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ふと髪を梳かれる感覚に開いた青い瞳に映る窓の外では、穏やかな景色が流れていく。
僅かに見動いた事を察し申し訳なさそうな顔をする男が視界に入った。
「申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」
「……いや」
広い車内には自分と、爬虫類のような瞳の男……紅月。紅月が苗字なのか名前なのかは知らないし、興味がない。
その紅月の肩に凭れてソル……いや、太陽は少しの間寝入っていたようだ。
日本語読みの名は紅月が付けた。魂の身である以上真名を使うのは少しの危険を伴うからである。最も彼ほどの実力があれば魂の状態であろうと問題はないのだけれど、その身が何より大切な紅月は納得しなかった。あまりにも意固地に改名を迫る彼の好きにさせたのにはもう1つ理由がある。“貴斗”はこの体の持ち主で、今の彼は“貴斗”ではないからだ。
ソルの名を“太陽”に変えた彼へ、そのまんまだな、と笑ったのが寝入る直前の記憶。
「……夢を見ていた」
遠い遠い、過去の夢を。
する、と撫でた肌にあの傷跡は当たり前ながら、ない。
「太陽様?」
「……」
貴斗にも覗かれただろう、過去。太陽からも貴斗の過去は見える。ただ1つ、太陽にはソラ……カエルムが最後まで守ってくれていたという記憶はない。それを見たのはソルの深層意識まで覗いた貴斗だけだ。
だから彼は自分を守ろうとした存在がいることを知らない。
(……親に捨てられて、言いたいことを押し込んで、独りぼっち)
似ているけれど非なる者。
(でも、お前は本当の絶望を知らない)
くす、と口から笑みが零れた。
この体の今の主導権は自分。コレをどうするかは自分次第。
(俺と同じとこまで堕としてやろうか)
この体の本来の魂は今は大人しく眠っている。きっと、自分を捨てた両親の幸せそうな姿を夢に見ながら。
「紅月、闇の一族はどれくらい日本に入り込んだ?」
「全てを掴みきれてはおりません」
「ハンターは?」
「取り逃がしたあの二人組の他に10名ほどです。状況に応じて増援の可能性があります」
「吸血鬼退治なら妥当な所か……。しかし、もっと来て貰わなければ困るな」
東方教会本部へ早々に乗り込むほど馬鹿ではない。捕まれば過去の繰り返し。奴らをこちらのテリトリーまで誘い出さなければならない。
紅月は心得たように頷いた。
「他のハンターにはすでに一族の者を向かわせております」
「話が早くて助かるよ」
無言で頭を下げる男の膝に乗り上げる。
「力を蓄えるついでに……褒美をやろう」
紅月は自分の唇をなぞる指に、恭しく口付けた。
あぁ、でも。と太陽は首を傾げる。
「流石にここでは可哀想だ」
きっと“ハジメテ”だろうしな、とくすくす笑う。
「行き先は、わかるな?」
運転席へと車内電話を繋いで出した紅月の指示に、太陽はイイコだ、と満足そうに笑った。
急だったにも関わらずあっさり取れた高級ホテルのスイートルームが紅月の表の権力の表れだ。
太陽はまるでそこにいるのが当たり前のように、豪華な椅子に足を組んで座っている。貴斗の体だというのに纏う空気が違う所為かその姿が様になっているけれど
「とりあえず、腹が空いた」
その体に相応しい子供のような主張に苦笑して、ルームサービスを頼むと窓から外を見下す。
赤いランプがそこかしこで回って、遠目に見えるのは炎。紅月が火を放った教会が燃え上がっているのだろう。
「いい眺めだな」
気付けば太陽が同じように外の炎を見つめている。
「貴方様の門出を祝うのに相応しい焔かと」
彼は何も答えずに毒花の如く艶やかに笑った。
僅かに見動いた事を察し申し訳なさそうな顔をする男が視界に入った。
「申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」
「……いや」
広い車内には自分と、爬虫類のような瞳の男……紅月。紅月が苗字なのか名前なのかは知らないし、興味がない。
その紅月の肩に凭れてソル……いや、太陽は少しの間寝入っていたようだ。
日本語読みの名は紅月が付けた。魂の身である以上真名を使うのは少しの危険を伴うからである。最も彼ほどの実力があれば魂の状態であろうと問題はないのだけれど、その身が何より大切な紅月は納得しなかった。あまりにも意固地に改名を迫る彼の好きにさせたのにはもう1つ理由がある。“貴斗”はこの体の持ち主で、今の彼は“貴斗”ではないからだ。
ソルの名を“太陽”に変えた彼へ、そのまんまだな、と笑ったのが寝入る直前の記憶。
「……夢を見ていた」
遠い遠い、過去の夢を。
する、と撫でた肌にあの傷跡は当たり前ながら、ない。
「太陽様?」
「……」
貴斗にも覗かれただろう、過去。太陽からも貴斗の過去は見える。ただ1つ、太陽にはソラ……カエルムが最後まで守ってくれていたという記憶はない。それを見たのはソルの深層意識まで覗いた貴斗だけだ。
だから彼は自分を守ろうとした存在がいることを知らない。
(……親に捨てられて、言いたいことを押し込んで、独りぼっち)
似ているけれど非なる者。
(でも、お前は本当の絶望を知らない)
くす、と口から笑みが零れた。
この体の今の主導権は自分。コレをどうするかは自分次第。
(俺と同じとこまで堕としてやろうか)
この体の本来の魂は今は大人しく眠っている。きっと、自分を捨てた両親の幸せそうな姿を夢に見ながら。
「紅月、闇の一族はどれくらい日本に入り込んだ?」
「全てを掴みきれてはおりません」
「ハンターは?」
「取り逃がしたあの二人組の他に10名ほどです。状況に応じて増援の可能性があります」
「吸血鬼退治なら妥当な所か……。しかし、もっと来て貰わなければ困るな」
東方教会本部へ早々に乗り込むほど馬鹿ではない。捕まれば過去の繰り返し。奴らをこちらのテリトリーまで誘い出さなければならない。
紅月は心得たように頷いた。
「他のハンターにはすでに一族の者を向かわせております」
「話が早くて助かるよ」
無言で頭を下げる男の膝に乗り上げる。
「力を蓄えるついでに……褒美をやろう」
紅月は自分の唇をなぞる指に、恭しく口付けた。
あぁ、でも。と太陽は首を傾げる。
「流石にここでは可哀想だ」
きっと“ハジメテ”だろうしな、とくすくす笑う。
「行き先は、わかるな?」
運転席へと車内電話を繋いで出した紅月の指示に、太陽はイイコだ、と満足そうに笑った。
急だったにも関わらずあっさり取れた高級ホテルのスイートルームが紅月の表の権力の表れだ。
太陽はまるでそこにいるのが当たり前のように、豪華な椅子に足を組んで座っている。貴斗の体だというのに纏う空気が違う所為かその姿が様になっているけれど
「とりあえず、腹が空いた」
その体に相応しい子供のような主張に苦笑して、ルームサービスを頼むと窓から外を見下す。
赤いランプがそこかしこで回って、遠目に見えるのは炎。紅月が火を放った教会が燃え上がっているのだろう。
「いい眺めだな」
気付けば太陽が同じように外の炎を見つめている。
「貴方様の門出を祝うのに相応しい焔かと」
彼は何も答えずに毒花の如く艶やかに笑った。
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