猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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リリアーナ編

82.祝杯(2)

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「あなたには何の非もないというのに、ずっと理不尽な扱いを受けてきたのですから、当然ですよ。まぁ正直生温い罰でしたけれど、あなたの心からの笑顔が見れたので良しとしましょうか」

ラファエロも満面の笑みを返してくれたのが、リリアーナは何よりも嬉しく感じる。
マリカの言うとおり、ラファエロのこのような表情は自分だけに向けられるものなのだろうか。
胸の中で疼く気持ちが、どんどん自己主張を始める。

「グロッシ侯爵も今回ばかりは後悔していたようですし、今日の事件が無かったとしても、遅かれ早かれ婚約解消にはなったでしょう。それでも、あなたがお父上の期待に応える為に努力し、目標を達成した事は本当に素晴らしいと思います」
「そんな………」

手放しで褒められ、はにかみながら微笑みながら、リリアーナはふとあることに気がついた。

(私、ラファエロ様にそこまで詳しいお話をしたかしら………?)

クラリーチェには、ジュストと婚約した経緯や父の思惑については話したが、もしかしたらそれがラファエロに伝わったのだろうか。
だが、クラリーチェの性格から考えると、それは考えにくい。

いつの間にか眉根を寄せていたリリアーナに気がついたラファエロが、口を開いた。

「………兄上と私の許には、様々な情報が集まってきますからね」

まるでリリアーナの心を読み取ったのかと思うほど正確に彼女の疑問に答えると、ラファエロは得意げな笑みを浮かべると、葡萄酒を一気に煽る。

「………といっても、大体はグロッシ侯爵お父上やウルバーノから聞いたのですが」

付け足された言葉で、リリアーナは漸く納得した。
グロッシ侯爵家は、エドアルドの手腕に早くから注目し、彼を助けてきたのも父や現宰相のカンチェラーラ侯爵ら穏健派の貴族たちだ。
自分の婚約は政略的な意味合いしかなかったが故に、父や兄がブラマーニ家の動向を含めてエドアルドやラファエロに報告していたのだろう。

「そうだったのですね」
「………まぁ、あのような方法で婚約解消を勝ち取るというのは、………ほんの少し予想外でしたが」

ぽつりと呟いたラファエロは思い出したように小さく笑い声を上げた。

「………それは………っ」

ラファエロの反応に、リリアーナは恥ずかしくなって頬を染めながら俯いた。
あの場にラファエロがいると分かっていれば、流石にジュストを殴りつける真似はしなかったかもしれないが、そんな事を言っても今更どうしようもない。
だが、そのお陰でラファエロに手当をして貰い、婚約解消が出来たのも事実だ。

「恥じる必要などありませんよ。本当に見事でしたし、あの行為のお陰でブラマーニの面々に隙が生まれましたしね。………それに言ったでしょう。私は強い淑女レディが好きなんです」
「…………っ!」

揶揄われているのだろうか。
そうだとしてもリリアーナの心臓はこれ以上ないくらいに早く、強く脈打って、頬は先程よりも熱くなっていた。
返す言葉が見つからず、ぎゅっと目を瞑るリリアーナを、ラファエロが穏やかな笑顔で見つめ続けていた。

(今夜は、眠れそうもないわ………)

リリアーナは静かにそんなことを考えながら、更けていく夜をラファエロと過ごしたのだった。
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