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「フローラ…アレクシスを好き…なのよね?」
クリスティナが問う。
「もちろんです。お義母様もお兄様も、私を政略結婚の駒にしようとするお父様さえも黙らせてくれる大切な存在ですから」
フローラがにっこりと笑った。
それはつまり、フローラが俺に近付いて来たのも、王子という身分も婚約者がいるという立場も気にしない振る舞いも───全て、計算だったという事。
俺はそれにまんまと引っ掛かった、間抜けな王子サマという事、か。
「なっ…」
クリスティナが絶句すると、フローラは意気揚々と話を続ける。
「アレク様、この後クリスティナ様へ婚約破棄を突き付けるつもりなんですよ!」
「は?」
確かに婚約解消を告げるなら卒業パーティーだとは思っていた。けど、フローラにそうすると明言した事はないが?
「いくらアレク様の記憶がないとはいえ、婚約破棄はクリスティナ様には辛いと思うんです。でもアレク様は私の恋人だから仕方ないと諦めてください。最後にアレク様にエスコートされるって思い出もできましたしね!」
「フローラ」
名前を呼んでもフローラは聞こえない素振りで話し続ける。
「でも、ここからの主役はクリスティナ様じゃなく私です。私がアレク様にプロポーズされるのを見ててください!」
「フローラ!」
「あれ?断罪とかってあるんだっけ?クリスティナ様もしかして退場?」
独り言のように呟くフローラ。
フローラが、全く知らない女性に見えた。
クリスティナの様子を窺うと、クリスティナは呆然としてフローラを見ている。
「でも本当に、私の存在を認めてくれたクリスティナ様は私にとって特別な人なので、できれば辛い思いをして欲しくなかったんです。そういう意味ではクリスティナ様の記憶喪失は不幸中の幸いでした!」
「フローラ!!」
パアンッ!
同じ音を図書室で聞いたような…
フローラが頬を押さえて床に尻餅をつき、そしてクリスティナの振り下ろした手が、ブルブルと震えているのが目に入る。
「痛ぁい!何するのよ!いくらクリスティナ様だってこんな公衆の面前での暴力なんて許されないわ!」
フローラが床に座ったままクリスティナを見上げた。手で押さえた頬がみるみる赤くなっていく。
「……」
クリスティナはふっふっと短い息をして、手を震わせて、怒りを湛えた表情でフローラを睨みつけていた。
「私は王子の恋人よ!青紫を纏う事を許された唯一の女よ!このドレスを見ればわかるでしょう!」
「…わからないよ」
俺が低い声で言うと、フローラが俺の方を見て、少し口角を上げる。
「アレク様ぁ、クリスティナ様が酷いんです」
眉を寄せて涙目で、クリスティナの取り巻きに嫌がらせをされたと俺に「報告」する時と同じ表情のフローラ。
今でもとてもかわいいと思う。…思ってしまう。
こうやって、俺に…いや「王子」に近付いたって事か。そして俺はそれに気付かずクリスティナを裏切ったのか。
俺は拳をグッと握った。
「フローラ、俺はフローラにそのドレスを贈ってなどいないだろ?その色のドレスを着る許可を出した覚えもないよ」
フローラは瞠目する。
「確かに『まだ婚約破棄してないから今はドレスを贈る事はできない』ってアレク様言ってました。だから私、このドレスをアレク様から贈られたなんて一言も言ってません。でもアレク様『いつか俺の色のドレスを着せたい』って言ったじゃないですか!だから作ったんですよ!この色の布をこれだけ使ってあるんで、すっごく高かったんですから!」
「そんなお金…どこから?」
王族の紫はこの国では特別な色。
その色の絹で仕立てたフローラの着ているドレスは見るからにとても高価だ。
到底フローラ個人で払える金額ではない。ではフローラの父ケネット男爵が?
例えば、「王子の恋人」というフローラの立場を盤石にするために……いや、どんな理由でもあの男爵がフローラのために大金を払うなんて考えられない。
「青い薔薇の研究を売りました」
……………な、に?
「樹国って、ずーっと南の方にある国、知ってますか?そこの方が『高く買う』って言うんで」
フローラの高い声が頭の中に反響した。
衝撃が強すぎて頭が真っ白で何も考えられない…
隣に立つクリスティナが俺の腕を両手でギュッと掴む。その手が小さく震えて、同じように小さく震える声でクリスティナが淡々と話し出した。
「樹国は森林が国土の七割を締める亜熱帯の国。主な産業は農業。果実の出荷が多いわ。近年は花卉にも力を入れていて……」
王子妃教育で他国の知識もあるクリスティナの声が掠れて消える。
俺がクリスティナの方を見ようとすると、それを遮るようにフローラが声を上げた。
「そう!見てくださいアレク様、その樹国のおかげで完成した青い薔薇を!」
フローラが床に広がるスカートの隠しポケットから取り出したのは──…
「ああ、茎が折れちゃってる!クリスティナ様のせいだわ!でも花は無事です!」
フローラの瞳のような空色の、一輪の薔薇だった。
「フローラ…アレクシスを好き…なのよね?」
クリスティナが問う。
「もちろんです。お義母様もお兄様も、私を政略結婚の駒にしようとするお父様さえも黙らせてくれる大切な存在ですから」
フローラがにっこりと笑った。
それはつまり、フローラが俺に近付いて来たのも、王子という身分も婚約者がいるという立場も気にしない振る舞いも───全て、計算だったという事。
俺はそれにまんまと引っ掛かった、間抜けな王子サマという事、か。
「なっ…」
クリスティナが絶句すると、フローラは意気揚々と話を続ける。
「アレク様、この後クリスティナ様へ婚約破棄を突き付けるつもりなんですよ!」
「は?」
確かに婚約解消を告げるなら卒業パーティーだとは思っていた。けど、フローラにそうすると明言した事はないが?
