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舞踏会の日、レイラはミシェルと一緒に会場である講堂へ向かった。
ミシェルも婚約者であるサイラスのエスコートを断ったのだ。
「モニカ様もシャロン様もレベッカさんも、それぞれの婚約者や恋人のエスコートはないらしいわ」
「そう」
青いドレスを纏ったレイラと、薄紫のドレスを纏ったミシェルは開会ギリギリに講堂へ入る。
舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、歩いて向かう事になる。
生徒会長のカイルはきっと早目に会場入りするだろうから、もしアリスを寮に迎えに来ていても部屋から出なければ鉢合わせずに済むわ。
レイラの支度をしに来ていた侍女のアンは
「カイル殿下はレイラ様を大切にしてくれると思ってたのに見損ないましたよ。浮気王子!」
と怒っていた。
浮気王子か…カイルにとってはアリスの方が「本当の恋」なんだろうな…
レイラとミシェルが会場の後ろに立つと、程なく開会の挨拶が始まる。学園長の後は生徒会長のカイルだ。
壇上に上がるカイルをレイラはじっと見つめた。
…まともに顔を見るのは入学式の朝以来ね。
青い夜会服に前髪を後ろに流している。
悔しいけどやっぱりカッコいいな…
生徒会の役員と生徒会顧問のレイラの兄ライアンが壇上に控えている。さすが攻略対象者だ。皆スタイルも良く、格好良い。
「副題が『ツンデレ貴公子の溺愛』だけあって、みんなキリッとしてるわね」
ミシェルが小声でレイラに耳打ちする。
「そうね」
ゲームでは、普段無表情だったり笑いながらも毒舌だったりする攻略対象者が、ヒロインにだけはデレるのだ。
そのギャップ萌えで前世の私もハマったんだけど…
クールビューティーな第二王子カイルが一推しだった前世のレイラ。レイラは画面で見たカイルの笑顔を思い出す。
ヒロインにだけ向けられる笑顔。
挨拶が終わり、音楽が流れ出す。
すると、カイルがレイラの方へ歩いて来た。
わざと会場の後ろの隅の方に居たのに、目敏いなあ。
レイラはドキドキと鳴る胸を片手で押さえた。
胸が高鳴るなんてかわいいものじゃない。これは動悸だわ。
ファーストダンスは婚約者と。学園だけでない社交界のマナーであり常識だ。だからカイルも婚約者であるレイラの元にやって来たのだ。
「レイラ」
レイラの目の前にカイルが立って、右手を差し出して名前を呼ぶ。
「…はい」
レイラはカイルを正面から見られなくて、俯いたままカイルの右手に自分の手をそっと置いた。
カイルがキュッとレイラの指先を握る。
「え?」
レイラが思わず顔を上げると、カイルと視線が合わさった。
--冷たい眼。
今までも、ダンスの時、指先を握られたから…ああでもこんな眼で見られるなら顔を見なければ良かった…
無言でステップを踏む。
早く曲が終わればいい。これで婚約者の義務は果たしたわ。
「…何も言わないのか?」
カイルが小さな声で言う。
「?」
レイラは少し視線を上げてカイルの肩辺りを見た。眼を見る勇気はなかった。
「他の令嬢はアリスに『私の婚約者に近付かないで』などと言っているだろう?」
「…言いません」
アリスって呼び捨てにしてるんだ…そうよね。この間も食堂で呼んでたし、ゲームでも。知ってたけど、改めて実際目の前のカイルの生声で聞くと結構キツイな…
「何故何も言わない?」
ハミルトン家にとっては王子がハミルトン家の娘ではない令嬢と結婚してくれた方が良いから。
だからお父様やお母様だって怒っていてもカイルや王家に抗議したりはしないんだもの。
「……」
「ドレスの色は俺の衣装に合わせたのか?」
確かにレイラの青のドレスとカイルの青い夜会服は揃えて仕立てたかの様に雰囲気が似ていた。
「偶然です」
カイルが小さく息を吐く気配がレイラに伝わる。
本当に偶然だけど信じてなさそう。そして迷惑そうだな…
「アンソニーの婚約者やフレディの婚約者がアリスを呼び出して言い掛かりをつけたり、アリスの持ち物を隠したり、教科書を破いたりするのはお前の差し金なのか?」
お前。
もう名前も呼ばれないのか…
「いいえ」
レイラの声は小さく震えている。
その時、会場の隅で「きゃあ」と女性の声が上がった。
声の方へ目を向けると、生徒たちが一塊になっていて、隙間からピンクの髪が見えた。
「アリス!」
カイルはレイラの手を離してピンクの髪に向かって走り出す。
レイラはアリスの元へ駆けて行くカイルを見つめた後、踵を返し講堂を出て行った。
