19 / 27
18
しおりを挟む
紅月について何かしら情報がないかと神父を訪ねに華生が辿り着いた時、教会はもう手遅れだった。外で茫然自失の神父は自宅から駆けつけたのだろう。風呂上がりのおっさんそのものだったが怪我はないようだ。ここに人は住んでいなかったから死人は出ていない。
しかしこれは暁の一族の宣戦布告なのだと受け止める。
「春海さん……」
「……本当に早いとこ止めてやらないと手遅れになりそうだね」
ソルは本気だ。
貴斗は決して心の弱い子ではないが、数百年もの憎悪を簡単に受け止められるかはわからない。体どころか精神まで完全に侵食されたら抗う術はなくなってしまう。
あの時の自分達のツケを、何の関係もない貴斗には負わせられない。
「闇の一族は放っといても勝手に集まってくるんだ。だから、きっと奴等はまずハンターを狙ってくる。連絡が途絶えるかどうかすれば増援が来るんだよね」
「はい」
教皇庁に全てを話せば何らかの手は打つだろう。だが“神子”の存在を知られる訳にはいかない。
だから教皇庁は勿論、他のハンターには何者かに狙われている事実以外余計な事を言うな、と釘を指した変わり種のハンターは、えらくあっさりと頷いた。
相方は不服そうではあったものの異を唱えるつもりはないらしい。本来なら信じるべきではない相手だが、何故か晴海はこの二人は……特に華生は裏切らないだろうと思っている。――そう思わせる何かがあった。
「直接教会本部に乗り込むような頭の悪い子には思えない。今まで貴斗が狙われなかったのも、急に居場所がバレたのも全部あの子の計算なんだろうし」
「……でも、何故それが“今”なんでしょう?」
「……神子の力は、他人の精気から得られる。力を蓄えるのに一番手っ取り早いのは性行為だ。魔の物からの精気は逆効果だがね」
そして男は精通、女は初潮が来たとき初めて精気を蓄える事が出来るようになる。
「それに精通があっても、闇の一族に対抗するにはある程度の年齢が必要だったんだろう」
憶測だがね、と頭を振った。
過去の一族は、精通、初潮と同時に力を蓄えさせ神子の力を解放させていたのだ。だから神子として産まれた者はそれまでに、身体を開いてもいいと思える伴侶を見つけることが義務付けられていた。――しかしそれは周りに信頼する仲間達がいたからこそ。
貴斗は一族とは関わりなく生きてきたし、この現代で精通と同時に、など心身共に幼すぎてそのままでは無理だと判断したのではないか。
「でも多分、機が熟して動き出したのに暁の一族が保護する前にソラが保護してしまったんだ」
「強引に奪えば良かったんじゃ……」
あの迷いのない襲撃を見る限り、そのくらいのことはやって退けそうなのに。
「そこは何を考えたかわからないけどね。……ただこれも憶測に過ぎないけど、あの時、わざわざソラを待って乗っ取ったのを見れば……そうしないと乗っ取れなかったんじゃないかと思う」
神子の力はソルしか操れない。間接的に力を使えても、体の主導権は奪えなかった。だからソラが撃たれた、というショックで開いた隙間を抉じ開けて奪い取ったのではないか。あそこで奪えなかったらきっと他の手も打っていたのではないかと思う。
そして奪い取った今、貴斗の意思を消す為に何をするかわからない。とてもではないが話を聞ける状態ではない神父は消防士に任せて晴海は踵を返した。
「とりあえず一度戻ろう」
「はい」
今は出来るだけ被害を食い止めるのが先だ。
※ ※ ※ ※
「何であんたとちゃぶ台囲まなきゃなんねーの」
「それは俺の台詞だ。つーかてめぇ命の恩人に対する口の聞き方がなってねぇんじゃねぇか?」
「頼んでないしー。勝手に担いだのそっちだしー」
銀の弾丸でまだ弱っているソラと、華生を庇って大怪我を負った諒真が向かい合って憮然とお茶を啜る様を見て春樹はため息をついた。諒真に封じられた記憶は華生によって解放され、ある程度の事情は母から伝えられている。
「いい加減にしてくんねぇですか。空気悪いんすけど」
