黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

文字の大きさ
39 / 166

39.宴の始まり

しおりを挟む
そのまま愛し合いたいと思ってしまったけれど、もう少しで宴が始まる。
私は僅かに残った理性でアデルバート様を引き剥がすと、湯浴みをさせて着替えを済ませてもらうように促した。
アデルバート様はキスを中断されてとても不満そうな顔をしながらアデルバート様が渋々私から離れた。
流石に湯浴みのお手伝いは恥ずかしくて出来なかったけれど、湯上がりの髪を整えたり、身支度を手伝ったりはした。
アデルバート様はどこもかしこも本当に美しく、どの部分をとっても芸術品のよう。
この方の隣に立つのは、中々に勇気と覚悟がいる……と思っていたけれど、改めて観察すると、最早人間の容姿としてレベルが違いすぎて諦めの境地になるのだと感じた。

「そろそろ広間に向かうとしよう。……その前に」

アデルバート様は燭台に灯された蝋燭の炎に手を近づけた。……火を消すおつもりかしら?
すると、アデルバート様の手が仄かな光に包まれ、炎を包む。

「アデルバート様、手が……!」

火傷を負ってしまう。私は慌てて止めようとした。
けれど、アデルバート様は私を静止し、じっとご自身の手を見つめた。
炎が揺らめき形を変え、やがて炎は一輪の深紅の薔薇になった。
アデルバート様はその薔薇を、私の髪に刺した。
不思議な光景に、私は呆然とする。
こんな火炎魔法は、見たことがなかった。
いくら黒焔公爵とは言っても、所詮は人間。炎から物を生み出すだなんて、神の領域としか思えない。

「これでお前の全身が、私の色になったな」

その言葉に、呆けていた私は体温が急上昇するのを感じた。
そうだったわ。今日の色彩はアデルバート様の瞳と髪の色だったわ……。

「行くぞ」

何故か機嫌の良さそうなアデルバート様にエスコートされて、私は真っ赤な顔を隠しながら広間へと向かった。


会場には既に多くの人たちが溢れていた。
スモーガスボードには沢山の料理が並べられ、酒などの飲み物も数種類ずつ用意されている。
音楽に合わせて踊る人たちや、会話を楽しむ人、料理やお酒を楽しむ人。みな思い思いに過ごしているけれど、無事に討伐を終えた安心感のせいか表情が明るかった。

「黒焔公爵ご夫妻がいらっしゃいました」

私達の入場を告げる声と同時に、視線が私達に集中する。
……大丈夫よ、私はおまけ。アデルバート様の美しさに霞んで見えやしないわ。
緊張で震えそうになる自分にそう言い聞かせながらアデルバート様の歩みに合わせて上座へと進む。
ざわざわと囁く声と人々の視線。

「あの方が黒焔公爵様の奥方様……」
「初めてお目にかかるわ……」

耳に入ってくる会話を、聞かないように違うところに意識を飛ばしたい気分になった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...