舞踏会の日、レイラはミシェルと一緒に会場である講堂へ向かった。
ミシェルも婚約者であるサイラスのエスコートを断ったのだ。
「モニカ様もシャロン様もレベッカさんも、それぞれの婚約者や恋人のエスコートはないらしいわ」
「そう」
青いドレスを纏ったレイラと、薄紫のドレスを纏ったミシェルは開会ギリギリに講堂へ入る。
舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、歩いて向かう事になる。
生徒会長のカイルはきっと早目に会場入りするだろうから、もしアリスを寮に迎えに来ていても部屋から出なければ鉢合わせずに済むわ。
レイラの支度をしに来ていた侍女のアンは
「カイル殿下はレイラ様を大切にしてくれると思ってたのに見損ないましたよ。浮気王子!」
と怒っていた。
浮気王子か…カイルにとってはアリスの方が「本当の恋」なんだろうな…
レイラとミシェルが会場の後ろに立つと、程なく開会の挨拶が始まる。学園長の後は生徒会長のカイルだ。
壇上に上がるカイルをレイラはじっと見つめた。
…まともに顔を見るのは入学式の朝以来ね。
青い夜会服に前髪を後ろに流している。
悔しいけどやっぱりカッコいいな…
生徒会の役員と生徒会顧問のレイラの兄ライアンが壇上に控えている。さすが攻略対象者だ。皆スタイルも良く、格好良い。
「副題が『ツンデレ貴公子の溺愛』だけあって、みんなキリッとしてるわね」
ミシェルが小声でレイラに耳打ちする。
「そうね」
ゲームでは、普段無表情だったり笑いながらも毒舌だったりする攻略対象者が、ヒロインにだけはデレるのだ。
そのギャップ萌えで前世の私もハマったんだけど…
クールビューティーな第二王子カイルが一推しだった前世のレイラ。レイラは画面で見たカイルの笑顔を思い出す。
ヒロインにだけ向けられる笑顔。
挨拶が終わり、音楽が流れ出す。
すると、カイルがレイラの方へ歩いて来た。
わざと会場の後ろの隅の方に居たのに、目敏いなあ。
レイラはドキドキと鳴る胸を片手で押さえた。
胸が高鳴るなんてかわいいものじゃない。これは動悸だわ。
ファーストダンスは婚約者と。学園だけでない社交界のマナーであり常識だ。だからカイルも婚約者であるレイラの元にやって来たのだ。
「レイラ」
レイラの目の前にカイルが立って、右手を差し出して名前を呼ぶ。
「…はい」
レイラはカイルを正面から見られなくて、俯いたままカイルの右手に自分の手をそっと置いた。
カイルがキュッとレイラの指先を握る。
「え?」
レイラが思わず顔を上げると、カイルと視線が合わさった。
--冷たい眼。
今までも、ダンスの時、指先を握られたから…ああでもこんな眼で見られるなら顔を見なければ良かった…
無言でステップを踏む。
早く曲が終わればいい。これで婚約者の義務は果たしたわ。
「…何も言わないのか?」
カイルが小さな声で言う。
「?」
レイラは少し視線を上げてカイルの肩辺りを見た。眼を見る勇気はなかった。
「他の令嬢はアリスに『私の婚約者に近付かないで』などと言っているだろう?」
「…言いません」
アリスって呼び捨てにしてるんだ…そうよね。この間も食堂で呼んでたし、ゲームでも。知ってたけど、改めて実際目の前のカイルの生声で聞くと結構キツイな…
「何故何も言わない?」
ハミルトン家にとっては王子がハミルトン家の娘ではない令嬢と結婚してくれた方が良いから。
だからお父様やお母様だって怒っていてもカイルや王家に抗議したりはしないんだもの。
「……」
「ドレスの色は俺の衣装に合わせたのか?」
確かにレイラの青のドレスとカイルの青い夜会服は揃えて仕立てたかの様に雰囲気が似ていた。
「偶然です」
カイルが小さく息を吐く気配がレイラに伝わる。
本当に偶然だけど信じてなさそう。そして迷惑そうだな…
「アンソニーの婚約者やフレディの婚約者がアリスを呼び出して言い掛かりをつけたり、アリスの持ち物を隠したり、教科書を破いたりするのはお前の差し金なのか?」
お前。
もう名前も呼ばれないのか…
「いいえ」
レイラの声は小さく震えている。
その時、会場の隅で「きゃあ」と女性の声が上がった。
声の方へ目を向けると、生徒たちが一塊になっていて、隙間からピンクの髪が見えた。
「アリス!」
カイルはレイラの手を離してピンクの髪に向かって走り出す。
レイラはアリスの元へ駆けて行くカイルを見つめた後、踵を返し講堂を出て行った。
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