「じゃあこの人どっかやってよ」
「お前こそどっか行け」
ギロリと睨み合ういい年をした――片や400歳超えである――大人に春樹はもう一度大きくため息をついた。
「どうでもいいけど、さっきみたいな殴り合いはやめてくださいよ」
起きるなりソラのいる部屋に飛び込んで、華生の不在を勘違いした諒真が吹っ掛けてあわや大惨事になりかけた。
「えー、だからこの人居なかったら平和じゃん」
「吸血鬼が人並みに平和とか語んじゃねぇよ」
「っせぇな、そっちこそハンターが平和とか語んなよ」
「語ってねぇし」
子供の喧嘩か!!と、突っ込みたいけど殴り合いよりマシだ。
「それより!貴斗!どーしてくれるんすか!あんた達が誘拐なんてするからこんな事になったんだろ!」
春樹は全貌を知らない。ただ新たな勢力にまた誘拐されたとだけ伝えてある。二人は色んな意味で罰が悪そうに口を噤んだ。
「……あいつらの情報が少なすぎんだよ。お前何か知ってんだろ」
「……俺だって詳しいことは殆ど知らないよ。ただ、……」
春樹の耳がある。これ以上は話せない。
「……ただ、このままだと相当……良くない」
しかしこれは暁の一族の宣戦布告なのだと受け止める。
「春海さん……」
「……本当に早いとこ止めてやらないと手遅れになりそうだね」
ソルは本気だ。
貴斗は決して心の弱い子ではないが、数百年もの憎悪を簡単に受け止められるかはわからない。体どころか精神まで完全に侵食されたら抗う術はなくなってしまう。
あの時の自分達のツケを、何の関係もない貴斗には負わせられない。
「闇の一族は放っといても勝手に集まってくるんだ。だから、きっと奴等はまずハンターを狙ってくる。連絡が途絶えるかどうかすれば増援が来るんだよね」
「はい」
教皇庁に全てを話せば何らかの手は打つだろう。だが“神子”の存在を知られる訳にはいかない。
だから教皇庁は勿論、他のハンターには何者かに狙われている事実以外余計な事を言うな、と釘を指した変わり種のハンターは、えらくあっさりと頷いた。
相方は不服そうではあったものの異を唱えるつもりはないらしい。本来なら信じるべきではない相手だが、何故か晴海はこの二人は……特に華生は裏切らないだろうと思っている。――そう思わせる何かがあった。
「直接教会本部に乗り込むような頭の悪い子には思えない。今まで貴斗が狙われなかったのも、急に居場所がバレたのも全部あの子の計算なんだろうし」
「……でも、何故それが“今”なんでしょう?」
「……神子の力は、他人の精気から得られる。力を蓄えるのに一番手っ取り早いのは性行為だ。魔の物からの精気は逆効果だがね」
そして男は精通、女は初潮が来たとき初めて精気を蓄える事が出来るようになる。
「それに精通があっても、闇の一族に対抗するにはある程度の年齢が必要だったんだろう」
憶測だがね、と頭を振った。
過去の一族は、精通、初潮と同時に力を蓄えさせ神子の力を解放させていたのだ。だから神子として産まれた者はそれまでに、身体を開いてもいいと思える伴侶を見つけることが義務付けられていた。――しかしそれは周りに信頼する仲間達がいたからこそ。
貴斗は一族とは関わりなく生きてきたし、この現代で精通と同時に、など心身共に幼すぎてそのままでは無理だと判断したのではないか。
「でも多分、機が熟して動き出したのに暁の一族が保護する前にソラが保護してしまったんだ」
「強引に奪えば良かったんじゃ……」
あの迷いのない襲撃を見る限り、そのくらいのことはやって退けそうなのに。
「そこは何を考えたかわからないけどね。……ただこれも憶測に過ぎないけど、あの時、わざわざソラを待って乗っ取ったのを見れば……そうしないと乗っ取れなかったんじゃないかと思う」
神子の力はソルしか操れない。間接的に力を使えても、体の主導権は奪えなかった。だからソラが撃たれた、というショックで開いた隙間を抉じ開けて奪い取ったのではないか。あそこで奪えなかったらきっと他の手も打っていたのではないかと思う。
