黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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117.アルヴァの婚約者

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「婚約者の、形見………?」
「はい。………婚約者とは言っても、かのじ家同士で正式に認められた存在ではなく、お互いに将来を誓いあった存在ですが………」

私は、着替えたばかりのドレスにそっと手を触れた。
そんな私の反応を見て、アルヴァは困ったような顔をした。

「そんな顔をしないでください。もう、過ぎたことですから………」
「でも………」
「仕方なかったのです」

そう言って、アルヴァは寂しそうに笑った。

「あの………もし宜しければ話を、聞かせてくれませんか?」

私は、先程の椅子に腰掛けると、アルヴァにも座るように勧めた。
アルヴァは静かに、椅子に腰を下ろす。

「………彼女は、リーテの村娘でした。気が強くて、明るい………でも優しい人でした。………彼女に出会ったのは、密偵としてエルヴァリグルへと潜入していた時でした」

ゆっくりと、アルヴァが言葉を紡ぎ始める。

「彼女は、なんの警戒もなく私に話し掛けてきました。くるくると表情を変えるその様に、私は目が離せませんでした。何度か逢ってお互いを知るうちに、いつの間にか彼女に心奪われていたのです」
「………きっと、とても素敵な方だったのね」
「はい。一緒にいて、あんなに心が安らぐ人は初めてでした。きっと、この先も………」

アルヴァは、そう呟くと天井を仰いだ。

「彼女と知り合ってから、一年後。私は彼女に、自分がスネーストルムで、エルヴァリグルには密偵として潜入していたことを正直に明かしたのです」

だんだんと、アルヴァの顔が曇っていく。

「婚約者は、何と………?」

この公爵領に来てから、この地に住む人達にとって、スネーストルムがどんな存在であるかは、十分に分かっているつもりだ。
スネーストルム。それは、忌むべき、憎むべきであり、絶対悪。そして、決して相容れない存在であるということ。
その価値観は、共通認識となっていて、それに背くということは、村を追われることになるだろう。

「彼女は驚きはしましたが、否定はしませんでした。そして私を拒むどころか、スネーストルムであると明かしてくれたことに対して、感謝の言葉を口にしてくれたのです。………その時に私は、一生を添い遂げるのは彼女意外にはあり得ないと確信したのです」
「………素敵な、女性だったのね」
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