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21 微※
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彼に出会ったのは、中学に上がった時だった。父の持っていた石は先祖代々伝わってきたもの。その中に、彼はいた。
このスイートルームに部屋を取って2回目の夜、紅月は男を一人呼んだ。あの日ハンターに傷を負わせた男である。そういえば、彼にも褒美が必要かな?と、無邪気に笑ったのは太陽だ。
「ぃ、ん、アァ……ッ!!ひぁぁっ!」
薬で意識が朦朧としているらしい貴斗は突かれる度に甘く鳴く。紅月は男が膝に抱えた“彼”をやや乱暴に揺さぶるのを少し離れたところから眺めていた。本来の魂に興味はないが“太陽の”身体を貪られる様を見るのは面白くない。
(嫉妬か。俺らしくもない)
ふ、と笑みが洩れる。
暁の一族にとって彼は特別だった。彼はあの襲撃を逃れた一族の長の元へ突然魂の姿で現れて、知識を授けた。――いつか復讐する為の知識を。
教会に見つからないように隠れ住み、闇の一族に見つからないようにかつての象徴だった神子を遠ざけさせて。そうして何人もの神子を犠牲に彼らはひっそりと生き抜いたのである。
「そこ、ゃだ……ぁっ!あぁーッ!!」
何度目かの絶頂をその身に受け、彼もまた果てたようだ。グッタリと力の抜けた身体が傾ぐのを慌てて男が受けとめる。
「ここまでだな。もう下がっていいぞ」
「はい」
情事中の乱暴さは欠片もない冷静な声で応えた男の腕から気を失ったその体を受け取って抱き上げると、彼は少し寛げただけの服装を整えながら言った。
「そう言えば、他の者が言っていたのですが“器”の元にいた吸血鬼がこの辺りを探っているようです」
「あの時の男か……」
仕留めたと思ったのに。
「神子様と紅月様に何かできるとは思いませんが一応ご報告を、と」
「ご苦労だった」
頭を下げて男が去った後、紅月は浴室へ向かう。日中は太陽がこの身体を使っているのだ。不快な思いをさせるわけにいかない。
※ ※ ※ ※
「くそ、ダメか……」
赤眼が鳶色に戻ると同時に、冷や汗を拭って大きく息を吐く。酷い頭痛で眼がかすみ、側の壁に背を付いてそのままズルズルと重力に従い下がる身体を止められず座り込む。
撹乱目的か大規模に仕掛けられた魔除けはもはや結界に近く、その向こうに感じる微かな気配を頼りにここまで来たものの。
「……っ」
一際大きな頭痛の波に顔をしかめた。魔除け自体が効かないとはいえ、長時間は流石に負担が大きい。
(近くにいるはずなのに……)
もう一度、と既に限界を訴えてチカチカする視界を頭の一振りで戻し立ち上がるソラを、闇から見つめる者がいた。
※ ※ ※ ※
そして、3回目の夜の事である。紅月は少々納得のいかない顔を太陽へと向けていた。
薄くてサイズの大きなシャツ一枚を羽織っただけの太陽が艶然と微笑んでいる、その足元に。
「そうがっつくな、黒鉄」
ずんぐりとした大きさの黒い体毛が全身を覆う、それは。
「……やはり、ワーウルフと交わるなど……納得ができません」
華生とは違う、教会に追われるワーウルフ。
黒く艶やかな毛並みを持つ彼を拾ったのは随分昔だと言う。それこそ紅月が生まれる前の話だ。黒鉄、と呼ばれた彼はその狼のような顔を曝し、体毛に覆われた手で太陽の足首をそっと握っている。力加減を間違えると折ってしまうから、とても慎重に。しかしそれを忘れてしまいそうになるくらい一心不乱に太陽の足に舌を這わせていた。そこはわざと塗り付けたクリームで汚れている。
「別に俺が交わるわけじゃない。それともあいつの心配か?」
