黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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69.違和感

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「シャトレーヌ……」

アデルバート様の腕に力が込められる。

「そのような事を言われたのは、初めてだ……。お前は、私を怖いとは思わぬのか?」

私を抱きしめるその手が、僅かに震えているように感じた。

「……どうして、怖いと思うのですか?アデルバート様は私の夫であり、最愛の人ではありませんか」

私はアデルバート様の手に、自分の手を重ねた。

「それに貴方は、王都で噂されているような残虐で冷酷無情な方ではなく、誰よりも優しい心を持った方だと、知っていますもの。だって、私は貴方の『春の姫』ですから」

そう言って、私は心からの笑顔をアデルバート様に向けた。

「そうか。……そうだな。お前の言うとおりだ」

アデルバート様は、ふっと微笑んだ。

「すまん。女々しい所を見せてしまったな」
「いいえ。アデルバート様の全てを、受け入れる覚悟はできておりますもの」

むしろ、アデルバート様の人間らしさを垣間見れた気がしたわ。炎の竜のお陰なのかしら。
そんな事を考えて、私はふと浮かんだ疑問を口にした。

「でも、何故急に炎の竜が暴れだしたのですか?スネーストルムの気配を感じ取っているのだと仰ってましたが……」

氷の魔法に反応したのだとしたら、リーテの村に入ったときにだって暴走したはずだ。
でも、あの時のアデルバート様の様子は変わりなかった。
だとしたら、氷の魔法に反応したのではないということ?

「そうだ。スネーストルムの気配が近いから、炎の竜が反応した。……お前は、違和感を覚えなかったか?」
「何が……でしょうか?」

アデルバート様の言葉に、私は首を傾げた。違和感?何かおかしな事があったかしら?

「あの男……アルヴァの事だ」

アルヴァ?あの青年が何だと言うのかしら?
まさかとは思うけれど、私のことを女神だと言ったことを、まだ根に持ってらっしゃるのかしら。

「あの、彼はまだ病み上がりで、あの時も目が覚めたばかりで意識が混濁していたのだと思います。だから……」
「別に、シャトレーヌを『女神』だと言ったのを恨みに思っているのではない。言っておくが、私はそのように狭量な男ではないからな」

……どうやら、違っていたようだわ。
あの時は確かに敵意を剥き出しにしてらっしゃったと思うのだけれど。

「あの男は……おそらく、スネーストルムの者だと思う」

アデルバート様の言葉に、私は驚いて顔を上げた。
そこにあったアデルバート様の表情が、いつの間にか険しいものに変わっていた。
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