Bloody Monster

ナナメ

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 紅月について何かしら情報がないかと神父を訪ねに華生が辿り着いた時、教会はもう手遅れだった。外で茫然自失の神父は自宅から駆けつけたのだろう。風呂上がりのおっさんそのものだったが怪我はないようだ。ここに人は住んでいなかったから死人は出ていない。
 しかしこれは暁の一族の宣戦布告なのだと受け止める。
 
「春海さん……」
 
「……本当に早いとこ止めてやらないと手遅れになりそうだね」
 
 ソルは本気だ。
 貴斗は決して心の弱い子ではないが、数百年もの憎悪を簡単に受け止められるかはわからない。体どころか精神まで完全に侵食されたら抗う術はなくなってしまう。
 あの時の自分達のツケを、何の関係もない貴斗には負わせられない。
 
「闇の一族は放っといても勝手に集まってくるんだ。だから、きっと奴等はまずハンターを狙ってくる。連絡が途絶えるかどうかすれば増援が来るんだよね」
 
「はい」
 
 教皇庁に全てを話せば何らかの手は打つだろう。だが“神子”の存在を知られる訳にはいかない。
 だから教皇庁は勿論、他のハンターには何者かに狙われている事実以外余計な事を言うな、と釘を指した変わり種のハンターは、えらくあっさりと頷いた。
 相方は不服そうではあったものの異を唱えるつもりはないらしい。本来なら信じるべきではない相手だが、何故か晴海はこの二人は……特に華生は裏切らないだろうと思っている。――そう思わせる何かがあった。
 
「直接教会本部に乗り込むような頭の悪い子には思えない。今まで貴斗が狙われなかったのも、急に居場所がバレたのも全部あの子の計算なんだろうし」
 
「……でも、何故それが“今”なんでしょう?」
 
「……神子の力は、他人の精気から得られる。力を蓄えるのに一番手っ取り早いのは性行為だ。魔の物からの精気は逆効果だがね」
 
 そして男は精通、女は初潮が来たとき初めて精気を蓄える事が出来るようになる。
 
「それに精通があっても、闇の一族に対抗するにはある程度の年齢が必要だったんだろう」
 
 憶測だがね、と頭を振った。
 過去の一族は、精通、初潮と同時に力を蓄えさせ神子の力を解放させていたのだ。だから神子として産まれた者はそれまでに、身体を開いてもいいと思える伴侶を見つけることが義務付けられていた。――しかしそれは周りに信頼する仲間達がいたからこそ。
 貴斗は一族とは関わりなく生きてきたし、この現代で精通と同時に、など心身共に幼すぎてそのままでは無理だと判断したのではないか。
 
「でも多分、機が熟して動き出したのに暁の一族が保護する前にソラが保護してしまったんだ」
 
「強引に奪えば良かったんじゃ……」
 
 あの迷いのない襲撃を見る限り、そのくらいのことはやって退けそうなのに。
 
「そこは何を考えたかわからないけどね。……ただこれも憶測に過ぎないけど、あの時、わざわざソラを待って乗っ取ったのを見れば……そうしないと乗っ取れなかったんじゃないかと思う」
 
 神子の力はソルしか操れない。間接的に力を使えても、体の主導権は奪えなかった。だからソラが撃たれた、というショックで開いた隙間を抉じ開けて奪い取ったのではないか。あそこで奪えなかったらきっと他の手も打っていたのではないかと思う。
 そして奪い取った今、貴斗の意思を消す為に何をするかわからない。とてもではないが話を聞ける状態ではない神父は消防士に任せて晴海は踵を返した。
 
「とりあえず一度戻ろう」
 
「はい」
 
 今は出来るだけ被害を食い止めるのが先だ。

 ※ ※ ※ ※

「何であんたとちゃぶ台囲まなきゃなんねーの」
 
「それは俺の台詞だ。つーかてめぇ命の恩人に対する口の聞き方がなってねぇんじゃねぇか?」
 
「頼んでないしー。勝手に担いだのそっちだしー」
 
 銀の弾丸でまだ弱っているソラと、華生を庇って大怪我を負った諒真が向かい合って憮然とお茶を啜る様を見て春樹はため息をついた。諒真に封じられた記憶は華生によって解放され、ある程度の事情は母から伝えられている。
 
「いい加減にしてくんねぇですか。空気悪いんすけど」
 
「じゃあこの人どっかやってよ」
 
「お前こそどっか行け」
 
 ギロリと睨み合ういい年をした――片や400歳超えである――大人に春樹はもう一度大きくため息をついた。
 
「どうでもいいけど、さっきみたいな殴り合いはやめてくださいよ」
 
 起きるなりソラのいる部屋に飛び込んで、華生の不在を勘違いした諒真が吹っ掛けてあわや大惨事になりかけた。
 
「えー、だからこの人居なかったら平和じゃん」
 
「吸血鬼が人並みに平和とか語んじゃねぇよ」
 
「っせぇな、そっちこそハンターが平和とか語んなよ」
 
「語ってねぇし」
 
 子供の喧嘩か!!と、突っ込みたいけど殴り合いよりマシだ。
 
「それより!貴斗!どーしてくれるんすか!あんた達が誘拐なんてするからこんな事になったんだろ!」
 
 春樹は全貌を知らない。ただ新たな勢力にまた誘拐されたとだけ伝えてある。二人は色んな意味で罰が悪そうに口を噤んだ。

「……あいつらの情報が少なすぎんだよ。お前何か知ってんだろ」
 
「……俺だって詳しいことは殆ど知らないよ。ただ、……」
 
 春樹の耳がある。これ以上は話せない。
 
「……ただ、このままだと相当……良くない」


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