「貴方の身体が穢れるのを心配しているんです」
紅月は、同居人である吸血鬼がここを嗅ぎ付けているかもしれない、と報告した事を後悔した。それを聞いて、あまり悠長にはしていられないな、と呟いた太陽は夜になってこのワーウルフを呼んだのだ。
「一度きりだ。これで全てが終わると思えば安いものだろう」
それに、と彼は菩薩のように微笑んだ。
(俺だって獣姦されたことはないからな)
どんな絶望が彼を襲うのか、楽しみで仕方がない。
「ソル……。……!!……マタ……間、違エタ。たいよう、全部ナメタ。ご、褒美……まだカ?」
黒鉄は新しい名に馴染まないのか、何度訂正しても真名を呼ぶ。その度に、ハッと音がしそうなくらい身体全体で反応する様が少し面白いと、太陽も敢えて放置している。
「まだ残ってる」
「ア、ほんと、ダ」
足の指の間を湿った舌でれろれろと舐められ、ぞくりと擽ったさとは違う何かで肌が粟立った。
「ん、……」
微かに上擦った声が洩れて、たった2日で随分敏感になったもんだなと笑う。元々の素質だろうか。
「太陽様……」
複雑そうな紅月を見上げ、彼が望んでいる言葉を選んだ。
「あいつの魂を壊したら、後はお前だけにするよ」
指先で招かれて、舐めろとクリームを塗り付けた唇に紅月は犬扱いですか?と囁いて口付けた。
「ズルい、ぞ。こうげつ」
「お前は今からもっとイイ思いをするだろう?」
「そう、なのカ?」
「ベッドまで運べ」
目の前の男に腕を伸ばす。紅月はひどく渋々といった顔のままその細身の身体を抱き上げ、柔らかなベッドへ降ろした。
「黒鉄、お前の好きにしていい」
「ン?……すき、に?」
頭に?マークを沢山浮かべるワーウルフの足の付け根に手の平を這わせる。
「そう、ここで……お前の好きにしろ」
「イイ、のカ?」
「但しこの身体を傷付けるなよ。俺のだからな」
「わ、ワカッた!」
本能に従い段々息の荒くなる狼面が近くなって、太陽は身体を横たえた。
(精々いい声で鳴くんだな)
このスイートルームに部屋を取って2回目の夜、紅月は男を一人呼んだ。あの日ハンターに傷を負わせた男である。そういえば、彼にも褒美が必要かな?と、無邪気に笑ったのは太陽だ。
「ぃ、ん、アァ……ッ!!ひぁぁっ!」
薬で意識が朦朧としているらしい貴斗は突かれる度に甘く鳴く。紅月は男が膝に抱えた“彼”をやや乱暴に揺さぶるのを少し離れたところから眺めていた。本来の魂に興味はないが“太陽の”身体を貪られる様を見るのは面白くない。
(嫉妬か。俺らしくもない)
ふ、と笑みが洩れる。
暁の一族にとって彼は特別だった。彼はあの襲撃を逃れた一族の長の元へ突然魂の姿で現れて、知識を授けた。――いつか復讐する為の知識を。
教会に見つからないように隠れ住み、闇の一族に見つからないようにかつての象徴だった神子を遠ざけさせて。そうして何人もの神子を犠牲に彼らはひっそりと生き抜いたのである。
「そこ、ゃだ……ぁっ!あぁーッ!!」
何度目かの絶頂をその身に受け、彼もまた果てたようだ。グッタリと力の抜けた身体が傾ぐのを慌てて男が受けとめる。
「ここまでだな。もう下がっていいぞ」
「はい」
情事中の乱暴さは欠片もない冷静な声で応えた男の腕から気を失ったその体を受け取って抱き上げると、彼は少し寛げただけの服装を整えながら言った。
「そう言えば、他の者が言っていたのですが“器”の元にいた吸血鬼がこの辺りを探っているようです」
「あの時の男か……」
仕留めたと思ったのに。
「神子様と紅月様に何かできるとは思いませんが一応ご報告を、と」
「ご苦労だった」
頭を下げて男が去った後、紅月は浴室へ向かう。日中は太陽がこの身体を使っているのだ。不快な思いをさせるわけにいかない。