そして奪い取った今、貴斗の意思を消す為に何をするかわからない。とてもではないが話を聞ける状態ではない神父は消防士に任せて晴海は踵を返した。
「とりあえず一度戻ろう」
「はい」
今は出来るだけ被害を食い止めるのが先だ。
※ ※ ※ ※
「何であんたとちゃぶ台囲まなきゃなんねーの」
「それは俺の台詞だ。つーかてめぇ命の恩人に対する口の聞き方がなってねぇんじゃねぇか?」
「頼んでないしー。勝手に担いだのそっちだしー」
銀の弾丸でまだ弱っているソラと、華生を庇って大怪我を負った諒真が向かい合って憮然とお茶を啜る様を見て春樹はため息をついた。諒真に封じられた記憶は華生によって解放され、ある程度の事情は母から伝えられている。
「いい加減にしてくんねぇですか。空気悪いんすけど」
「じゃあこの人どっかやってよ」
「お前こそどっか行け」
ギロリと睨み合ういい年をした――片や400歳超えである――大人に春樹はもう一度大きくため息をついた。
「どうでもいいけど、さっきみたいな殴り合いはやめてくださいよ」
起きるなりソラのいる部屋に飛び込んで、華生の不在を勘違いした諒真が吹っ掛けてあわや大惨事になりかけた。
「えー、だからこの人居なかったら平和じゃん」
「吸血鬼が人並みに平和とか語んじゃねぇよ」
「っせぇな、そっちこそハンターが平和とか語んなよ」
「語ってねぇし」
子供の喧嘩か!!と、突っ込みたいけど殴り合いよりマシだ。
「それより!貴斗!どーしてくれるんすか!あんた達が誘拐なんてするからこんな事になったんだろ!」
春樹は全貌を知らない。ただ新たな勢力にまた誘拐されたとだけ伝えてある。二人は色んな意味で罰が悪そうに口を噤んだ。
「……あいつらの情報が少なすぎんだよ。お前何か知ってんだろ」
「……俺だって詳しいことは殆ど知らないよ。ただ、……」
春樹の耳がある。これ以上は話せない。
「……ただ、このままだと相当……良くない」
3
あなたにおすすめの小説
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
悪役未満な俺の執事は完全無欠な冷徹龍神騎士団長
赤飯茸
BL
人間の少年は生まれ変わり、独りぼっちの地獄の中で包み込んでくれたのは美しい騎士団長だった。
乙女ゲームの世界に転生して、人気攻略キャラクターの騎士団長はプライベートでは少年の執事をしている。
冷徹キャラは愛しい主人の前では人生を捧げて尽くして守り抜く。
それが、あの日の約束。
キスで目覚めて、執事の報酬はご主人様自身。
ゲームで知っていた彼はゲームで知らない一面ばかりを見せる。
時々情緒不安定になり、重めの愛が溢れた変態で、最強龍神騎士様と人間少年の溺愛執着寵愛物語。
執事で騎士団長の龍神王×孤独な人間転生者
箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜
真木もぐ
BL
「他人に触られるのも、そばに寄られるのも嫌だ。……怖い」
現代ヨーロッパの小国。王子として生まれながら、接触恐怖症のため身分を隠して生活するエリオットの元へ、王宮から侍従がやって来る。ロイヤルウェディングを控えた兄から、特別な役割で式に出て欲しいとの誘いだった。
無理だと断り、招待状を運んできた侍従を追い返すのだが、この侍従、己の出世にはエリオットが必要だと言って譲らない。
しかし散らかり放題の部屋を見た侍従が、説得より先に掃除を始めたことから、二人の関係は思わぬ方向へ転がり始める。
おいおい、ロイヤルウエディングどこ行った?
世話焼き侍従×ワケあり王子の恋物語。
※は性描写のほか、注意が必要な表現を含みます。
この小説は、投稿サイト「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」「カクヨム」で掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる