Bloody Monster

ナナメ

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 はっ、はっ、と間隔の短い息遣いが聞こえてきて紅月はそちらへ視線を向けた。
 
「ぁ……、ん……っ」
 
 荒い息に交ざる鼻にかかった甘い声。そろそろ薬が回ってきたのだろう。身体に赤みがさし、苦しそうに喘ぐ。それでも紅月は敢えてベッドの近くの椅子に腰かけて動かない。
 
「や、ぁ……何、これ……!やだ……っ」
 
 ベッドの貴斗が身悶え頭を振る。口から飲ませた物も、後孔に塗り込めた物も持続性は低いがそれなりに強い媚薬。これを耐えるのは拷問に近い。
 
「どうした?」
 
 わかっていてわざとらしくそう声をかければ、人がいたことを思い出したのかびくり、と身体を跳ねさせた。何もしていないのに天を仰ぐものを隠そうとして動かした足は媚薬に侵されて力が入らないのか閉じられない。
 
「はぁ、……ぁ、う……苦し……っ痒、いっ」
 
 疼く後孔は無理でもせめて下肢に集う熱を解放しようとするが拘束された手は解けなくて、貴斗は虚ろになり始めた瞳からぼろぼろと涙を溢す。
 
「あ、ぁ、ぁ……っ」
 
「……どうしてほしいか言ってみろ」
 
「……っ、ん……ゃあ」
 
 貴斗は泣きながらそれでもハッキリと首を振って拒絶する。紅月はこの状態でまだ理性を保っている事に少なからず感心した。身体を捩らせて拘束を解こうとしている彼の、晒された内腿を戯れにスルリと撫でる。
 
「あぁッ!ん……っ」
 
 それだけでも強い快感になるのか、口からは甘い悲鳴が零れた。
 
「もう我慢できないだろう?」
 
「ひ、あー!!」
 
 蜜を溢し続けるそこに指を滑らせ、軽く上下に動かしただけで白濁が散って紅月の手を汚す。
 
「ぁ、ぅ……」
 
 手のそれを舐めとりながら、はふはふと懸命に息をする子供を覗き込んでくすりと笑った。
 快楽に負けてとろりとした瞳、上気した頬、開いたままの唇からチロチロと覗く赤い舌。
 
「これなら誰もが満足する」
 
 行為を嫌がる太陽に代わってそれを受けるだけの人形に育て上げるのは紅月の役目だと言われていたが、本人の資質なのかまだ何の躾も行っていないというのに男の本能を煽る淫靡さである。後は誰にでも足を開けるように素直さだけ躾なければ。
 スーツの上を脱ぎ、ネクタイを投げると貴斗の上に覆い被さりその開いたままの唇に舌を侵入させた。
 
「ンン、ふ、ぁ……っ」
 
 完全に理性を失くしたか大人しく舌を受け入れ、嬲られるまま。少しでも快楽を得ようと紅月の腹に押し付けた腰が揺れている。しかし敢えてそこへはもう触れず、ローションのボトルを手にとると奥の窄まりへと挿し込んだ。
 
