黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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40.アデルバート様とのダンス

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「今回の討伐は一人の犠牲も出すことなく、無事に帰還出来た事を嬉しく思う。誠に大儀であった」

アデルバート様は玉座から、集まった面々に対して労いの言葉を掛けた。
堂々たるその姿は、流石最恐将軍と謳われるだけあって威厳に満ちている。
改めてこの場所から人々の顔を見ると、何というか、穏やかな表情をしているように見えた。

「妻のシャトレーヌが、この宴を用意してくれた。皆、それぞれ楽しんでくれ」

突然紹介されて、私は慌てて淑女の礼をとった。
私は注目されなくて良いのですけれど。
不満を込めてアデルバート様を軽く睨むけれど、アデルバート様は涼しい顔をしながら私に手を差し出した。……一体今度は何のつもりかしら。

「一曲お相手願えないだろうか、シャトレーヌ?」

それは、まさかのダンスのお誘いだった。……私が、アデルバート様とダンス?
……私自身はダンスは得意な方だ。体を動かすのは元々好きだし、運動神経も悪くはないけれど、アデルバート様と踊るだなんて……。
夫婦だから当然といえば当然なのだけれど、変な風に意識してしまう。
……でもこれ、断れる雰囲気ではないわ。
私は渋々差し出された手に、自分の手を載せた。
ぐいっと腰を抱き寄せられると、アデルバート様は優雅な足取りで私を連れ出した。

「……皆が、見ております」
「お前の美しさに、見惚れているのだ」

いえ、それはアデルバート様にです。と言いたかったのだけれど、遠巻きに見ている参加者達からの囁きに、私は耳を疑うことになる。

「美しい奥方様だ……」
「まるで、花の妖精のような方」
「本当にお似合いね」

戸惑いを隠せずにふと、アデルバート様と視線がぶつかった。
するとアデルバート様は口元にだけ薄く笑みを浮かべた。

「騎士やその身内からの評判は上々だな」
「ええと……」

私はなんと答えて良いのかわからず口籠る。
冷静に考えて見れば、これはお世辞に違いない。黒焔公爵様の前で、妻の悪口を言う人など命が惜しくない人しか考えられないもの。

「何と言っても、お前は今回の討伐において、一番の功績を上げたのだからな」

ああ、アミュレットの……。あれは多分偶然なのだろうけれど。
でも、例えそれが偶然だったとしても少しでも私がお役に立てたのならそれは本当に嬉しいことだわ。
実力の程度が知れているので、必要以上に期待されるのは、困ってしまうのだけれど。
そんな複雑な気持ちを胸に、私はアデルバート様とのダンスを楽しんだのだった。
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