「いくらアレク様の記憶がないとはいえ、婚約破棄はクリスティナ様には辛いと思うんです。でもアレク様は私の恋人だから仕方ないと諦めてください。最後にアレク様にエスコートされるって思い出もできましたしね!」
「フローラ」
名前を呼んでもフローラは聞こえない素振りで話し続ける。
「でも、ここからの主役はクリスティナ様じゃなく私です。私がアレク様にプロポーズされるのを見ててください!」
「フローラ!」
「あれ?断罪とかってあるんだっけ?クリスティナ様もしかして退場?」
独り言のように呟くフローラ。
フローラが、全く知らない女性に見えた。
クリスティナの様子を窺うと、クリスティナは呆然としてフローラを見ている。
「でも本当に、私の存在を認めてくれたクリスティナ様は私にとって特別な人なので、できれば辛い思いをして欲しくなかったんです。そういう意味ではクリスティナ様の記憶喪失は不幸中の幸いでした!」
「フローラ!!」
パアンッ!
同じ音を図書室で聞いたような…
フローラが頬を押さえて床に尻餅をつき、そしてクリスティナの振り下ろした手が、ブルブルと震えているのが目に入る。
「痛ぁい!何するのよ!いくらクリスティナ様だってこんな公衆の面前での暴力なんて許されないわ!」
フローラが床に座ったままクリスティナを見上げた。手で押さえた頬がみるみる赤くなっていく。
「……」
クリスティナはふっふっと短い息をして、手を震わせて、怒りを湛えた表情でフローラを睨みつけていた。
「私は王子の恋人よ!青紫を纏う事を許された唯一の女よ!このドレスを見ればわかるでしょう!」
「…わからないよ」
俺が低い声で言うと、フローラが俺の方を見て、少し口角を上げる。
「アレク様ぁ、クリスティナ様が酷いんです」
眉を寄せて涙目で、クリスティナの取り巻きに嫌がらせをされたと俺に「報告」する時と同じ表情のフローラ。
今でもとてもかわいいと思う。…思ってしまう。
こうやって、俺に…いや「王子」に近付いたって事か。そして俺はそれに気付かずクリスティナを裏切ったのか。
俺は拳をグッと握った。
「フローラ、俺はフローラにそのドレスを贈ってなどいないだろ?その色のドレスを着る許可を出した覚えもないよ」
フローラは瞠目する。
「確かに『まだ婚約破棄してないから今はドレスを贈る事はできない』ってアレク様言ってました。だから私、このドレスをアレク様から贈られたなんて一言も言ってません。でもアレク様『いつか俺の色のドレスを着せたい』って言ったじゃないですか!だから作ったんですよ!この色の布をこれだけ使ってあるんで、すっごく高かったんですから!」
「そんなお金…どこから?」
王族の紫はこの国では特別な色。
その色の絹で仕立てたフローラの着ているドレスは見るからにとても高価だ。
到底フローラ個人で払える金額ではない。ではフローラの父ケネット男爵が?
例えば、「王子の恋人」というフローラの立場を盤石にするために……いや、どんな理由でもあの男爵がフローラのために大金を払うなんて考えられない。
「青い薔薇の研究を売りました」
……………な、に?
「樹国って、ずーっと南の方にある国、知ってますか?そこの方が『高く買う』って言うんで」
フローラの高い声が頭の中に反響した。
衝撃が強すぎて頭が真っ白で何も考えられない…
隣に立つクリスティナが俺の腕を両手でギュッと掴む。その手が小さく震えて、同じように小さく震える声でクリスティナが淡々と話し出した。
「樹国は森林が国土の七割を締める亜熱帯の国。主な産業は農業。果実の出荷が多いわ。近年は花卉にも力を入れていて……」
王子妃教育で他国の知識もあるクリスティナの声が掠れて消える。
俺がクリスティナの方を見ようとすると、それを遮るようにフローラが声を上げた。
「そう!見てくださいアレク様、その樹国のおかげで完成した青い薔薇を!」
フローラが床に広がるスカートの隠しポケットから取り出したのは──…
「ああ、茎が折れちゃってる!クリスティナ様のせいだわ!でも花は無事です!」
フローラの瞳のような空色の、一輪の薔薇だった。
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