「ぷは、アッ、ぁあっ」
 
 ボトルを押して中身を注いだだけでも跳ねる身体は、今理性を取り戻したとしてももはや思う通りには動かないだろう。

「痒いんだったな」
 
 ローションにまみれたソコへ指を一本突き入れた。
 
「ひゃぅ!!」
 
 薬のせいかそこは熱く、指に絡みつくような動きを見せている。
 
「だ、め……っやぁ、痒いぃ……っ」
 
 クチクチと濡れた音をさせ、様子を見て二本目を入れると耐えきれないと言うように暴れ出した。拘束された手足が擦り切れて血が滲む。
 
「んやぁぁーッ!!」
 
 三本目が入ると同時にまた身体が大きくしなった。はー、はー、と荒い息遣いを繰り返す唇から飲み込めなかった唾液が流れ落ちる。
 
「あ、んん……ッ!!……いや……かゆ、い、痒いよぉ……!!」
 
「掻いてやってるだろう」
 
「あ、違うぅ……そこ、じゃな……っ、く、ぅん……っ」
 
 甘える子犬のような声を上げて、体内の指をキュゥ、と締め付けた。
 
「なら言ってみろ。挿れて下さい、と」
 
「い、れ……?」
 
 挿れて下さいだと繰り返すと、切迫つまってなおとろりとした瞳が紅月を見つめ、流されるままに言葉を口にする。
 
「挿れて、くだ、さい……っ」
 
 グチュリと音を立てて指を抜かれた後孔が物足りなさそうに収縮を繰り返す。初めてにしては順応の早い身体に満足して、その身体に己の欲望を埋め込んだ。
 
「あーッ!!い……っ、ぁんっ!あ、熱いよぉ……!やぁぁ!!」
 
 痛みがあったか僅かに強ばったものの、すぐ弛緩した手足の拘束を解いて揺らめいていた腰を掴む。
 
「入ったが、次はどうして欲しいか言ってみろ」
 
「あ、ぁ、お、く……」
 
「奥が何だ」
 
 朦朧とした意識の中でも先程言わされた言葉を応用するだけの事が出来たのか紅月が言葉を吹き込む前に子供は荒い呼気を漏らし続ける唇を開いた。
 
「奥、擦って……くださ……っヒィあぁーッ!!」
 
 言い終える前に腰を動かせば悲鳴に近い嬌声が響き、無意識なのか紅月の首に腕を回し必死で縋りつく彼の耳元でひっそりと囁く。
 
「そうだ、お前はそうやって素直に足を開けばいいんだ。――お前の役割は、それだけなのだから」

 ※ ※ ※ ※

 朝の光が射し込んで、彼はその青い瞳を覗かせた。心地よいとはとても言い難い倦怠感が全身を苛んでいる事に満足してカラカラに渇いた喉に手を当て、くすりと笑う。
 
(出てくる気配もない、か)
 
 同じ体を共有する本来の魂は何処か奥の方へ引っ込んでしまったらしい。引き摺り出すことは出来るけれど、それは今じゃない。
 
「お目覚めですか、太陽様」
 
「楽しめたか、紅月」
 
 泣き叫んだのか、鳴き続けたのか。すっかり嗄れた声に太陽はまた暗く笑った。
 
「存分に傷は残せた筈ですが」
 
「その様だな。奥に逃げて、出てこない」
 
 情事の跡など残らない綺麗なシーツに手をついて身を起こす。まだ何も身に付けていない素肌の背を支えた紅月が緩く顔をしかめた。
 
「……貴方の身体に痕が付くのはやはり……」
 
 言われて視線を落とせば手首には縄によって赤く擦れた痕があった。血が滲んだそこはすでにかさぶたになってはいたが、暫くは残るだろう。
 
「少しの間だけだ。気にするな。後何回かやれば主導権を奪い返される事もなくなる」
 
「……慣れてしまう恐れはありませんか」
 
 彼は確かに薬に引き摺られて矯声を上げたけれど、一番最後意識を失う直前に見せたのは怒りに燃える琥珀の瞳。確かな自我だった。
 相当のショックで傷付いて奥に逃げてしまったとしても、この先それに慣れられて太陽がわざと入れ換わった隙に主導権を奪い返されては困る。
 本来の魂の方が当然肉体との結び付きは強い。一度取り戻されればそれを再び引っくり返すのは難しい。
 
「もう五日、今回と同じようにして拓かせろ。たっぷりと薬を使ってな。六日目に、」
 
 太陽が慈愛、とも呼べる笑みを浮かべた。
 
「うんと優しくしてやれ」
 
 何も使わずに、と笑う。
 その頃には身体は行為に慣れ始めている筈。薬を使われてるから仕方ない、これは自分の意思じゃない。――その最後の砦を、粉々に。
 
「それでも自我を保てるなら仕方ない。本来やりたくはないが……1つだけ策はある」
 
「それは……」
 
「その時まで、秘密だ」
 
 いたずらっ子のように言う彼に、紅月は苦笑してその素肌を隠すように服を羽織らせると水を差し出した。それを受け取りながらひっそりと笑う。
 
(お前はどこまで耐えられるかな)
 
 過去受けた屈辱をそのまま。
 意識を閉ざす、という逃げ場があるこの状態で最後まで自我を保っていられるなら大した物だ。
 
「どちらにせよ、力を使うのに精気が足りないしな。アイツには思う存分鳴いてもらわないと」
 
 窓に向けて手の平をかざす。
 視界に映る腕は記憶に有るものとは少し違うけれど、あの頃もこうして届かない窓の向こうに助けを求めて手をかざしていた。
 ――助けは、来なかったけれど。
 
(お前だけ綺麗な場所にいるなんて許さない)
 
 生まれた時代が違う、ただそれだけで。

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