悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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「グレイ殿下!この後私が何を言っても決して頷かないでください!」
 イライザは部屋に入って来たグレイに駆け寄ると、開口一番そう言った。
「どうしたんだ?」
 グレイは少し首を傾げて、微笑みながらイライザを見る。
「私、きっとこの後『フォスター侯爵家を継ぐ事にしました』『だからグレイ殿下の事は諦めます』って言います。でも決して頷かないで欲しいのです」
 自分の前に立つグレイを真っ直ぐ見つめながらイライザは言った。
「…は…?」
 瞠目するグレイ。
「正確には『私の夫にフォスター侯爵家を継いでもらう事にしました』ですけど」
「夫だと!?どう言う事だ?」
 グレイは両手でイライザの腕を掴む。

 グレイの後ろから部屋に入って来たエドモンドは、控えているアンリに目配せをした。
 アンリはそろそろとエドモンドの側に寄ると、無言で礼を取る。
「イライザの夫がフォスター侯爵家を継ぐとは…どういう事なんだ?」
「一言では…ご説明できかねます」
 小声でエドモンドが問うと、アンリも小声で答えた。

「…イライザの気持ちもわかるし、お兄様やブリジットの事を考えるのもわかるけど……私…嫌なんだもん~!!」
 うわああああん。
 とイライザは子供のように泣き出した。

ーーーーー

「それでは、あの階段を転落した時に本当はイライザは亡くなっていたと?」
 ソファに座って眉を顰めたグレイ、向かい側に座ったイライザはハンカチを鼻に押し当てて頷く。
「ええ。階段から落ちて気を失った後、何だか白い何もない空間にいて…前世の微かな思い出や、ゲームの事や赤い糸の事が頭に流れ込んで来て、目が覚めたら今のでした。私…元々の私の意識は転生者の私と入り混じり…普段は元の私と、転生者の私との境目は曖昧です」
「それで今は元々のイライザの意識が表に出ているのか?」
「はい。生命の危機に陥って、意識を失うと、普段は混ざり合っている私たちがほんの少しそれぞれの人格に分かれるみたいで…」
「でも今は生命の危機と言う訳ではないよね?それでも元々のイライザが出て来たのは…イライザが侯爵家を継ぐのをどうしても阻止しなくてはならなかったと言う事?」
 グレイの隣に座るエドモンドが少し身を乗り出して言った。
「家を継ぐ事ではなく、そのためにがグレイ殿下を拒絶する事を阻止したかったんです…」
 少し俯いてそう言ったイライザの眼にまた涙が浮かぶ。

「だって…私はずっとグレイ殿下を……」
 唇を震わせて涙を堪えるイライザ。
「そうか」
 グレイがふうっと息を吐きながら立ち上がると、イライザはハッとしてグレイを見上げた。
「イライザ、立って」
 グレイはテーブルを避けてイライザの傍に立つと、手を差し出した。
「…は、はい」
 イライザがグレイの手に自分の手を乗せると、その手をぎゅっと握る。
「その涙を堪えた顔、変わってないな」
 グレイはそう言うと、イライザを抱きしめた。
「ひゃあ!」
 驚くイライザの背中をポンポンと叩く。
「階段から転落した時も、湖の時も…助かってくれてありがとう」
「グレイ殿下…」
「俺は諦めないから、安心すると良い」
 背中を叩きながらグレイが言うと、イライザは頷いてグレイの胸元に額をつけた。

 すると、イライザの身体から一気に力が抜ける。
「イライザ!?」
 崩れ落ちるイライザの身体を抱きしめたままグレイが支えた。
「どうした?」
 エドモンドも心配そうに立ち上がり、アンリも部屋の隅からイライザの近くへと駆け寄った。
「気を失っているようだ」
 グレイはゆっくりとイライザをソファへと座らせる。

「先程お嬢様は『時間がない』と仰っていましたから…おそらく元のイライザお嬢様の意識はそう長い時間表に出ていられないのではないかと…」
 アンリが言うと、グレイとエドモンドが頷く。

「……」
「イライザ?」
 イライザは眼を開けると何度も瞬きをした。
 心配そうに覗き込むグレイと目が合うと、涙が溢れる。
「ごめんなさい…私…」
「大丈夫だイライザ。イライザの兄上も、ブリジット嬢も、父上も母上も、誰もが幸せになる方法を考えよう」
 グレイはまたイライザを抱き寄せた。

「俺がフォスター家を継ごうか?」
 不意にエドモンドが言う。

「…は?」
「え?」
 グレイが瞠目し、イライザも涙に濡れた顔をエドモンドに向け、アンリも驚いた表情でエドモンドを見た。








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