久しぶりね」
 口元に当てていた手でウェーブした髪を後ろへ払う。
「イライザお嬢様!?ですか!?」
「そう。階段から落ちて死んだ筈のイライザよ」
 イライザはニッコリと笑った。

「お嬢様…あの、では、今までのあの『前世が日本人』で『この世界に転生した』イライザお嬢様はどうなったのですか?」
 アンリが心配そうに言うと、イライザはアンリを少し睨む。
「…私の中で眠ってるわ。今は入れ替わっているだけよ。それより、行くわよ!」
 イライザはソファの前から歩き出した。
「そうなんですか…え?行くってどこへですか?」
「王宮よ。グレイ殿下に会いに行くわ」
 部屋の扉の方へと歩くイライザを慌てて追いかけるアンリ。
「殿下に?」
「もう!早くなさい!時間がないんだから!」
 イライザが苛々と叫ぶと同時に部屋の扉がノックされた。

「イライザお嬢様、グレイ殿下とエドモンド殿下がお見えです」



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