※ ※ ※ ※
「くそ、ダメか……」
赤眼が鳶色に戻ると同時に、冷や汗を拭って大きく息を吐く。酷い頭痛で眼がかすみ、側の壁に背を付いてそのままズルズルと重力に従い下がる身体を止められず座り込む。
撹乱目的か大規模に仕掛けられた魔除けはもはや結界に近く、その向こうに感じる微かな気配を頼りにここまで来たものの。
「……っ」
一際大きな頭痛の波に顔をしかめた。魔除け自体が効かないとはいえ、長時間は流石に負担が大きい。
(近くにいるはずなのに……)
もう一度、と既に限界を訴えてチカチカする視界を頭の一振りで戻し立ち上がるソラを、闇から見つめる者がいた。
※ ※ ※ ※
そして、3回目の夜の事である。紅月は少々納得のいかない顔を太陽へと向けていた。
薄くてサイズの大きなシャツ一枚を羽織っただけの太陽が艶然と微笑んでいる、その足元に。
「そうがっつくな、黒鉄」
ずんぐりとした大きさの黒い体毛が全身を覆う、それは。
「……やはり、ワーウルフと交わるなど……納得ができません」
華生とは違う、教会に追われるワーウルフ。
黒く艶やかな毛並みを持つ彼を拾ったのは随分昔だと言う。それこそ紅月が生まれる前の話だ。黒鉄、と呼ばれた彼はその狼のような顔を曝し、体毛に覆われた手で太陽の足首をそっと握っている。力加減を間違えると折ってしまうから、とても慎重に。しかしそれを忘れてしまいそうになるくらい一心不乱に太陽の足に舌を這わせていた。そこはわざと塗り付けたクリームで汚れている。
「別に俺が交わるわけじゃない。それともあいつの心配か?」
「貴方の身体が穢れるのを心配しているんです」
紅月は、同居人である吸血鬼がここを嗅ぎ付けているかもしれない、と報告した事を後悔した。それを聞いて、あまり悠長にはしていられないな、と呟いた太陽は夜になってこのワーウルフを呼んだのだ。
「一度きりだ。これで全てが終わると思えば安いものだろう」
それに、と彼は菩薩のように微笑んだ。
(俺だって獣姦されたことはないからな)
どんな絶望が彼を襲うのか、楽しみで仕方がない。
「ソル……。……!!……マタ……間、違エタ。たいよう、全部ナメタ。ご、褒美……まだカ?」
黒鉄は新しい名に馴染まないのか、何度訂正しても真名を呼ぶ。その度に、ハッと音がしそうなくらい身体全体で反応する様が少し面白いと、太陽も敢えて放置している。
「まだ残ってる」
「ア、ほんと、ダ」
足の指の間を湿った舌でれろれろと舐められ、ぞくりと擽ったさとは違う何かで肌が粟立った。
「ん、……」
微かに上擦った声が洩れて、たった2日で随分敏感になったもんだなと笑う。元々の素質だろうか。
「太陽様……」
複雑そうな紅月を見上げ、彼が望んでいる言葉を選んだ。
「あいつの魂を壊したら、後はお前だけにするよ」
指先で招かれて、舐めろとクリームを塗り付けた唇に紅月は犬扱いですか?と囁いて口付けた。
「ズルい、ぞ。こうげつ」
「お前は今からもっとイイ思いをするだろう?」
「そう、なのカ?」
「ベッドまで運べ」
目の前の男に腕を伸ばす。紅月はひどく渋々といった顔のままその細身の身体を抱き上げ、柔らかなベッドへ降ろした。
「黒鉄、お前の好きにしていい」
「ン?……すき、に?」
頭に?マークを沢山浮かべるワーウルフの足の付け根に手の平を這わせる。
「そう、ここで……お前の好きにしろ」
「イイ、のカ?」
「但しこの身体を傷付けるなよ。俺のだからな」
「わ、ワカッた!」
本能に従い段々息の荒くなる狼面が近くなって、太陽は身体を横たえた。
(精々いい声で鳴くんだな)
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